夢のまた夢のまた夢

「へー、俺のファンなんだ。嬉しい」
「いっ、いえ、世界一カッコイイので、ファンは数え切れないくらいいると思いますっ」
「世界一?はは、大袈裟だなぁ」
「お、大袈裟なんかじゃないですっ、私、ほんとにそう思ってます」
「そ?」

 茶色い瞳がまっすぐに私を見つめる。私の頭の中はずっとパニックだ。だってずっと画面を通して見ていたから。この甘い瞳は、画面の向こうの遠い世界のものだった。
 今、どういう状況?よく行くバーで大ファンの三木村さんに会って、そして隣に座って、更には一緒にお酒を飲んでいる。芦屋くんが作ってくれたカクテルだって全然味なんて分からない。
 芦屋くんが呆れて冷たい目線を寄越してくる。私だって普段からこんなポンコツな訳じゃない。地元ではしっかり者の奈子ちゃんとして通っているのだ。
 そもそも芸能人に会うだけでテンション上がるのに、それが大ファンの人だったらパニックになっても仕方ないと思うんだ私は。だからそんな、ゴミを見るような目で見ないでほしい。

「奈子ちゃんは仕事何してるの?」
「えっ、あっ、食品会社で働いてます」
「何か作ってるの?」
「はい、飴です」
「へー、飴」
「これ、うちの商品なのでよかったら」

 鞄の中からガサガサと飴を取り出して、三木村さんに差し出す。三木村さんはその飴を見て固まってしまった。……というか、普通に飴をオススメしてしまったけど、三木村さんは飴なんか食べないかもしれない。私のオススメなんて聞かされてもって感じだよね。私ってば何を……

「ありがと。貰うね」

 と、自己嫌悪に陥っているうちに三木村さんは動き出して飴を受け取ってくれた。そして袋を破り口に入れる。

「ん、美味しい」

 その笑顔だけで数年は生きられますありがとうございます。

「はっ、間抜け面」

 ほんっとうるさいなこのバーテンは!!もうこの店来てやらないからな!!

「あの、それにしても何でこんな場末のバーに……?」
「場末言うな」
「ああ、知り合いなんだ。尚と」

 尚って誰だ?

「俺だよさっきから失礼な奴だな!」

 へー、芦屋くんの下の名前ってそんな名前だったんだ。

「奈子ちゃんは、よく来るの?仲いいみたいだけど」
「彼氏に振られてぐだぐだ言ってたのを慰めてやってからの仲です」
「そ、それは確かにそんなこともあったけど、全然仲良くなんてないんだからっ」

 どこのツンデレだ、どこの。自分の発言に脳内で突っ込んでいたら、また芦屋くんに笑われた。腹立つ。

「えっ、じゃあ今彼氏いないの?」
「ええ、まあ」
「俺なんかどう?」

 フリーズって初めて経験した。


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