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ストロベリーミントキス   


時刻は朝の7時。今日は休日だから私服に着替え大広間に向かう。休日のこの時間帯ならシリウスくん達は起きていないだろう。何故わたしがそんな事を気にしているかというと、今日は久しぶりにセブと2人っきりの休日を過ごそうと企んでいるからだ。聞くと彼は週末も早起きらしい。出会ってからもう何ヶ月も経っているのに初めて知った。週末に一緒にいる事はあったけれど、朝食を食べた後から合流する事が常だったから。こうしてみると生活スタイルが似ているかもしれない。大広間に入ると、スリザリン寮の席で本を読みながらひとり朝食をとる彼を発見した。静かに気付かれないようにセブのもとへと向かう。


「セーブ!」

「ぶふっ」

「うわっ、スープ吹き出さないでよ。」

「First name、何でお前、」


後ろから声を掛け、彼の両肩に手を置くと、余程驚いたのか飲んでいたスープをまるでコメディのワンシーンみたいに吹き出していた。あーあ、本が汚れちゃった。これはマダムピンスに怒られるぞと自分が原因なのを棚に上げ彼をからかう。彼はすごく動揺しているようで顔を真っ赤にしていた。魔法で自分が吹き出したスープを綺麗にしている彼の横にケラケラと笑いながら座る。


「急に背後から声をかけるな。」

「そこまでびっくりするとは思わなかったんだもん。」

「……今日は朝が早いな。」

「いつもこの時間に起きてはいたけど、談話室にいたから。だけど、今日は久しぶりにセブと休日を過ごそうと思って。」


しばらくするとセブはいつもの冷静な彼に戻った。顔色も血色のいい赤色から、また病弱そうな青白い色になっていた。きっと太陽が足りないんだ、1日の大半を室内か外へ出たとしても日陰で過ごしているから。彼の顔を見てぼんやりとそう思った。今日は外に連れ出そうかな。


「......そんなに言うなら一緒にいてやる。」

「素直じゃないなあ。」

「どうせひねくれ者だ。」

「そうふてくされないでよ。」

「わっ、止めろ!」

「素直じゃない罰ですー。」


思った事をそのまま口に出すと、セブはふてくされたようにそっぽを向いてしまった。そんな可愛気がない感じがまた可愛いんだよね、矛盾してるようだけど。髪をわしゃわしゃと触るとセブは案の定わたしの手を掴み止めさせようようともがいていた。その姿が懐かない野良猫のようで堪らなく愛おしく感じてしまう。


「僕はもう行く!」

「ごめんー!だから置いて行かないでよー!」

「からかい過ぎだ。」

「反省してます。」

「......じゃあ許す。」


わたしが謝ると足を止め振り返り、はにかんだ笑顔でそう言った。今まで見たことのないその表情にきゅっと心臓が掴まれたようだった。途端に心臓の鼓動も早くなり、何も考えられなくなっていく。そんな心情を知ってか知らずか彼はわたしの腕を取り歩き出した。歩みを止めたのは地下牢にある魔法薬学の教室の前だ。


「いつも此処にいるの?」

「大抵はそうだ、新しい魔法薬や呪文を考えてる。」

「セブは本当に勉強熱心だよね。」

「没頭してると何も余計な事を考えなくていいから好きなんだ。僕の休日はFirst nameからしたらつまらないだろう。」


彼はポケットから鍵を取り出しドアを開けながら、苦笑したようにそう言った。休日で鍵がかかっている教室にどう入るのかと思ったら、週末に実験や呪文を開発してるセブに鍵を貸してるようだった。通りで週末はあまり彼を見かけなかった訳だ。


「セブと一緒なら何でも楽しいよ、セブの事もっと知りたいし。」

「......よく恥ずかしげもなく言えるな。」

「本当の事だからね!」


それから昼近くまで魔法薬学の教室に二人で引きこもっていた。苦手だと思っていた魔法薬学も、彼の説明や考えを聞いていると知識や理解が深まり楽しくなってきていた。説明してる時の彼は生き生きとしており、見ていて心が温かくなっていた。昼食後はわたしの希望で城の周りを散歩をした、景色について話したり、最近読んだ本、クラスメートの話を色々話した。もしかしたらこんな長い時間彼と話したのはここに来てから初めてかもしれない。


「普段他人と話すのは好きじゃないが......、First nameと話すのは嫌いじゃない。」

「急にどうしたの?」

「別に大したことじゃないんだ。ただ、ふとそう思っただけだ。」

「セブがそういう風に言うのは大した事だと思うけれど。」


しばらくただ何もせず何も話さずに、湖の畔でのんびりしているとセブが小さく呟いた。その意外な言葉に嬉しく思うも、突然の事に何かあったのではないかと不安になる。彼の方を見ると、相変わらず表情から感情は読めなくて、言葉の意味を聴くことしか出来なかった。


「......ただ否定されなかった事が嬉しかった んだ。さっき、僕が闇の魔術について話しただろ。真っ向から否定しなかったのが嬉しかった。」

「まあ、確かに使い途には注意が必要だけれど、だからこそ知っておいた方がわたしは思うからね。あの二人と仲がいいのはちょっと嫌だけど。」

「はは、リリーも同じ事言っていたよ。でもその時は何であの二人と関わりを断たなきゃいけないのか分からなかったんだ。」

「今は?」

「あいつらとは最近考えの違いを感じるようになったから、距離を置こうと思っている。今は独りじゃないしな。」


そう言った彼の笑顔にドキンと胸が高鳴るのを感じた。この言葉を文字通りに受け取っていいのなら、わたしは少しは彼の支えになれているのだろう。それがとてつもなく嬉しくてしょうがなかった。夕方になると、図書館に移動してそれぞれ読みたい本を読んでいた。いつもはリリー達といて賑やかな休日だけど、こういう静かな休日もいいかもしれない。本を読む手を止め、チラリと彼の方を見れば真剣な顔で読んでいた。じっと彼を見つめてみるも気づく気配はなかった。なかなかじっくり彼の顔を見る事がないから、まじまじと見ていると改めて全てに於いてわたしのタイプだなと実感する。


「何みてるんだ?」

「セブがかっこいいなーって。」

「……本に集中しろ。」

「はーい。」


流石に視線を感じたのか、訝しげに何を見てるか聞いてきた。思ったままの事を伝えると顔を真っ赤にして、わたしの頭をグイッと本に向き直らせた。そんな彼の行動が可愛くてついニヤケてしまう。一緒にいればいるほど、想像していた彼より遥かに優しくかっこよく、そして可愛かった。やはり本や映画の中だけでは彼の良さは表しきれないのだろう。本や映画といえば 、最近はわたしがいた世界の事を思い出さなくなってきた気がする。初めの頃は断片的にフラッシュバックしていたのに。このまま嫌な思い出が多い世界の事なんて忘れてしまえばいい、なんて思ってる自分がいて怖くなった。自分がいた世界を忘れたら、わたしはどうなってしまうのだろう?このまま此処にいれる?それとも来た意味を分かろうともしなかったから存在が消えてしまうのだろうか。さっきまでの楽しい気分は一転し気分が下がりはじめた。わたしの悪い癖だな、考え始めたら抜け出せなくなるのは。ふと窓を見たら、空は真っ暗だった。彼もそれを気付いたみたいで、本を閉じて「行くか」と立ち上がった。


「あっという間だな。」

「そうだね。」


色々とセブが話しかけてきてくれたけど、わたしは未だにさっきの考えに捕らわれ続けていた 。わたしが、わたしの世界を忘れたら。このまま此の世界にいれるのか、それとも消えてしまうのか。考えたくないのに、脳は言うことをきいてはくれない。階段を上っていると、どうやら足を踏み外したらしく落下していき景色がスローモションに見えた、まるで他人事のようだ 。正気に戻った時には、セブの叫び声と天井が視界全体を覆いつくしていた。


ドスン


かなり高い所から落ちたはずなのに、身体に痛みはあまり感じなかった。まるでクッションのような何かがわたしの下にあるようだ。不思議に思って、目を開ければ見開いた真っ黒な瞳。そして、そこで感覚もはっきりしていき、唇にも柔らかい何かが触れていた。状況が理解出来た同時に、慌てて彼の上から飛び起きた。


「うわわわ!セブごめん!」

「……怪我はないか?」

「……うん。わたしは大丈夫だけど、セブこそ怪我はない?」

「ああ、大丈夫だ、気にするな。First nameに怪我がなくて良かった。」


ほっと安心したような彼の顔を見ると、安堵のせいか一気に色々な感情が騒ぎ始めた。一度状況を整理してみよう、何か勘違いがあるかもしれないし。階段を上っていたら、考え事をしていたせいか足を滑らせてしまった。セブは手を伸ばしてくれたけど、それでも届かなくて、それで気付いた時にはセブはわたしの下にいて。庇ってくれた、んだよね。それで、あの唇の柔らかい感触は……。目を開けると彼の目と合ったってことは、きっと。それが何か分かった瞬間、一気に顔が熱くなるのを感じた。


「あ、の、助けてくれてありがと!わたし、眠いからもう戻るね!」

「First name!」

「おやすみ!」


あまりの恥ずかしさと後悔でセブの顔を見ることが出来なかった。早口にお礼を言って寮への道程を走り出した。セブがわたし名前を呼んだけど、それを無視して走り続けた。最低だ、自分。セブは助けてくれただけなのに、わたしは逃げ出した。彼には助けてもらってばかりなのに、少しは彼の支えになってるって分かったばかりなのに、大事な時に逃げてしまった。これで嫌われてしまったらどうしよう、嫌だったのだと勘違いされたらどうしよう。だけど、今は感情がごちゃごちゃしてろくな解決法が浮かばない。寮に戻ると、リリーが心配そうに声をかけてくれたけど、それさえも無視して毛布に潜り込んだ。




ストロベリーミントキス
(初めてのキスは切ない味でした)



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