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ひゅるりひゅるり涙星    



あれから一晩ずっと考えていた。自分自身の事、みんなの事、今までの事とこれからの事。思えばわたしはわたしのいた世界の頃から色んなことから逃げていたのかもしれない。他人と向き合って、傷付け傷付けられるのは怖くて、本音でぶつからず、浅い人間関係しか作ってこ なかった。言いたい事も言えずに、嫌な事があってもヘラヘラ笑って気にしないふり。お互いに信頼しあっていないから、真剣な相談をする事も出来ない。そんなだから誰とも喧嘩はしないけれど、誰とも深い繋がりを作ることは出来なかった。ある意味では楽な道ばかり選んで、成長をしようとはしなかった。この世界にきてしまったのもきっと、“逃げてきた“から。今変わらないといけない。このまま薄っぺらい関係のままでは駄目だ。全てに向き合わなきゃ、自分の気持ち、シリウスくんの気持ち、そしてこの世界にきた意味を。 






今朝は考え込んでいて、睡眠時間が足りなくて眠いはずなのに不思議と気持ちよく目が覚めた 。いつも通りの時間に起きて、いつもと同じ朝のルーティンをこなしていく。
顔を洗って、目の前の鏡に映った自分は心なしか昨日の自分よりいい表情をしていた。自分の中で気持ちの整理がついたからだろうか、これも全てセブが背中を押してくれたおかげだろう 。洗面所を出て部屋に戻ると、リリーもたった今起きたようでベッドの上で眠そうに伸びをしていた。

「リリー!おはよう!」

「First name、あなたもう大丈夫なの?」

「うん、心配かけてごめんね。」

「本当に心配したんだから!」

わたしが声をかけると、リリーは驚いたような安心したような表情をして、飛び起きてわたしを抱き締めた。リリーには感謝してもしきれない。深く追及しない、それがあの時のわたしにはすごく助けられたのだ。自分でも分からないことを、気持ちを、誰かに話すのは難しいから 。リリーと一緒に談話室へ入れば、すでに馴染みのメンバーが揃っていた。シリウスくんを除いて、だけど。

「First name!もう良くなったんだね!」

「うん、お陰様で。みんなも心配かけてごめんね?」

「いいんだよ!僕の方こそごめん。」

「……?」

「気にしないで、僕が謝りたかっただけだから!」

「う、うん。…...シリウスくんは?」

「あー...…」

みんなは気まずそうに顔を見合わせた。答えを言わなくても彼らのその反応で察しはついた。きっと、女の子の所にいるのだろう。噂には聞いていた、女遊びが始まったって。事実、シリウスくんの周りには沢山の女の子がいた。女の子たちはきゃいきゃいと楽しそうなのに、シリウスくんは愛想笑いばかり。その表情は、わたしの苦手なシリウスくんの表情だった。

「馬鹿犬は女の子の処だよ。」

やっぱり。リーマスくんは呆れたように、ため息をつきながら呟いた。もしかすると、あの一件でリーマスくん達の間にも何かあったのだろうか。わたしのせいで。一気に弱虫のわたしが顔を出す。微妙な表情の変化に気付いたのかリーマスくんはわたしの頭を撫で「大丈夫、ケンカとかしてないから」そう言いながら、くしゃりと笑った。彼は本当に感情の変化を察するのが上手い、その優しさが胸を暖かくする。心配させまいとわたしも笑顔でそれに返した。





決心が揺らぐ。朝食から昼休み、そして放課後の現在までシリウスくんと話す機会は皆無だった。いつも彼の隣には綺麗な女の子達がいる。その中を割って話しかけるなんて、前向きになった今でも到底出来そうもない。そうこうしているうちに、いつの間にか空は晴れやかな青から今にも降り出しそうな曇り空に変わっていた 。シリウスくんを探していた足を止めて顔を空に向ける。いつまでもうじうじと話し掛けない自分に空さえも見放したようで、はあと深いため息をついてしまう。だめだめこんなんじゃ、前の自分と変わらないじゃないか。そう気を取り直し、歩を進めようと顔を正面へ向ける。すると、目の前には先程の自分と同じように空を見上げている男の子。きっと彼だろう。手をぎゅっと握りしめ、勇気を出して名前を呼ぶ。

「シリウスくん」

空からわたしへと視線が移る。驚ろいたような 、困ったような 、泣きそうな顔。いつもの完璧な彼らしくはないけれど、何故か安心している自分がいた。それは偽りの彼じゃなくて、素のシリウスくんだったから。彼の足は逃げるように向きを変えようとした。だけど、その足をもとに戻してわたしと視線を合わせた。

「First name」

きっとわたしたちは同じ目をしてる、なんとなくそう思った。それからしばらく視線を合わせたまま、無言の時間が続く。前の自分なら、すぐに逸らしていただろう。でも、今は違う。向き合うって決めたんだ。

「……」

「……」

「……ぷっ、あはは!」

「くっくく、ははは!」

いつまでも終わらない無言に何故だか笑えてきて、思わず笑い出す。でも、そうだよね。何が、ってわたしから声かけたのに何も話さないんだもん。無言が続くのは当たり前、そんな馬鹿な自分にも笑えてきた。すると、つられたのかシリウスくんも笑い出す。シリアスな雰囲気が台無し、その雰囲気を壊した本人が言うのもなんだけど。

「くっくくく……」

「シリウスくん笑いすぎじゃない?あはは!」

「First nameも笑ってるだろ」

「だって、なんか面白くて」

ほかほか、胸が暖かった。すごく心地がいい。リリーと一緒にいるときや、セブといる時とは違う安心感。前はとてもソワソワして、居心地悪かったのに。

「あの、さ」

「ん?」

「避けてて、ごめんな」

「ううん。わたしこそシリウスくんの事ちゃんと見てなかった。あの、鈍感でごめんね。」

「本当焦ったく思う位鈍感だよな。」

「う、だからごめんって!」

「くくくっ......冗談だよ。そういう所も含めて俺の好きなFirst nameだから。」

「う、あ、ありがとう。」


サラッとかっこいい事を言うもんだから、ドキッとしてしまう。余裕があるとこうも躊躇いもなく言えてしまうのだろうか。でも、今のシリウスくんは今まで見た中で一番いい表情をしていて、すごくホッとしている自分がいた。これからもっと君の事を知る事は出来るだろうか。わたしに残された時間はあとどれ位あるかは分からないけれど、もっと彼自身について知りたい。







ひゅるりひゅるり
(きみとわらいあいたい)



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