×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

「だけど、」が得意な私     

絶体絶命。そんな単語が頭に過ぎった。自分の強さを過信し過ぎたのか、それとも誰にも頼らず生きてきた結果なのか。じりじりと後退するも、高い建物の壁にぶつかってしまった。目の前の敵はしたり顔でじりじりと近付いてくる。わたしはというと息も上がってる上に、肋を何本かやられたのか立つことすら危うい状態で逃げることが出来ないでいた。


「その悔しそうな顔そそるねえ。殺すのは勿体ねえな。」

「黙って、…くれません、か」

「この生意気な口がなければなあ」

「うぐっ」


思いっきりお腹目掛けて蹴りが入った。全く容赦ない、な。思わず久しぶりすぎる痛みで涙目になる。だけど、決して泣くもんか。あいつらを余計喜ばせる訳にはいかない。手に電流を集中させる。これを相手に打って、怯んだすきになんとか逃げよう。よし、今のうちに……


「残念でした」

「……っ!」


振り上げた手を掴まれる。放出されようとした電気も相手の海楼石が仕込まれたグローブによって消されてしまった。ニヤニヤした顔が徐々に近付いてくる。


「やっぱり勿体ねえな」

「はな、して!」


そう言うとわたしの腕を引きながら歩き始めた。逃げ出せないように、周りに仲間をつけて。既に逃げる体力すらないわたしは、引きずられるように歩いた。助けて。そう叫びたかった。だけど、声に出ることはなかった。


「   、」

「   !」


何度も声に出そうとするも、ヒュウヒュウと息を吐く音しか出すことが出来なかった。思えば、今まで何があっても助けを呼ぶことなんかしなかった。いや、助けてくれる相手がいなかったんだ。どんなにピンチになっても、どんなに大怪我を負っても、一人でなんとかした。なんとかするしかなかった。




「ママー、あいつが血塗れで気持ち悪いー」

「あら、本当!ちょっと家汚れるから入らないでちょうだい。……あ、お金はちゃんと稼いできたんでしょうね?」

「おとう、さ……」

「悪い、母さんがおかしくなるから外で待っていてくれないか」




一体何を思い出しているのだろう。なんでこんな時に、思い出したくもないことを思い出してるんだろう。あれは確かわたしが、あの人たちの奴隷になって海賊狩りを始めて一ヶ月目だったかな。戦闘にもいくらか慣れてきた頃だった。今まで戦ってきた奴らとは比べられない位強かった。勝てる見込みがなくて、命からがら逃げたのに、お金のことだけ。奴隷だから仕方ない、だろうけど、実の父親にだけは心配されたかった。その頃から他人に期待もせず、感情も殺して生きてきた。たったひとりで。「タスケテ」何?その言葉は。わたしは知らない知らない知らない知らない知らない知らない。本当に知らない?今のわたしは知っているはず。一瞬、眩しい光に包まれたかと思えば、また暗くなった。目の前には、敵の船。あれに乗せられたら、わたしは。助けて。ごめんなさい。突然その二つの言葉がぐるぐる回る。その言葉はきっとわたしを受け入れてくれた彼らに対してだろう。ペンギンさん、シャチさん、ベポくん、クルーのみんな、そしてローさん。頭の中に彼らの顔が浮かぶ。すると、何故か我慢していた涙が零れてしまった。


「たす、け、て、みんな……」

「助けなんてこ、ぐはっ」

「おれのクルーに手を出すとはいい度胸してるな」

「……!」


ヒーローみたいだと思った。助けて欲しい時に、現れて悪い奴等をかっこよく倒すヒーローみたいだと。茫然としている間にわたしの周りにいた敵は全員倒れていた。わたしが、苦戦していたあいつでさえ倒れていた。やっぱり、彼は強い。気付けば彼はわたしの側にきていた。






「だけど、」が得意な




戻る 進む