お茶とココアを持って、ななこがいる見張り台へ向かう。次の交代が来るまで、あと3時間はあるはずだ。付き合うことになったはずだが、数週間経った今でも何も進展せず、もどかしさを感じていた。あの日以来抱き締めるどころか、手すら握れてねえ。それどころか、以前と比べておれといる時間よりシャチやペンギンといる時間が長い位だ。
「よお」
「あれ、交代ってローさんでしたっけ?早くないですか?」
「交代じゃねえ。ななこがいるから来たんだ。それに、夜は冷えるだろココア持ってきた。」
「わあ、ありがとうございます!」
両手でマグカップを受け取り、ふうふうと息を吹きかけ冷やしてる姿はさながら小動物のようで可愛かった。その姿を見ていたら、何を勘違いしたのか慌てだし羽織っている毛布を広げおれを呼んだ。
「気付かなくてすみません、寒いですよね。隣で良ければどうぞ!」
「隣もいいがおれはこっちがいい。」
「う、わ!」
「こっちのが暖かいだろ。」
ななこは隣に来ることを想定していたらしいが、距離を詰めるのにいい機会だと思い毛布を取り、ななこの後ろへ回り抱きしめるように座った。毛布に包まっていたのにも関わらず、彼女の身体は冷えていた。腕をお腹に回し抱き締め、顔を彼女の肩に埋める。初めは寒さと緊張のせいか強張っていたが、次第に身を預けるように寄りかかってきた。
「確かに暖かいです、けど、ドキドキし過ぎて心臓に悪いです」
「倒れたら診てやる安心しろ」
「そういう問題じゃないです!」
「嫌か」
「嫌な訳ないじゃないですか!」
本当にななこは初々しい反応するもんだから、からかいがある。まあ、そのせいで進展しねえってのもあるが。久しぶりに感じた彼女の温もりに安堵を覚える。彼女はどんな表情をしているだろうか、チラッと顔を上げ見れば顔を真っ赤にして、だけど幸せそうな表情だった。その様子を見て、ついおれも頬が緩むのを感じた。すると、ふと手に感触を感じたもんで、再度彼女の方を見れば何やらおれの指や手を触っている。
「どうした?」
「ローさんの指って綺麗で、だけど手は大きくてやっぱり男の人なんだなあって思って」
「何だそりゃ、おれのこと女だと思ってたか?」
「そ、そうじゃなくて!改めて思ったの!」
「フッ、言いたいことは分かってる」
「またからかって...」と呟きながらも未だにおれの手を触り続けていて、これはチャンスだと思い。ななこの指に自分の指を絡める。思いのほか彼女はすんなりそれを受け入れ、手を握り返してきた。まさか手を繋ぐだけでこんなにも幸福感を感じるとは思わなかった、今日までの物足りなさが徐々に薄れていくようだった。
「今日のローさんなんか変....」
「今まで我慢してたんだが?」
「そうだったの?」
そのおれの発言に驚いたように、バッと振り返った。振り返られるとは思わず、あまりの顔の近さに動揺する。一体どうしたっていうんだおれは、はじめの頃は冗談で顔を近づけたりしたが、こんなに動揺しなかったはずだ。それは彼女も同じだったようで、またすぐに前へ向いてしまった。
「ご、ごめんなさい」
「おう」
「あの、ローさん、我慢してたって本当?」
「え、ああ。」
「わたし、てっきり色気がないからローさん何もしてこないのかなって思ってた。」
「好きなやつに触れたくない奴なんていないだろ。それにななこは色気あるぞ。何気に胸あるの知ってる」
「わ!急に触らないでください!」
「何だ、何もしてこないのを悩んでたんじゃないのか」
「そ、そうですけど、急にはびっくりするというか」
ななこの為と思ってしていたことが、悩ませていたなんて思わなかった。好きな女にそんな事言われちゃあ、今まで我慢していたものも出来なくなっちまうじゃねェか。繋いでない方の手を、ななこの胸へと移し揉んでみる。Dか、いやEだろうか。普段はツナギを着ていて、あまり目立たなかったがそれでも普通よりは大きいように見えた。サイズもいいが、柔らかく弾力もあり申し分のねェ胸だ。もっと感触を味わいたかったが、ななこの手によって遮られた。
「じゃあ触るぞ」
「言えばいいって訳じゃないです!」
「フフッ」
こういう何気ないやりとりでさえ愛おしく思う。抱き締める力を少し強めれば、ななこはくすくすと笑いおれの手を握った。おれもその手を握り返し、またななこの肩に顔を埋める。すると安堵からなのか、睡魔がやってくる。
「ローさん眠いなら寝ててもいいですよ。」
「眠くねェ」
「ふふふ、嘘が下手ですね」
そう言って、ななこは手を後ろに回しおれの頭を撫でた。これでますます睡魔が襲ってきて勝てそうにない。せっかく二人きりなのにここで寝ちまうのは勿体ねェ。
「じゃあわたしの膝貸すので、寝てください。」
「……そこまで言うならしょうがねェな」
ポンポンと、ななこは自分の膝を叩き、ここにくるよう言った。膝枕してくれると言われたら、断る奴はいないだろう。おれはななこの膝へ頭を乗せ、寝転がる。そんなおれの頭をななこは撫で始める、彼女の顔を見れば優しそうな顔をしていて目が合えば恥ずかしそうにはにかんでいた。先程の彼女の発言もあって、おれの理性は働かず本能のままに動き出した。彼女の頬に手を伸ばし、引き寄せ口付ける。
「ローさ、」
初めに触れるだけのキス。キスする前までは初めてだしそこで止めておこうと思っていた。だが、いざななこのふっくらと柔らかい唇に触れると、止めることが出来なかった。もしななこが嫌だと止めてくれたのなら理性が効いたかもしれない、だが彼女の反応はそれとは反対におれの期待に応えようと必死に受け止めていた。ちゅっ、ちゅっ、とバードキスをしていると睡魔はいつの間にか吹き飛んでいた。ただのキスのはずなのに、心底惚れた相手だと全身が熱くなり、何も考えることが出来なくなるのか。夢中になっていたせいか、人影が近付いてることに少しも気付かなかった。
「ななこ交代だ…邪魔したな。」
「ペンギン、おれが変わるからお前は戻っていいぞ。」
「分かった。キャプテン、良かったな。」
「あぁ」
「え!?ペンギンさんみ、見た?」
「あぁ、ガッツリとな」
「恥ずかし過ぎる…」
「だが、おれ達の言った通りだろ?」
「どういうことだ?」
「キャプテンに手出されないって悩み相談をおれ達にしてたんだ」
「わー!!言わないでください!!」
「へぇ」
そういうことか。最近あいつらといることが多かったのは、相談していたからなのか。そこまでおれの事を考えていたのかと思うと、にやけを抑えるのが大変だった。ななこはというと、恥ずかしいのか手で顔を覆っていた。「それじゃあお邪魔虫は退散する。」そう言って、ペンギンは戻っていった。
「ななこ」
「はい、何でしょう」
「手ェ外せ」
「今は無理です」
「これじゃあキス出来ねェ」
「ちょっとわたしには刺激が強すぎました」
身体を起こし、ななこと向き合い、そっと手を外せばこの暗がりでも分かるくらい、真っ赤な顔をしていた。身長差もあり、必然と上目遣いになっており、その上涙目でこう何で煽ってくるような表情をするんだこいつは。顔を近付ければ、ななこはぎゅっと目を瞑った。さすがにこの数時間でやり過ぎたかと思い、彼女の額に口付ける。そしてななこと目を合わせる。
「すきだ」
「わたしもローさんのこと大好きです」
みる夢はきっと駆けるライオン
戻る 進む