名刺SSのログ
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あるものねだり / カリオストロ

トリックオアトリート!常套句、もとい今夜限りの呪文を唱えると、分厚い本に落とされていた目が胡散臭そうに私を見た。
「そんだけあってまだ足りねえのか」
「ぶりっ子はもうおしまい?」
「あ?」
「いいえなんでも。ねえ、それよりお菓子は?」
「…はあ。菓子ならそこの…いや、そういや切らしてたな」
この俺様にいたずらできるなんざ光栄だなあ?にやにやしているのはお互い同じ。カリオストロが乗ってくれたから、プランAだ。丁寧に栞の挟まれた本を横目に、薄い桃色の頬に触れる。片膝を乗せると古びた椅子がぎしりと鳴った。さっきまでの悪い笑みは何処へやら、すっかり少女の顔になりすました彼の唇……ではなく、まるいおでこに、唇を押し当てる。
「は?」
「っ…ふふっ」
「…ガキみてえな真似しやがって」
「あ、もしかして照れてる?」
「うるせえぞ」
仕返しの常套句は投げやりで、用意しておいたお菓子も知らんふりをされて本の上。でも、これだって計画の内だもの。可愛いね。本音を半分混ぜた私の唇はきっと綺麗に笑ってる。









魔法について / ジークフリート


「マギサに貰った魔法はどうした?」
じっとこちらを見つめる金色は、月のない夜の中でも何も見逃してはくれなさそうだった。
「…あの子に分けました」
「そうか」
水の魔法しか扱えない私の手はすっかり冷え切って、動かしてみても感覚がない。
「手を借りるぞ」
「は…い、えっ?」
状態を確認していた大きな手に、包み込まれる。窮屈そうに背中を丸めて、口元へ持っていって。はあ、と息を吐く音がやけに大きく聞こえた。そんな、ことしたって。意味がないんじゃ、と思ったけれど、徐々に感覚が戻ってくる。
「…火の魔法も使えたんですね」
「こんなこともあろうと、な」
「ふ、普通にしてくれたらいいのに」
「…まだ不慣れでな、形から入る方が上手くいくんだ」
形からっていうのは、たしかにそうだけど。でも、聞いてしまうのはきっと野暮だ。それに、また、してもらえるかもしれないし。言い忘れていたお礼だけ言って、口を閉ざした。








むしゃくしゃした気持ちでお菓子を作るのはあんまり好きじゃない。でも、こればっかりは、ねえ。「あの、凛月くん…」「なーに」自分でもちょっとびっくりするくらいに不機嫌な、拗ねた声が出ていた。ワンテンポ遅れて、小さな笑い声が転がる。子供みたいって、それ、いい歳した男に言うセリフじゃないと思うんだけど。「ごめんね?」「んー、誠意が足りない」「血はダメだよ」「新作の感想で許してあげよう」カシャン、と泡立て器をボウルに当てた。ひきつる笑みを見て少しだけすっきりする。約束だよ、とにっこり笑って念押しして、紫色のメレンゲ作りを再開した。

お菓子製造機 / 朔間凛月







乾いた唇同士がすり合わされる。あ、の形に口を開けた凛月くんが、ふと何か思い出したように動きを止めた。ブレザーのポケットを探って、出てきたのはリップクリーム。持ってるんだ、意外、と感心していたら顔に手が添えられて、唇に押し当てられた。辿々しい手つきについ黙ってしまう。
「いただきまぁす」
潤ったばかりの唇を、かさついたままの唇がやわく食んだ。

リップクリーム / 朔間凛月








貸して、と奪われたそれは元々
彼の物なのに、なんだかおかし
くて口元が緩んだ。手袋を外し
た白い手が几帳面に、丁寧に容
器の端を押して、クリームを掌
に出す。そしてなぜか、私の手
にせっせと塗り込め始めた。自
分で出来ると言っても、あっそ
う、とだけ。存外温かい手の感
触に、そっと目を伏せる。  

 ハンドクリーム / 瀬名泉 








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