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カラカラと笑う         

あの人たちの後に着いていったものの、わたしはどうすればいいか、何処に行けば分からずただ甲板の上に立っていた。きょろきょろと辺りを見渡すも、人影はない。このまま此処にいても仕方ないと思い、目の前に見えるドアのノブを恐る恐る回し、船内へと入る。


「へえ、着いてくることにしたんだ」


船内に入り、最初に出会った人物はわたしを買ったことに真っ先に反対したキャスケット帽の男だった。その人以外誰もおらず、気まずくて床を見ながら返事をする。


「助けて、もらったから。お金も受け取ってもらえないし、何か恩返ししたくて。」

「確かにな。キャプテンがお前を買わなきゃ今頃、あの変態赤ら顔ヤローにあんなことやそんなことをされてただろうな」

「……」


両手を後頭部に置き、にやにやと意地悪い笑顔を浮かべながらそう言った。ぞくり。もし、もしわたしがキャスケット帽の人のいう通りあの人に買われていたら、と想像したらぞっとしてきて、がたがたと無意識に身体が震えてきた。まさかこんな色気のないわたしに手を出すとは思わないけれど、あの下品な笑いにとてつもなく嫌悪したのを思い出す。


「わ、悪ィ!冗談だって!だから、そんな顔すんなって!」


顔に出てしまっていたのか、慌ててフォローしてきた。あれ、意外といい人なのかもしれない。そして、わたしの頭をわしゃわしゃと撫でる。そんなことされたことなかったから、私は戸惑ってされるがままだった。そして彼は「そうだ」と思い出したように呟き、わたしの頭から手を離した。


「自己紹介がまだだったな。おれはシャチ。さっきはおれの印象悪かったよな、別にお前の事が嫌いとかじゃねーから。とりあえず、よろしくな」

「えっと、名前はななこといいます。あの、わたしこそごめんなさい。」


そう言って、差し出された手をおずおずと握り握手。なんだか、久しぶりに人間として扱われた気がする。嬉しく思うと同時に、申し訳なさが溢れ出す。わたしのせいでキャプテンさんと船員さん達を気ずい雰囲気にしてしまった、のだと。


「なんでお前が謝るんだよ。そうだ、キャプテンはさ、お金は貰わねえとか言ったけど代わりにおれが貰っいってえ!」

「お前は馬鹿か」

「何すんだよ、ペンギン!」


シャチさんが小声で冗談っぽくそう言ってると後ろから、PENGUINと書かれた帽子を目深にかぶった人がシャチさんの頭をチョップした。あ、すごく痛そう。


「こいつの言う事は気にするな。おれはペンギンだ。さっきは気まずかっただろう、すまなかった」

「わたしは大丈夫です。気にしないでください」


彼は、何事もなかったかのようにわたしの方へ向かってきた。シャチさんはというと、本気で痛かったそうで顔をしかめながら頭をさすっている。よろしく、そう言って差し出されたペンギンさんの手もにぎり握手。また胸がぽかぽかと温かくなった。


「本当にペンギンさんなんですね」

「どういうことだ?」

「あの、えっと、帽子にPENGUIN って書いてるから……」

「あぁ、これか。何処かの馬鹿がうるさいせいでおれの存在が空気だからな。少しでも存在を主張しようと思ってな」

「なあなあ、何処かの馬鹿ってまさかおれのことじゃねえよな?」

「自覚してないとは。本物の馬鹿だな」

「なんだとお!?」

「……あはは!」


シャチさんとペンギンさんのやりとりが漫才っぽくて思わず笑ってしまった。ペンギンさんって、真面目そうな見た目とは裏腹に冗談を言う人なんだな。なんだか意外。


「「……」」

「あの、どうしたんですか?」


わたしが笑ったら、二人は動きも言葉も全部止まってしまった。わたし、何かしちゃったのかな。未だに二人はわたしの方を見て、驚いたような顔でそのままの状態でいた。一体どうしてしまったんだろう?わたしがしたといえばただ笑っただけ。あれ、今わたし笑った?


「お前、笑えるんだな」

「笑ってた?」

「ああ、ちゃんと笑ってたぞ」


自分を卑下する笑いや全てを諦めたような笑いならずっとしてきた。でも、楽しい、面白い、そんな感情が入った笑いなんてもう数年もしていない気がする。あの家にいた時は、感情程無意味なものなんてなかったから。何回も感情を持とうとする¨わたし¨を殺してきた。なのに、此処にきた途端すんなりと感情を持とうとする¨わたし¨が顔を出してきた。


「あー、やばいかもしんねえ。ペンギン、おれちょっと外の空気吸ってくるわ」

「分かった、キャプテンの所にはおれが連れて行こう」

「シャチさん、大丈夫ですか?」

「だいじょーぶ!お前は心配すんなって。また後でな」



シャチさんはすれ違いざまに、またわたしの頭をわしゃわしゃと撫でてから甲板へと出て行った。心なしか頬が赤かったから、熱とか風邪でも引いていたのかな。体調悪いのにこんな状況にしてしまって申し訳ないな。心配そうにペンギンさんの方を見れば「心配しなくてもあいつなら平気だ」と一言。そして、わたしの手を握り歩き出した。






 と笑う




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