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今までの二人にさよなら     



なんとなく気付いてはいた。だけど、こんな感情初めてだったものだから戸惑って、苦しくて、幸せで、色んな気持ちがぐるぐる回って自分が自分じゃない気がしてしまう。一体どうしたものか。


「はあ。」


今日で何回目の溜息になるだろう。意識してるつもりはないのに、無意識に彼の姿を目で追ってしまう。笑ってる顔を見る度に、心臓はばくばくとうるさい音をたてる。あまりにも自分らしくない。なんで、こうもわたしは。なんだか嫌になって自室へと歩き始める。ドアをあけ、電気もつけずにベッドへダイブ。


「あああああああああ!」


枕に顔を埋めて、この間シャチさんに教えてもらった通り叫んでみたらなんだかすっきりした。何も考えたくないのに、目を閉じると彼の顔ばかり浮かんでしまう。これじゃあ、意味ないじゃないか。だめだめ。こんな気持ちになっちゃだめ。だって、報われない気持ちだもの。わたしに好かれて嬉しい人なんているわけがないのだ。


「ううっ、うぇっく...」


そんなこと考えていたら辛くなってきて、悲しくなってきて、泣きたくないのに涙はとめどなく溢れてくる。今までのわたしはこんな泣き虫じゃなかった。こんな感情に振り回されてなかった。いつからわたしは弱くなってしまったのだろう。


コンコン


「ななこ入っていいか?」

「えっと、今はちょっと...」


突然ドアをノックする音。ドアの外からは、今わたしが悩んでいる原因の人物の声。とてもじゃないけれど、こんなぐちゃぐちゃな酷い顔は見せられない。そう思って断ったのに。


ガチャ


「どちらにしても入るがな。」

「ええええええええええ!?」


ちょっとまってちょっとまって。結局入ってきたし、まだ涙を拭き取ってないのに!悪あがきかもしれないけど、急いで毛布の中に潜り避難する。こんな顔見せたくないし、何より心配かけたくない。


「何でかくれる?」

「あれですよ、寝起きなのでぐすっ、恥ずかしいんです。ぐすっ、直してからでもいいですか?」

「よくねえ」


バサッ


「!?」

「随分とひでえ顔だな」


くくくっと笑う彼。もう嫌だ本当に。穴があれば入りたいとはまさにこの事だ。ごしっと腕で顔拭う。今更拭いたって意味のないことは分かっているのだけれど。せめてもの抵抗だと思って、顔をこれ以上見られまいと俯く。だけど、両頬をローさんの手に挟まれ強制的に前を向かせられる。ローさんと目が合い、なんだかよく分からない気持ちに襲われ目線を逸らす。


「ななこ、おれを見ろ。」

「......」

「なあ、おれを見ろ。」


おずおずとローさんを見る。ローさんの瞳は真剣そのもので、目を逸らしては駄目だ、このまま逃げていたら駄目だと思った。


「お前はそろそろおれたちに頼ってくれてもいいんじゃねえか。」

「迷惑、かけたくないんです。」

「あのなあ、前も言ったけど迷惑とは思わねえ。1人で悩んで泣いていられる方が迷惑だ。頼むから1人で悩むな。」


そう言ってローさんはわたしを抱きしめ、頭を撫でてくれた。なんだろうこのほかほかする気持ちは。初めての感覚、すごく安心する。そう思った途端緊張感が抜けてきてまた止まりかけてた涙が流れはじめた。わたしはローさんに抱きつき子どものように、わんわんと泣いた。その間ローさんはずっと背中をさすってくれていた。


「わた、し、今までずっと、否定されてきたから、怖いんです。」


このままだと何も変わらない。今までの自分でいたら、誰も信じず頼らずにいたら本当の意味での仲間になれない。彼なら、ローさんならわたしを救ってくれるかもしれない。そう思いわたしは話をはじめた。


「何が怖いんだ」

「……人を信じるの」

「不安か?」

「わたしなんかが、受け入れてもらえるはずない、って頭の中の声が言うの。ずっとずっと、響くの。」

「その声に耳をかすな。もしその声が聞こえて不安なったら、おれを呼べ。すぐ駆けつけて抱きしめてやる。」


今まで溜まっていた不安な気持ちを全て吐き出す。ローさんはそんなわたしの言葉を全部受け止めてくれた。そして、先程より強く抱きしめてくれた。それが嬉しくて、嬉しくてわたしも強く抱き返した。

やっぱりわたしはローさんがすきだ

認めるのが怖かったこの感情を受け入れた。








今までの二人にさよなら




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