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嘘吐き少女の憂鬱      





僕の人生は上手くいかない事ばかりだ。はあ、と溜息をつきながら読んでいた本を閉じる。どうしても読みたかった本のはずなのに、全く内容が頭に入ってこなかった。原因は分かっているFirst nameの事についてだ。自分の気持ちに気付いた翌日First nameの表情はどこか浮かない様子だった。朝食時に様子を観察していると、リリーに話し掛けられても上の空だったり、曖昧に笑って誤魔化してばかりいるようだった。あれから何かあったのだろうか、タイミングを見て聞いてみるか。そういえばいつも食事の際彼女の隣を陣取っていたブラックを今朝は見かけなかったが、どうしたのだろう。僕にとって都合がいいからいなくても構わないが。


「おい、昨日から様子が変だぞ。」

「……そうかな、いつもと同じだよ。」


昨日はタイミングが合わずFirst nameと話す事が出来なかったが、放課後いつもの木の下へ行くと座り込んで遠くを見ている彼女がいた。今日も浮かない表情をしている、やはり何かあったのだろう。そう思って聞いてみると予想通りの答え、僕は彼女にとって頼りにならないのだろうか。そう思うと寂しく感じた。彼女の隣に座り、彼女と同じように遠くを見つめてみる 。言いたくないのなら、無理に聞き出しはしない。チラリと彼女の方を向くと今にも泣き出しそうな表情をしていて、焦ってしまう。こういう時はどうすればいいのだろう、恐る恐る彼女の背中を摩ると小さく「ありがとう。」と呟いた。目の前の湖にはカルガモの親子が仲良く泳いでいて、遠くからは男女のはしゃぎ声が聞こえてきた。お前達は能天気でいいな、なんて内心馬鹿にした。


「セブ、わたし自分が嫌い。」

「どうしてそう思うんだ?」

「もしかしたら、わたしは気付かないうちにみんなを傷つけてるのかな、って思ったの。」

「そんなの誰でもそうだろ?」

「そうかな……」

「人間は傷つき傷つけられて生きていくもんなんだ。」

「でも、傷つけたくないよ。」

「誰だってそうさ。僕は大事なのはその後だと思う。それに気付いてどうするか、どう行動するかによって関係は変わるんだ。そこで終わりか、より良くなるか。」


「そうだね。」と呟きながらも、項垂れているFirst nameの頭を元気づけるつもりで撫でた。するとコトンと僕の肩に頭を乗せ、その甘えるかのような行動にドキッと胸が高鳴った。その瞬間First nameと初めて会った時の事を思い出した。あの時もし彼女が僕のいるコンパートメントに来なかったら、僕は今みたいな学校生活を送っていなかっただろう。毎日がただただ過ぎていくだけ、幼馴染のリリーはどんどん先へ進んで輝いているのに僕はその場に足踏みしたまま。彼女と出会ってから僕は、僕の生活は、心は変わった気がする。空は此処に来た時はオレンジ色だったのに、すっかり黒色に染まりつつあった。いつのまにか脳天気なはしゃぎ声は消えていた。


「僕達もこの間色々あったけれど、その前より仲良くなったと思わないか?少なくとも僕はそう思ってる。それに、傷付けることはあるかもしれないが、誰かの助けになってる事もある 。」

「助け?」

「あぁ。僕はFirst nameに救われたよ。」

「わたしが、セブを?」

「あぁ。」


今なら何故リリーが僕から離れていったのか分かる気がする。彼女と寮が別れてから、薄々感じていた違いがはっきりし始めた。彼女には新しい友達が出来て、僕は何も変わらないそれに焦って強くなろうと間違った方向に走ってしまった。そこから徐々に闇の魔術の興味深さにハマり、目的が分からなくなって彼女の声も聞こえなくなった。なのに僕は周りのせいにした。段々僕の世界はモノクロになっていたんだ。人間が嫌いで自分も嫌いで、独りが好きで、だけどそれがすごく寂しくて。そんな毎日に嫌気がしてた時、First nameが僕のいるコンパートメントに入ってきたんだったな。初めこそはポッター達をあしらった物珍しさから話していたが、彼女の無邪気に笑う姿や僕の評判なんか気にせず僕自身を知ろうとしてくるその姿勢に惹かれ始めた。今では少しずつではあるがリリーとも元の友人関係に戻りつつある。これも全て彼女のおかげだ。


「本当にFirst nameと会えて良かったと思ってる。」

「なんか……面と向かって言われると照れるね。」

「……僕だって恥ずかしい。」

「セブのおかげで元気出た!そうだよね、逃げてちゃ駄目だよね。」

「あぁ」

「セブ、ありがと!」


何かに吹っ切れたような笑顔で彼女は僕の手を取り、ぎゅっと握った。その途端何か熱いものが手から流れてきた気がした。ほら、また君は僕を助けてくれる。人間らしくしてくれる。僕も思わず笑顔になって、城内に走って戻るFirst nameの後ろ姿を見送った。何が原因か何が解決したのかは分からない。だけど、これだけは分かる。明日彼女は変わる。






嘘吐き少女の憂鬱
(きみならのりこえられる)



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