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「だぁからぁ可愛いんだよぉもうさぁ!どういうつもり?僕のことどうしたいの?お手してワンとか言ったらいい?決めた僕ミズキちゃんの犬になるぅハハッそれいーかも、ねぇねぇねぇ何でそんな可愛いのぉ?もしかして僕に推されるために生まれてきた?もっとザバザバ課金したいのに受け取ってくんないんだよ新しいイジメだよねぇ僕の彼女……ふふ僕の彼女なんだよすごくね?ミズキちゃん僕の彼女なんだよーあーラジオとか生放送で発信したい言っちゃいたぁいダメかなぁ?」

ダメである。というのはつまり、五条に酒を与えてはいけないという意味で。

きっかけは何気ない会話で、「五条さんはお酒飲まないんですか?」とミズキが尋ねたことだった。
学生の頃に試して下戸と判明してから飲んでいないと五条が答えたところからお互いに興味が湧いて、オフを翌日に控えた夜に五条の自宅で飲酒した。
その結果がコレである。
ちなみに体調を悪くしないよう『飲む前に飲め』系のものもしっかり飲んだし夕飯を済ませてからの飲酒で、しかも五条が摂取した酒は約15ml。大さじ1が何ともよく効いた。

「五条さんひとまずお水飲みましょ、ね?気持ち悪くないですか?」
「うふふふふすげー気持ちいーミズキちゃん見ながら飲むのハマりそうあっイヌマキのライブ観ていい?ミズキちゃんが2人になって2倍幸せかも」
「お酒はおしまい、ライブもまた今度にしましょうね」

五条はソファから空の手を伸ばして、リモコンの電源を押すように指をひょこひょこ動かした。当のリモコンはミズキがそっと五条の視界から隠している。
五条がふと沈黙してミズキのことをまじまじと見つめ、それからへにゃぁと破顔した。

「へへ…なんか今の奥さんみたい、とりあえず5万でいい?」
「料金は発生しないですね…あと増額の余地を残さないで」
「ミズキちゃん僕と結婚してよぉいくら払ったら奥さんになってくれるの?」

美しい碧眼をうるうるとさせて五条はミズキに抱き付いた。大柄な上半身に抱き竦められて、ミズキは困り笑い、白い頭を優しく撫でてやる。

「お金払おうとするのをやめて素面の時に言ってくれたら、頷いちゃいますね」

芸人との結婚は苦労が多いらしい。それでも五条が女遊びをするところなんて想像出来ないし、こんなに全身全霊で大切にしてくれる人なんて他にいないだろう。実際に結婚したらどんな感じだろうとミズキが思っていると、撫でていた白い頭がカクンと落ちた。

五条、入眠。



翌朝、五条は目を開けた時点の体勢のまま硬直して冷や汗をかいていた。
場所はソファの上、座面が広いから寝ることも出来る、それは問題ないとして。自分の腕の中に推しがスヤスヤ眠っているこの状況は何か。
五条が微動だに出来ないでいる内、ミズキの瞼が小さく震えて目が開いた。

「んん…ごじょうさん、おはよぅ…」
「アッはいおはようございます…?」

ミズキが身体を起こして眠い目を擦る間も、五条は固唾を飲んでそれを凝視していた。

「五条さん…からだ痛くなってないですか?へいき?」
「ま"っ?!ままま待って ぼ僕ナニしたの本当ごごごめんなさい せっ責任取ります嫌いにならないで!!」
「?なんのはなし…?」

ナニもない。
徐々に寝起きの緩みから脱したミズキが昨晩の出来事を話して聞かせたところによると、事はとてもシンプルで健全だった。
寝落ちした五条の巨体(ミズキにとって彼は巨人である)をベッドまで運ぶことなど出来るはずもなく、寝室から布団を持ってきた。その後酒類を片付けてバスルームを拝借し、お互い寒くないよう五条の隣に潜り込んで寝た、以上。
飲酒にかこつけて、あわよくば初めてのお泊まりに持ち込もうと企んでいた五条は何とも微妙な気持ちになった。嬉しさと不甲斐なさが混濁して、五条は項垂れた。

「本っっっ当ごめんマジで記憶ない…介抱させただけじゃん格好悪…」

五条はソファから降りて、ラグの上に正座して小さくなった。下戸は自覚していたけれど、まさかここまで不甲斐ないとは思っていなかったのである。ミズキの酔った姿だって見ていない。むしろ彼女は介抱に終始して飲んですらいないかもしれない。
ミズキは気にした様子もなくニコニコとしている。

「それより体調悪くならなくて良かったです。あと五条さん可愛かったし」
「僕の彼女天使すぎる…決めた僕もうミズキちゃんの犬になる…」
「あっ同じこと言ってる」
「マジか」

五条は多少の情けなさと引き換えに、日頃のふざけた言動が割と本心そのものだと自ら証明したのだった。
その後五条は風呂に入って頭を洗いながら、推しが今自分と同じ匂いになっていることに気が付き、悶絶し、リビングでくつろいでいたミズキから軽く怒られるまで『推し吸い』を決行することになる。



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