お友達

「いえ、あの、無理です」

 長い長いフリーズの後に出てきたのは冷静な言葉だった。いや、だって無理でしょ?こんなイケメンと付き合うって、付き合うってことは、あんなことやこんなことするってことでしょ?……無理無理無理無理!心臓がいくつあっても足りない!

「俺嫌われてる?」
「いいえ、尊い推しです」
「好かれてるってこと?」
「少なくとも男の人の中では一番」
「ぶはっ。奈子ちゃんめっちゃ面白い」

 面白いことを言っているつもりは全くないのだけれど、尊い笑顔を見られたのでよしとする。三木村さんはひとしきり笑った後、目を細めて私を見つめる。綺麗なお顔に昇天しそうだ。

「ならお友達から始めよう」
「お友達にムラムラする自信しかありません……」
「いーじゃん、ムラムラ。俺はずーっとムラムラしてるけど」
「ダメです、お友達にはムラムラしちゃいけないんです……」
「お友達にムラムラし始めたら、恋人になっちゃえばいいんじゃない?」

 膝の上でギュッと握りしめていた手に、三木村さんの大きな手が重なる。大袈裟なほどビクッと揺れた身体を見て、一瞬三木村さんの目がギラッとした気がする。まるで獲物を目の前にした肉食獣みたいな雰囲気に固まってしまう。

「ちょっと、店内でのお触りは禁止ですよ」
「ごめん」

 芦屋くんの言葉に三木村さんがパッと手を離す。なのにどうしよう、熱が引かない。

「固まっちゃった。かわい」

 三木村さんは舌なめずりでもしそうな勢いで私を見つめてくる。ここが場末のバーでほんとによかった。他の誰かにこんなところを見られようものなら恥ずかしくて死ねる。……だって私、下着が濡れそうなほどに興奮してる。嘘だと思うでしょう?私も嘘だと思いたい。でも、三木村さんの色気、すごい。

「尚ー」
「はい」
「お持ち帰りしていい?」
「俺に許可取る必要ないです」
「ふーん、そっか。安心」

 二人の会話を上の空で聞いていた。まるで自分には関係のないことのように。これから肉食獣に食べられる運命だというのに、呑気なことだ。
 それから三木村さんの行動は早かった。私がボーっとしている間に二人分のお金を払い、店を出てタクシーを拾った。手を繋いだままタクシーに乗り、有名な高級ホテルに着いた。普通のエントランスではなく、入るところを誰にも見られないような地下から入る。そこにはちゃんとフロントもあって、ホテルの人が「三木村様」と綺麗なお辞儀をした。普通のお客さんがするようなチェックインもなく、三木村さんは豪華なエレベーターに乗り込む。三木村さんは色々と話しかけてくれたような気もするけど、ドキドキしてうまく返せなかった。
 ……私、今からどうするつもりなんだろう。ここまで来たら逃げられない。チョロい女だったつもりはない。えっちなこと、恋人としかしたことないのに。好きな芸能人だからってホイホイついてきてしまうなんて。
 とうとう三木村さんが部屋の前で立ち止まる。開いた扉の向こうの景色に感動する間もなく、部屋に入った瞬間抱き寄せられて唇が重なった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -