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大好きで大好きで大嫌い   


嫌な夢をみた。それはわたしのいた世界で起きた事のようだった。幽体離脱をしてるかのように、わたしは「わたし」を頭上の上で見下ろしていた。周りを見渡すと、色鮮やかな色で溢れているのに、わたしの周りだけが色褪せていた 。周りにいる人々は自然に笑えているのに、わたしだけがぎこちない笑い方だった。周りにいる人々と「わたし」の間には、分厚い壁が立ちはだかっていた。一体これらの映像に何の意味があるのだろう。
カシャ。そんな音と共に視界が真っ暗になって 、気付いた時にはわたしはまた違う所に立っていた。今度は「わたし」はいない。この映像はわたし自身の視界という事か。空は憎たらしい程の綺麗な青空で、眼下には灰色の校庭。振り向けば背後に柵があった。どうやら屋上の柵を乗り越えていたようだ。足元に手のようなものが引っ張ってきて、その手に引かれるまま屋上から飛び降りた。







「First name起きて!」


暗闇からわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。その声に誘われるがまま光のある方へ歩いていくと、眠りから覚めた。動悸が激しい、さっきのは本当にただの夢なのだろうか。あまりにもリアルな夢に寒気がしてきてしまう。誰かに背中をさすられ、その人物を見ると心配そうな表情をしたリリーがいた。


「大丈夫?すごく魘されてたけど。」

「大丈夫、ただ嫌な夢を見ただけ。」


リリーはポケットからハンカチを取り出し、わたしの額にあてた。どうやら寝汗をかいていたらしく、首筋を触るとじとりと生温い汗が手に纏わり付いた。ああ、もう本当になんなんだ。状況が好転するかと思えば、すぐこれだ。


「First nameひとりで大丈夫?今日用事があって出掛ける予定だったけど、もし体調悪いなら、」

「わたしなら大丈夫だよ。本当にただ嫌な夢を見ただけだから、気にしないで。」

「そう?それじゃあ、私行くけど、ちゃんと朝ご飯食べるのよ?」

「うん、分かってる。いってらっしゃい。」


リリーが部屋を出るのを見送ってから、自分も制服に着替え始める。昨夜はいい気分で寝たはずなのに、なんであんな夢を見たのだろうか?これも現実から逃げるな、という神のお告げのようなものなのだろうか。だとすると、わたしに残された時間は僅かかもしれない。準備を終え、談話室に向かった。談話室に入るとそこには、ジェームズくんを除いたいつものメンバーがいた。


「みんなおはよー」

「やあFirst name、おはよ」

「お、おはよう」


リーマスくんとピーターは挨拶を返してくれたのに、シリウスくんは無反応だった。昨日仲直りをしたと思っていたのはわたしだけだったのだろうか。(元々喧嘩していた訳ではないけれど。)また無視されるのもムカつくし、今度は 名指しで声を掛けてみる事にした。もしかしたら、さっきは考え事をしていて気付いていなかった可能性もあるし。


「シリウスくん、おはよう!」

「あ、ああ。おはよ……ってえ!何すんだよリーマス!」

「君がボーっとしてるからだろ?」

「ぷ、あはは!」


挨拶をしても返事を返さないシリウスくんを見兼ねてか、リーマスくんは彼の頭を叩いた。そして、わたしに向けて冗談っぽく笑いながらウィンクをしてきた。グッジョッブ、リーマスくん!


「笑うなよ!」

「あー!せっかく髪整えたのに、ぐしゃぐしゃにしないでよ!」

「First nameが笑うからだろ!」

「だってシリウスくんのあほ面が面白かったんだもん、仕方ないじゃない。……あれ?リーマスくん達は?」

「あいつら置いてきやがったな。」

「みたいだね。」

「俺たちも行くか。……お手をどうぞお姫様?」

「……」


シリウスくんと言い合いしていたら、リーマスくん達がいなくなった事に気付かなかった。時間も時間だったから、先に大広間に向かったのだろう。それにしても、またこうやって話せる日がきて嬉しくて仕方がなかった。今朝憂鬱な夢を見ていた事を忘れさせてくれる程に。そんな事を考えていたら、シリウスくんがキザな台詞と共に手を差し出した。


「……黙るなよ、恥ずかしいだろ。」


突然の事で呆然としてしまい、反応を出来ずにいると彼は恥ずかしそうに徐々に顔を赤らめた 。そんなの、ときめかずにはいられないじゃないか。


「ごめんごめん、ありがとう王子様?」

「……おう」


こんな少女漫画みたいなシチュエーションが実際に起きるとは思わなかった。差し出された手に自分の手を添えると、ぎゅっと握られそのまま大広間に向かった。
大広間に着くと、リーマスくんたちの姿が見えて隣へ座った。「お前ら置いていきやがって」「お邪魔かなと思ってね」そんな会話が目の前で繰り広げられた。何気ない日常がこんなに楽しくて、愛おしいものだとは思わなかった。わたしのいた世界では、あの夢でみたぎこちない笑いしか出来なかったのに、ここでは自然に笑えてしまう。





「用事があるから先行ってて。」


朝食をとった後そうみんなに告げ、グリフィンドール生の波に逆らって歩いた。しばらくすると、漆黒の色した猫っ毛の男子を見つけ、彼に向かって走り出す。後ろ姿だけでも分かってしまう、それくらいずっと見ていたから。


「セーブッ!」

「おわっ!」

「そんな驚かなくてもいいじゃない。」

「お前、また急に、」

「へへへっ」


セブルスだと確信したわたしは音を立てずに、彼の背に飛びついた。彼は毎度の事ながら隙があり過ぎるから、わたしの不意打ち攻撃に面白い位に引っかかってくれる。まあ、大人になった彼は隙なんか全くないから、今のこの隙だらけのセブルスがとてつもなく可愛い。このまま育ったら一体どうなるんだろう。


「僕に何か用か?」

「そう!シリウスくんと仲直りしたことを報告しにきたの。」

「はあ?」

「この間セブがアドバイスしてくれたおかげだよ!」

「……そうか、良かったな。」


デジャヴだ。前回から学習しないなんて大馬鹿過ぎるでしょ、わたし。相談に乗ってくれてありがとう、おかげで解決したよ。そう言えばいいのに、余計な事まで言ってしまった。シリウスくんの名前を聞いた瞬間不機嫌になり、スタスタと去ってしまった。後悔先に立たず、今出来る事をしないと。慌てて彼の後を追いかける 。


「セブ!」

「なんだ」


不機嫌そうな顔はなおらないけど、名前を呼んだらちゃんと立ち止まって、振り返るとこは律儀でセブらしい。そんな優しいところが好きなんだよなあ。そうだった、ただ昨日のお礼を言う為だけに会いに来た訳じゃないんだった。


「あのさ、明日何か予定ある?」

「とくに用事はないが……」

「じゃあ一緒にホグズミードに行かない?」


相談に乗ってくれたお礼がしたいの。そう言えばくしゃと笑って頭を撫でて、お礼なんていい 。だって。本当はセブと一緒に行きたいだけなんだけどな。素直にそう言えない自分が恨めしい。会話をする事は簡単なのに、なんでホグズミードに誘うのはこんなにも難しいのだろう。


「そっか、じゃあ……」

「だが、一緒に行ってやる。」


「また今度行こう。」の言葉はセブの返事によって掻き消された。断られたかと思って俯きかけた顔を上げると、セブは照れ臭そうに笑っていた。その顔を見てると、こっちまで照れちゃうじゃないか。






きで大きで
 (このせかいからはなれたくない)



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