話がある。そういつもより真剣な顔をした、ななこに言われたのはつい先程のこと。べポを枕にしながら甲板で読書していた時に、突如言われ動揺した。
「急にどうした?ここで話せ。」
「ここだと話にくいので、他の所がいいのですが……。」
「じゃあ、おれの部屋で話そう。後から行くから、先行って待ってろ。」
数ヶ月経った今も堅苦しい喋り方は変わらねぇな。そう簡単に変えられるもんじゃないが。ただ、以前と比べて笑ったりからかい過ぎると怒ったり、他のクルーの感動話を聞いて泣いたりしてる辺り、心は開いてくれてるのだと安心をしていた。だからこそ、先程の真剣な顔で言ってきた話というやつがどういう内容かが検討もつかずおれの不安を掻き立てる。まあ考えても仕方のねえことか。自室のドアを開け、中へ入る。
「入るぞ」
「普通入る前に言うんじゃないですか?」
最近ななこの定位置になりつつあるソファに腰掛けながらくすくす笑うななこがいた。
「別にいいだろ。」
「ふふっ、そうですね」
「それで、急に改まって話ってなんだ?」
「……」
「言いにくいことか?」
「ある意味そうです。場合によっては、わたしは船降りなきゃいけないかもしれないです。」
「何があってもななこは船を降りることはねえよ。例え、お前が降りたいって言ってもな。」
「本当、ですか?」
「嘘は言わねえよ。だから安心して話をしてみろ。」
あまりにも不安そうな顔をしているから、頭をくしゃくしゃと撫でる。そうするといつものように、気持ち良さそうな笑みを浮かべていた。やっぱり子犬みてえだな。
「あの、ですね...」
緊張しているのか何回も深呼吸を繰り返している。そして、ななこが話そうとしている内容が分かった気がする。おれもそれなりに恋愛経験はある、この雰囲気はきっと。おれの自惚れじゃないといいが。
「わたし、ローさんに会って人生が変わりました。諦めていたもの全部、ローさんはわたしにくれました。本当にありがとうございます。」
「そんな大層な事はしてねえ」
「わたしにとってはローさんはヒーローなんです。」
そう言って照れ臭そうに笑うもんだから、おれも柄にもなく照れ臭く笑っちまった。あの時のおれの気まぐれに感謝したい。本当にただの気まぐれだったのかは今でも分からねえが。
「それでですね、あの、ローさんと話していくうちにわたし...ローさんの事が好きになってしまって。その、迷惑なのは分かってるので船を降りる覚悟です。置いてくれるのなら、この気持ちは忘れるように努力するので!その、えっと...」
「何で泣く必要があるんだよ」
本当にこいつは全く。自尊心が低すぎるし、ネガティヴにも程がある。おれは降りる必要ねえって言ったのに、降りる覚悟とか言って、泣き始めて。ななこの涙を袖で拭いながら、こいつを守りたいとしみじみ思った。
「おれが答える前から振られる前提で話すんじゃねえ」
「だってわたしは、ローさんのこと好きだけど、ローさんはそうじゃないから...」
「だから誰がそう言った」
「...誰も言ってないですけど、」
拭いても拭いても止まらない涙、どんだけ悩んでいたんだ、こいつは。だが、それ程おれの事を想ってくれていたんだと思うと本気で悩んでいたななこには悪いが、嬉しくて笑みが溢れちまう。
「おれもななこの事が好きだ。寧ろおれはお前に一目惚れしていた。」
「うそ...」
「嘘だったら大金叩いた上に自由にしねえよ」
そう言うと、先程より大粒の涙ボロボロ流し身体中の水分が無くなるんじゃないかと心配になる。本当最初に会った時と大違いだ。こんなにも感情を豊かに表すとは。まあその分、最初に会った時より愛しさは増しているが。
「じゃあ、わたしこのままこの船に乗ってていいんですか...?」
「当たり前だ」
「ローさんの側に居ていいんですか...?」
「寧ろ居てくれないと困る」
「へへっ、わたし今一番幸せです」
涙を流しながらも、最上級の笑顔をおれに向けた。今まで出会った女の中で一番綺麗だと思った。
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