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眠る君におやすみ       

「・・・」

「何かお探しですか?」


アクセサリーショップに入ってからかれこれ数十分店内を歩き回り、手にとってみながらどれがあいつに似合うか、喜んでくれるかを悩んでいた。人間屋でななこを迎えいれた際、プロフィールに生年月日も記載してあり、明日がその日だった。うちで初めて迎える誕生日だから、ななこには喜んでもらいたい。おれは密かに他のクルーと計画を練り、あとはプレゼントを選んで完了するはずだったが、これが一番の難関だった。他の奴らはもう用意してあるというのに、 おれはというとこの島に上陸して3日経っているというのに決められないでいた。シャチはななこそっくりの犬のぬいぐるみ、ペンギンは今まで写真を撮っていたようでそれを纏めたアルバム、ベポはお菓子詰め合わせ。悩みながら街を歩いていたところ、アクセサリーショップが目に入ったので店内に入り、冒頭に戻る。


「好きな女に誕生日プレゼントをしたいんだが、どれがいいか分からなくてな。」

「あら、優しい彼氏さんですね!」

「・・・まだ付き合ってはいない。」

「まだということは、これから告白されるんですね!」


思えば、お互い想いは伝えあったがその先の話はしていなかった。店員に言われるまで伝えた事で満足していて気付かなかったが、ななこはどう思っているんだろうか。船に残っていい、おれの側にいてほしい、という事だけで喜んでいたが、これはななこはおれの彼女という事でいいのだろうか。いや、あいつのことだ。そこまで考えてねえ気がする。


「・・・そうだ」

「それじゃあ、こちらがオススメです!」











ここ数日みんなの様子がおかしい、気がする。何がおかしいかって聞かれると上手く説明は出来ないだけど、隠し事をされている気がする。みんなが話している所に私が現れると、ぱっと解散したり。かといって、無視されているかっていうとそうでもない、寧ろ質問攻めにされる。そして、何よりローさんとこの島に上陸してからあまり顔を合わせていない。まあ、以前も情報収集や医学の本探しだとかで、顔を合わせない事もあったから不自然ではないんだけれど。


「怪しい・・・」

「何がだよ?」

「最近みんな変じゃない?」

「そうか?おれは何も変わらないと思うが」

「そうそう、ななこは考え過ぎるとこあるからなー」


私は今シャチさんとペンギンさんとお洒落なカフェでお茶していた。この島に来てから、この二人と行動することが多かった。みんな忙しいらしく、私達が買い物係になったからだ。私はパンケーキを切って、ホイップクリームを沢山つけてから頬張った。美味しい。シャチさんの言う通り考え過ぎなだけなのだろうか。悶々と考えていたら、シャチさんに私のいちごパンケーキから主役のいちごを盗られた。


「もーらい!」

「あー!とっておいたのに!」

「ぼーっとしてるからだろ」

「おい、子どものようなマネはよせ」


二人と話していたら、考えていた事がどうでもよくなってきた。毎回思うんだけどシャチさんとペンギンさんは私の心を軽くしてくれる天才だと思う。話してるといつも、頭も心もスッキリする。なんだか、お兄ちゃんが出来たみたいだ。






「キャプテンの酒買い忘れたから、買っておいてくれ。」


カフェを後にし船に戻ろうかという時に、思い出したようにペンギンさんはそう言って、私が持っている荷物を受け取ってシャチさんと二人で先に船に戻っていった。私も近くの酒屋で目的の品を買い、船へ向かう。空はとても綺麗な夕焼けで思わず立ち止まって見惚れる。 そういえば、今日は私の誕生日か。今まで生まれた事に後悔しかなかったけど、今は違う。みんなに、ローさん出会えたから。泣きそうになるのを堪えながら船室に入った。すると、大量のクラッカーの音とそして、


「ななこちゃんお誕生日おめでとう!」


そこにはクルー全員がいた。勿論、大好きなローさんも。壁を見ると可愛らしいバルーンで“HAPPY BIRTH DAY”と飾り付けられ、とてもここが海賊船とは思えない装飾が施されていた。でも、どうして?私は誰にも今日が誕生日だと言っていなかったのに。


「ど、どうして知って・・・」

「キャプテンが教えてくれたんだ!この誕生日会の計画も全部キャプテンが主導でやったんだよ!」

「おい、ベポ!余計な事を・・・!!」


ベポくんのその言葉に驚き、ローさんの方を向くと照れ臭そうにそっぽを向いていた。私はというと驚きと感動で言葉を発する事が出来ないでいた。何故かって他人から見たらただの平凡な一日でも私にとっては幸せでいい誕生日だと思っていたのに、その上みんながお祝いをしてくれるなんて。この船に乗るまで想像もしなかったことだ。嬉しくて、幸せ過ぎてぽろぽろと涙が溢れてしまう。


「みんな・・・ありがとう」

「ななこは本当泣き虫な奴だな」


くしゃと笑いながらいつものようにローさんは私の頭を撫でた。




それからはもう賑やかな宴だった。呑んで、食べて、笑って、本当に楽しかった。しかも、みんなから誕生日プレゼントを貰った。誕生日プレゼントなんてお母さんが出ていったきりだったから、感動しっぱなしだった。その様子を見てみんなは、嬉しそうにしていた。これは私の一生の宝物だ。ふと周りを見るとローさんがいない。きょろきょろと辺りを見渡すと、その様子に気付いたシャチさんが「キャプテンなら甲板にいると思うぜ。」と教えてくれたので、お礼を言って甲板に向かう。


「ローさん」

「ななこか。」

「はい、あの、今日は本当にありがとうございました。」

「ああ、喜んでくれたようで何よりだ。」

「こんな幸せな誕生日は初めてです。」

「それは良かった。そうだ、ななこ手ぇ出せ。」

「こ、こうですか?」

「おれからの誕生日プレゼントだ。」

「わあ!かわいい!」


手をローさんに差し出すと、小指に指輪をつけてくれた。シンプルだけど、とても可愛らしいデザインだった。しかも私の指のサイズにピッタリ。子どもの頃、お母さんに読んでもらった絵本に出てくるお姫様のような気持ちになった。私に王子様なんか来ないと思っていたけど、目の前にいる彼は正に王子様だと思った。


「因みにペアリングだ」

「・・・!?」

「なんだ、おれとじゃ不満か?」

「逆です!幸せ過ぎて死にそう・・・」

「死なれたら困る」


くつくつと私の反応に対して笑うローさんを見てると胸が高鳴ってしまう。恋愛は私には無縁だと思っていたのに、好きだと思える、一緒に居たいと思える人に出会えると思わなかった。


「ななこ」

「はい、何ですか?」

「改めて言うが、おれはななこが好きだ。おれの彼女になってくれるか?」

「・・・!!」


これからも一緒に居れる事だけで満足していた。それ以上を望むことなんて、おこがまし過ぎて考えた事もなかった。ローさんを見ると今までに見たことのない真剣な表情で、その眼差しが私の心を射抜く。あまりにも真っ直ぐな瞳だったから、どうすればいいか分からず俯く。


「わ、わたしでいいんですか・・・」

「ななこがいいいんだ。お前じゃなきゃダメだ。」

「嬉しいです。わたし、一緒に居れるだけで幸せだったから・・・」

「だと思った。だが、おれはそれだけじゃ満足しねえ。」

「わ!」


そう言ったかと思うと、突然腕を引かれローさんの腕の中にすっぽりと包まれた。すごくドキドキする、私のものなのかローさんのものなのかは分からないけど、心臓の鼓動の音が頭に響く。この音を聞いてると、ローさんに抱き締められてるとすごく安心する。不安なんて全て忘れられるかのよう。私もローさんの背中に腕を回し抱き返した。


「これはOKという事でいいのか?」

「勿論です」


顔を上げると、ローさんと目が合い二人笑いあった。







眠るにおやすみ




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