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ロンリーガール        




「有り得ない……」

いつもは寝坊なんてしないのに、昨日は寝てもすぐ目覚めてしまいまともに眠れなかった。時計を確認し急いで身支度をし駅へと向かう、昨日予め行き方を確認していて正解だった。ダンブルドア先生は2日前に出ており、その際一緒に来るかと言われたけど友達作りの為にそれを辞退した。その結果がこれだ。ぎりぎり列車には間に合ったものの、コンパートメントは何処も満席だった。

「ついてないなあ」

一人愚痴を零し、大きな荷物をガラガラと引きながら空いてる席を探す。最後尾の車両まで行き、半ば諦めかけたところで一人しか居ないコンパートメントがあった。中にいるのは男の子だけど、この際仕方ない。女の子の友だちを作るいい機会だと思ったのだけれど。今朝の自分を恨みながら扉をノックして入る。

コンコン

ガラガラ

「ここ、座ってもいいですか?」

「……!」

この世界に来て初めてダンブルドア先生以外の人と話すから緊張していて、声が少し震えてしまった。その男の子は読んでいた本から顔を上げ、わたしを見た。眉間に皺よせてるあたりその男の子は不機嫌だとみた。迷惑だったのだろうか、そう思い引き返そうとした直後その男の子は口を開いた。

「……構わない」

「え、」

「僕は座って構わないと言ったんだ。嫌なら出てけ。」

「いやいや、ありがたく座らせてもらいます!」

「……フン」

ずいぶんと偉そうな人だなあ、絶対友だちが少ないタイプだと思いながら手荷物を中に入れる 。さあ、どうしたものか。棚に荷物を置こうとしたけど、身長が低いせいで届きそうもない 。かといって、席に置いとくのも邪魔だ。どうしようかと悩んでいた所、先程の男の子が声をかけてきた。

「貸せ、僕が置いてやる。」

「……ありがとう。」

「ああ。」

人は見かけによらないって言うけれど、彼がまさにそれだと思う。無愛想だけれど、きっと優しい人なのだろう。彼に荷物を棚に置いてもらい自分は席に着いた。すると、寝不足と朝からドタバタと忙しくしたせいで眠気が襲ってきた 。規則的な列車の揺れが、揺り籠のようで眠気に勝てそうにない。ホグワーツに着くまで時間はあるし一眠りでもしようかな、と思い目蓋を閉じた。




「おい、おい!」

「んー」

眠りに落ちそうになったところで、件の男の子の声によって起こされた。せっかく熟睡出来そうだったのに邪魔をして、と心の中で悪態をつきながら男の子の方を向く。

「そ、そのだな。頭、痛くないか?」

「へ?」

「さっきから、ガンガン頭を壁にぶつけてたから。……その音が気になって、読書に集中出来ない。」

「あ、ごめん……」

ちょっと心配してくれたのかな、ってときめいた自分が馬鹿みたいだ。迷惑かけた申し訳なさと、恥ずかしさがわたしの心の中で渦巻いた。確かに言われてみれば頭が痛い。だけれど、乗り物の中で眠ると寄りかかる癖はなかなか直らない。だけど、眠いしとどうしようかと悩んでいると、その男の子は言葉を続けた。

「あのだな、」

「まだ何か?」

また文句だろうと思って、わたしは不機嫌な顔を向ける。だがその男の子を見ると先程の不機嫌そうな顔はなく、なんとも言えない表情で小さく呟いた。その声は耳をすまさないと聞こえないくらいに小さかった。

「壁に頭置くとぶつかって痛いだろ?なんなら、僕の肩を貸してやる。」

それを聞いたわたしの頭の中は、はてなマークで一杯になった。呆然と男の子の方をよくよく見るとわたし好みの、黒髪色白病弱そうの三拍子全部に当てはまっていた。それに、突き放すように最初は言うのに結局は優しい、これってなんだかツンデレみたいだ。彼のことよく知らないけど、惹かれるのを感じた。わたしが黙っていると心配になったのか、「嫌なら別にいいんだ。」と少し落ち込んだように先程よりも更に小さく呟いた。その姿に胸がきゅんと、ときめいた。

「ううん、助かるよ。ありがとう、肩借りるね 。そうだ、着く10分前に起こしてくれると助かるんだけど。」

「ああ。」

わたしはその男の子の隣に移動して肩に頭を乗せ、また眠りについた。やばい、洗剤のいい香りがする。これはいい夢が見れそうだ、と思った所で意識は飛んでいった。










僕は一体どうしたのだろう、見ず知らずの女に肩を貸すなんて。だが、何故かは分からないが嬉しかったんだ。僕の事を嫌がらなかったから 。唯一の友達のリリーは今では僕以外の友達が沢山出来て、徐々に一緒にいる時間は減っていった。表面では独りでも気にしない素振りをしていたが、本音は寂しかったのかもしれない。彼女の顔を今まで見たことないから、新入生でただ僕の事を知らなかったからだと思う。それでも、嬉しかった。隣ですやすやと無防備に眠る彼女を見て笑みが零れてしまった。僕らしくない、とは思う。だが、どうしてだろうな、考えるより先に口が動いてしまった。この空間が落ち着く、そう感じていたところに嫌な予感が頭の中に過ぎった。

ガラガラ

「よお、スニベリー君!今日も相変わらずのベタベタ髪だね。……おい、シリウス!スニベリーに彼女だ!」

「どうせ、あいつに似た不細工だろ。」

あいつ等だ。今最も会いたくない人No.1とNo.2の、ポッターとブラックだ。僕だけなら ともかく、隣の彼女には迷惑をかけられない。早く追い出さなくては、とは思ったものの横にいる彼女で動く事が出来ない。だけど、せっかく気持ちよさそうに寝ている彼女を起こす訳にもいかない。ただ、黙って時が過ぎるのを待つしかないのか。

「いや、それがさ結構可愛いんだよ!」

「はあ?まさかそんな訳……」

そう言ってブラックが彼女の顎を持ち顔を上げさせた。

「確かに可愛いな。」

「だろ!」

安々と彼女を触るブラックが何故か許せなくて 、思わず体が動いてしまった。そんなつもりはなかったのに、僕には関係のないことなのに。

バシッ

「彼女に、触るな。」

「……」

僕は彼女に触れていたブラックの手を叩いた。ブラックもポッターも僕のその行動にすごく驚いた顔をしていて。だが、一番驚いたのは僕自身だ。その時、今の物音と振動で目を覚ましたのか、彼女が起きてしまった。

「ん、今の音な……」

「ねえキミ、スニベリーと付き合ってるの?」

「スニベリー?付き合ってないけど……」

余計な事を。ますますポッターが憎くなったと同時に、恥ずかしさと悔しさと寂しさがこみ上げ、ずっと下を向いていた。ちらりとブラックの方を見ると、意地が悪そうな顔をして笑いながら僕を見ていた。

「やっぱりな。こんな陰険な奴といないで俺らの所へ来いよ。」

「え、でもわたしは……」

ブラックは彼女の腕を取り、自分の元へと引き寄せようとした。僕は、何も出来なかった。彼女には此処にいて欲しかった。けど、僕はまだ彼女の名前さえ知らない、何も止める理由も、関係もないのだ。きっと僕なんかより彼女はブラックを選ぶのだろう、誰だってそうだ。

「ごめんなさい。わたし、貴方みたいな人苦手なの。」

ニコッ、と彼女は笑ってポッター達をコンパートメントの外に追い出した。その時のブラックの顔といったら間抜け面そのもので、笑いを堪えるのが大変だった。まさか断られるとは思ってはいなかったのだろう。僕はといえば、ますます彼女が気になって仕方がなかった。

「あぁ、寒気がした。」

「ブラックの誘いを断るとはな。」

「ブラック?」

「お前、知らないで断ったのか?」

「うん、わたしああいう軽い人苦手で。」

けらけら笑う彼女は、僕にとって眩しかった。僕はそんな風には笑えない。何で知らないのかと聞いてみると、今年の編入生だからと言っていた。編入生だなんて、珍しいな。

「あ、そうだ。自己紹介がまだだったよね、わたしはFirst name・Family name。よろしくね!」

「僕はセブルス・スネイプだ。」

差し出された手を取り、握手をした。その手を取った瞬間、今まで憂鬱だった学校生活も少しは楽しくなるかもと思う自分がいた。






ロンリーガール
(僕 の 希 望 の 光)



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