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独りよがりの物語      



セブと話をしたせいか大分胸がスッキリした。不安や悩み、これからのことや噂についてだとか、問題は色々山積みだけれど、気持ちが軽くなった気がした。彼から逃げた罪悪感を消化出来たからだろうか、それとも話を聞いてもらったからだろうか。そのお陰か、あれから授業も全部きちんと出席したし、昼食も隠れずに大広間でリリー達と食べた。周りの囁き声が、自分の事について話してるんじゃないかと気にはなったけど、大丈夫これは気のせいだ、と自分に言い聞かせた。するとどうだろう、ぐちゃぐちゃに映っていた世界もほら日常に戻っている。友達だっていつも通りに接してくれている。そうして大変だった1日も無事に終わろうとしていた。ベッドに入り、眠りにつこうとするが、何か忘れてる気がして眠れなかった。瞼を開け 、周りを見渡すとリリー達はすっかり夢の中へ旅立っていた。うーん、とひとり記憶を辿る。そうだ、今日セブから借りた本を忘れてきたんだ。おそらくリリーと談話室で話している時にテーブルに置きっぱなしにしてしまったんだろう。借りた物だし、取りに行こうとカーディガンを羽織って階段を降りる。談話室に着き、置いてあったであろうテーブルを見てみるもそこには本はなかった。代わりにその目の前のソファに座っている人物が本を読んでいた。


「それ、わたしの……」

「あぁ、ほらよ。」

「ありがとう。」

「いーえ。」

「じゃあ、おやすみ。」

「ちょっと待てよ。」


その本を読んでいた人物はシリウスくんだった 。彼とは普段会わなさそうな時間にも何故かよく会う気がする。一緒に居ることが多いせいか 、行動パターンが似てきてしまったのだろうか 。本を返され部屋に戻ろうとするが、腕を掴まれ前に進むことが出来ない。不思議に思ってシリウスくんの方を振り向けば、何か言いたさ気な顔をしていた。次の言葉を待ってみるけど、一向に喋る気配はない。


「あのさ、噂、本当なのか?」

「何の?」

「スニベリーとキスしたって。」

「前から言ってるでしょ、その名前で呼ぶの止めてって。したにはしたけど、でも」

「付き合ってるのか?」

「シリウスくんには、関係ないでしょ。」


わたしが話終わる前に勝手な質問してきて、かつ相変わらずスニベリー呼びする彼に苛立ってつい突き放す言い方をしてしまった。しまった 、とは思ったけれどもう後戻りが出来るはずもなく視線を合わせないよう俯いた。腕を掴むその手が徐々に強くなってきて、離してと言ったけれどそれは逆効果だったようで、一層強く掴まれてしまった。痛い、腕が、胸が。この重苦しい空気が嫌で逃げ出したくなるけれど、ここで逃げたらまたあの時の二の舞になるそう思って彼の言葉の続きを待つ。ちらっとシリウスくんの顔を見れば苦しそうな顔をしていて、ずきっと胸が痛んだ。なんでそんな顔をするの?なんでそんな苦しそうな目でわたしを見るの?わたしとシリウスくんはただの友達でそれ以上でも、それ以下でもないはず。


「気に食わねえ。」

「何が?」

「スネイプなんかより俺の方がいいに決まってる。」

「だから、なんの話?」

「First nameの彼氏にどっちが相応しいか。」

「え、冗談は止めてよ。」

「冗談なんかじゃねぇよ。俺は初めて話した時からいつだって本気だったよ。」

「ありえな、」


わたしの言葉はシリウスくんによって吸い込まれてしまった。時間が止まったかのようにそれは長く感じた。実際は数秒にも満たないのだけれど、彼の唇の感触や、頬に添えられた彼の大きな手、そして今にも泣き出してしまいそうな瞳、それらが全てじっくりと現実だと感じさせた。唇が離れた今もわたしは状況が理解できず放心状態だった。だって、シリウスくんがわたしにキスする理由なんてないはずで。今までの軽口も全て冗談だと、他の女の子にも言ってるだろうと受け流していたけれど、彼が言うように本気だったとしたらこの状況にも納得がいく。だけど、理解は出来なかった。


「なんで、」

「ムカついたから。」


そう呟いた彼の表情はどこか悲しそうで、言葉に詰まってしまう。わたしはただ皆んなに幸せになって欲しいだけなのに、ただ笑ってほしいだけなのに、そんな顔させたい訳じゃないのに。心の中がぐちゃぐちゃになって、思わず涙が溢れてくる。泣きたい訳じゃないのに、泣きやめ自分。そう思えば思う程、涙はどんどん溢れてきて拭っても拭っても止めどなく流れた。彼は困ったように笑って、掴んでいた腕を離しぽんぽんとわたしの頭を撫でた。


「……意味わかんない。」

「First nameとスネイプがキスしたのが気に食わなかった。俺がどんなにアピールしても全然本気に受け取ってくれねえし。」

「他の女の子にも言ってるかと思って、」

「First nameと話すようになってからは、女遊びはやめたよ。気付いてなかったみたいだけどな。別に泣かせたかった訳じゃねえんだ、悪かったな。」


だからもう泣くな、そう言ってシリウスくんはわたしの頬に流れる涙を拭って、部屋へと続く階段を上っていった。最後に見た悲しそうに笑った顔が頭から離れなかった。彼の言葉を聞いて、わたしがどれだけ彼自身を見ていなかったかを思い知った。これじゃブーメランじゃないか、わたしこそ彼のイメージが先行し過ぎて、彼の事を、彼の良さを知ろうとしなかった。もしかすると全部自分の都合のいいように解釈していたのかもしれない、全部気付いていたけど見ないふりをしていたのかもしれない。わたしは何も成長していない、こんな気持ちになるなら此処に来たくなかったよ。





りよがりの物語
(じぶんかってだな、わたし)



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