一条悠介の独白

 ここまで顔がいいのも気の毒なもんだなぁと思った。

 翔と出会ったのは高校の入学式。この頃から翔の髪はプラチナブロンドで、背も高いしとにかく顔がいい。目立つに決まっている。早速女に囲まれる翔は中心でニコニコと笑っていた。
 話すようになったのは中学から同じだった立花日向と翔が仲良くなったから。日向も顔はいいし(腹の中は真っ黒だけど)、二人の周りにはいつも女がいた。翔は日向のように裏表があるわけではなく、複雑な環境で育った割には捻くれてもいない。ただ、自分が必要とされることに執着しているように見えた。

 体育館の倉庫は人気が少ない上に隠れるところも多いから、人目を忍んでする行為にはうってつけだった。女に手を引かれそこに入った時、異臭に顔をしかめた。そしてマットの上でぐったりとしている翔を見て、俺は女を教室に戻らせた。不満そうな女は翔をチラチラと見ていて、よかったら三人で、なんて抜かしやがった。そんな女には興味はない。もうアイツと遊ぶのも終わりだな、そう考えながら破れたシャツの上にセーターを掛けてやった。

「……大丈夫か」
「……悠介?うん、平気。慣れてる」

 慣れんなよな。体を起こしシャツを脱ぐ翔の体には、数え切れないほどのキスマークや痣。そして誰のものか知らねーけど、白濁。顔をしかめた俺を見て、翔は苦笑いした。

「ごめん、すぐ拭くから」

 翔はとにかく顔がいい。それだけじゃない。コイツからは人を惑わせ夢中にさせるようなフェロモンが出ている。誰もが羨むような容姿、そして色気。妬みながらも憧れ惹かれる。人の視線や欲望を一身に受け止める翔は、気の毒なことにこうやって乱暴にされることも多かった。

「……誰だよ」
「ん?」
「やったの誰だよ」
「……さぁ?誰だったかな」

 こうやっていつもはぐらかす翔の横に、相手の物らしい忘れ物が落ちていた。教職員用の英語の教科書。……確か、英語のババァが翔をそういう目で見ていた。チッと舌打ちすれば、翔はそれでも穏やかに笑った。

「……お前、そのうち体壊すぞ」
「んー」
「妊娠させるかも」
「やってもいいけどその代わり避妊は絶対って条件出してるから大丈夫」
「そのうち男に掘られるかもな」
「別に、俺を必要としてくれるならそれでもいいよ」
「マジかよ。俺はぜってー嫌だ」
「みんな痛そうにするから出来たら俺もされたくないけど」
「……なぁ」
「何?」
「本命の彼女作れよ」
「ハハッ、まさか遊びまくってる悠介に言われるとは思わなかったな」
「茶化すな。じゃねーとお前そのうち、殺されるかもしれねーぞ」

 人を惑わせるほどの魅力を持つ翔を、俺はずっと心配していた。人の欲望を受け止めすぎて、いつかおかしくなっちまうんじゃねーかって。

「そういう人ってさ」
「おー」
「作ろうと思って作るもんじゃないでしょ。いつの間にか、大切な人ができる」
「……」
「その人をちゃんと大事にして離さないようにしなきゃいけない」

 ほんと、コイツは乱れきった性生活を送っているのにどうしてこんなに純粋で素直なんだ。よく分かんねー男だ。

「誰とやろうが何も言わねー。お前の勝手だしな」
「……」
「でも、自分の身だけは守れ。殴られたら抵抗しろ。痛いことされたらやめろって言え。そういうことする奴にまで優しくすんな」
「……」
「俺はお前に死んでほしくない」

 翔は一瞬目を瞬かせて、そしてふっと笑った。

「ありがとう悠介。心配かけてごめん」

 それから少し落ち着いたらしい。女は相変わらず常に近くにいたが、痣を作るようなことはなくなった。

 あれから10年。俺は相変わらず翔の世話を焼いている。

「翔くん、今日も来たよ」
「ありがとう。ゆっくりしていってね」

 相変わらず翔の周りには女がいて、翔のフェロモンにおかしくなる奴もいる。媚薬入りのものを食べさせたり、ストーカーになったり、夜道で突然襲ったり。
 でも、今の翔は昔の翔とは違う。

「ねぇ、翔くん。そろそろいいでしょ?」

 腕を這う女の欲望に満ちた手を、翔はそっと外す。そして。

「ごめん、そういうことしない。絶対に離したくない大事な子がいる」

 言っていた通り、大事な子を見つけたらしい。翔のデレデレさは目に余るものがあるが見逃してやろう。純粋で素直な奴同士、お似合いだとも思うし。

「悠介、最近すずちゃんが更に可愛くなったと思うんだけどどう思う?」
「おー、そうなんじゃねーの」
「……。悠介、俺のすずちゃんをそんな目で見ないで」
「どうしろっつーんだよ」

 ふっと笑うと、翔も笑った。一生翔の面倒は見てやらねーといけないけど、まあいいだろう。翔とすずちゃんが、幸せに笑ってるなら。

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