アウトサイダー志願者 待ちに待った昼休みがきた。魔法なんておとぎ話だと思ってたから、どの授業も楽しくてあっという間に時間は過ぎていった。たまにジェームズ達が悪戯を仕掛けて、授業が潰れたりもしたけど、それさえも刺激的で楽しかった。今まで学校生活でこんなに楽しいと思った事はなかったから、こんな日が毎日続けばいいのにと思ってしまう。弾む気持ちでセブルスとの待ち合わせ場所の中庭へリリーと一緒に向かう。
「なんだか嬉しそうね。」
「だって楽しいんだもん。」
「見てるこっちも楽しくなってくるわ。でも、いいの?私もお昼一緒にいて。」
「当たり前だよ。リリー、セブルスと仲良かったんでしょう?」
「そうだけど......」
「何かあったの?」
「いいえ、特にないわ。気にしないで。」
そう言った彼女の表情は言葉とは裏腹に浮かないように見えた。わたしが想像していた以上に 、二人の溝は深くなってしまったのだろうか。確かリリーがセブルスに距離を置き始めたのは 、彼が闇の魔術に傾倒していったからだったはず。昨日彼と話した感じだと、あまりそういう 風には感じなかったけれど、既に足を踏み入れてるのだろうか。もう手遅れなのだろうか、こんな時までネガティブに陥る自分に嫌気がさす 。まだ実際に本人から聞いた訳でもないし、手立てがない訳でもないんだ、と自分を奮い立たせる。しばらく歩くと、中庭の端にある大きな木の下で彼は待っていた。
「セブ……」
「First name昼飯の時間なのにこんな所でどうしたんだい?おや、リリーじゃないか。今日も可愛いね。」
「それはどうも。」
「おや、おやおや!そしてそこにいるのはもしかしなくてもスニベリーかい?」
「友達でも待ってるんじゃねーの。」
「こんな奴に友達はいないだろ!」
「それもそうだな!」
「……っ!」
「ちょっと、ポッター、シリウス!止めなさいよ!」
セブルスに声を掛けようとしたら、ジェームズとシリウスくんが此方へやってきた。何でこんな所にと思っていたら、ジェームズのポケットに忍びの地図が入ってるのが見え、それを見て待ち伏せしたのだと気付いた。きっとリリーが大広間に来てないのを不思議に思ったからだろう。普段の彼等は楽しく気の良い人達だけど、セブルスに関わる時の二人は大嫌いだ。意地悪そうに笑う彼等が。リリーが咎めると、ジェームズはそれが気に食わないのかまた食ってかかろうとしていた。
「わたしがセブルスに一緒に食べようって誘ったの。」
「……え、First name今何て言った?」
「わたしセブルスと一緒に食べるから。」
「お、おい、そんな奴より……」
「いいじゃない、ポッター、シリウス行きましょう!」
リリーはわたしにウィンクして、こっちは任せてと口ぱくでそう言い、彼等の背中を押して行ってしまった。どうしよう、折角二人の仲を少しでも昔のように出来たらと思ったのに。やっぱりどの世界でも上手くいかないものだ。きっと彼も久し振りにリリーと話せるの楽しみにしていただろうに、と申し訳なさそうに彼の方を見ると彼は何とも言えない表情をしていた。今彼は何を考えて、何を思っているのだろう。
「セブルス、ごめんね。リリー行っちゃった 。」
「何故謝るんだ?僕を誘ったのはFirst nameだろう?」
「いや、あのリリーいた方がいいかなって思って。」
「それは僕に対する嫌味か?誘っておいて二人っきりなのが嫌なのか、そうか。」
「ち、違う!違う!そんな事ない!」
彼は傷付いたという様な表情をして、スタスタと歩いて行ってしまった。しまった、そういう風に捉えられてしまったかと慌てて彼を追いかけ腕を引っ張る。
「くくく、冗談だ。からかい甲斐のあるやつめ。」
「うわ、本気で心配したのに!」
「騙される方が悪い、ほら行くぞ。」
すると彼は振り返り、口を手で押さえ笑いを堪えきれずに笑っていた。うわ、好き。笑った顔なんて想像出来なかったけれど、とても可愛かった。彼のその姿を見ていたら、何でも出来る気がしてくる。彼はそのまま歩き出し、その後に着いていった。着いて行った先は、中庭から少しあるいた湖が見える場所だった。木の木陰にベンチもあり、休むのに丁度いい。
「わたしお昼ご飯持ってきてないんだけど。」
「お前の分も用意してある。とりあえず此処に座れ。」
「うん、ありがとう!」
ベンチに着くと彼は座ったので、此処が目的地という事が分かった。だけど、此処で食べるとは思っていなかったから何も用意していない。その事を伝えると、彼はバスケットを差し出し 、そのバスケットの蓋を開けるとそこには色とりどりのサンドイッチとオレンジジュースが入っていた。
「うわあ、これどうしたの?」
「厨房でしもべ妖精に作ってもらった。」
「へー、粋な事するじゃん。」
「まぁな。」
予想だにしていなかったので、感動で気持ちが高ぶってしまう。彼は褒め慣れていないせいか 、ぶっきらぼうに返事をするが、顔は真っ赤でとても可愛い。かというわたしも、嬉しさと照れくささで顔が真っ赤だろうけど。昨日出会ったばかりのはずなのに、何でか昔からの知り合いのようだ。思い入れが強いせいで、そう思ってしまうのだろうか。サンドイッチを食べていると、ふわっと心地良い風が吹く。お互い何も喋らず、ただ食べてるだけだけれど、どこか気 まずさは全くなかった。そんな沈黙を彼が破った。
「ひとつ、聞いていいか?」
「うん、何?」
「あのだな、First nameは何で僕に構う?初めは僕の事を知らないからだと思ったが、今はあいつらから僕の事を聞いてるだろう?」
さっきまで吹いていた風が突然止む。草も木も花も静かになる、全てが静止してしまったかのような静けさがわたし達を包む。
「それは彼等の主観でしょう?わたしはセブルスと実際に話して、関わってみて、居心地がいいと思ったし、不器用だけど優しいの知ってる。」
「......」
「あれ、わたし変な事言った?」
「いや、First nameは変わってるなと思っただけだ。」
「セブルスには言われたくないですー。」
最初は確かに下心があった状態で、彼に積極的に関わろうとしていたけれど、昨日今日と彼の優しさに触れて素直に一緒に居たいと思ったのだ。恥ずかしかったけれど、隠さず本音を言ったのに彼はまた微妙な表情をしていた。その反応に不満を漏らすと、彼は小さく呟いたのをわたしは聞き逃さなかった。
「......僕もお前といるのは嫌いじゃないけどな。」
驚いて持っていたサンドイッチを落としそうになる。聞き間違いじゃないだろうか、そう思って彼の方を見ると耳を真っ赤にしていたから、聞き間違いじゃないんだと確信した。それと同時にわたしも何だか恥ずかしくなってきて、顔が赤くなってくるのを感じた。セブルスは友達、セブルスは友達、そう頭の中で呟いて気持ちにストッパーをかけないとどうにかなってしまいそう。
「あ、ありがとう。嬉しい。」
「……ああ。」
横を向くと、真っ直ぐ前を向いたセブルスが優しく笑った、気がした。今までにこんなに綺麗な笑顔なんて見たことない。胸がドキドキ耳まで響く程早く高鳴っている、『彼の幸せ』それ以上は求めないつもりだったのに、一緒にいればいる程欲張りになっていってしまう。
「……」
「どうした?」
「えっと、このサンドイッチ美味しいなあって。」
「そうか、それは良かった。」
あまりにも綺麗すぎて見惚れていた、なんて恥ずかしくて言えない。もし、もし仮にわたしがそのまま言っていたら彼はどんな表情をするのだろう?顔を真っ赤にして照れる?からかうなって怒るかな?それともまた何を考えてるか分からない表情をするのだろうか。彼にとって迷惑な存在にはなりたくない、そう思って本心を言わずに誤魔化した。ふわふわ、心が浮かんでるような感覚に陥る。ずっと、この時間が続けばいいのに。そういう風に思う時に限って、時間は速く進む。時間は、神様は、とてもいじわるだ。
「もうすぐ、授業始まるな。」
「そうだね、もう行こっか。」
「あぁ。」
「セブルス、ありがとう。」
「……あぁ。」
彼は一瞬驚いたような顔をして振り返った。でも、すぐに前に向き直って、すたすたと歩き始めた。遅れるぞ、とわたしの腕を引きながら。
アウトサイダー志願者(この空間が落ち着く、なんて)
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