夏休み夏期講習、沖縄離島リゾート3日目。もうこの日は帰る日である。帰る時間帯は昼の2時。船に乗って、東京へ帰る。それまでは、自由行動だ。
「あー、何すっかなぁ。今日は」
「メインは殺せんせーを仕留める計画だったもんな」
「それも1日目で終わって、その夜から治療薬略奪侵入作戦で、帰ってきたら夕方まで泥のように寝て、夜に肝試ししただけだもんなぁ」
「まぁその後のイリーナ先生と柴崎先生の距離を縮めよう作戦は面白かったけどね!」
「まぁな!ビッチ先生が案外奥手なもんでビビったわ」
「色仕掛けが武器なのに本命にはとことん奥手なのよねぇ」
「本当だね」
前原、磯貝、千葉、矢田、三村、中村、速水がぞろぞろとホテル内を歩きながら話していた。そこでたまたま柴崎の後ろ姿をみかける。
「あれ、柴崎先生…」
「本当だ。どこ行くんだろ」
「んー…なんか気になんね?」
「…まさか、前原」
「ついて行く、なんて言うんじゃ…」
「ピンポーン!千葉大正解!」
「でもプライベートなのについて行くってなぁ…」
「なんか、悪くない?」
「気になんねぇ?逆にさ。柴崎先生がどんな過ごし方をするのか」
「「「「………気に、なる」」」」
「そらきた!はい行こう!」
なんだかんだノリノリな三村、中村は前原と一緒になって前を歩く。
「でもさ」
「ん?どうした、速水」
「柴崎先生って、気配に敏感なんでしょ?」
「あー、そう言ってたよね、烏間先生」
「人一倍気配に敏感なんだっけ」
「…バレないのかな」
「「「「……………」」」」
「「「「バレるな」」」」
「でしょ?」
それでもそのことを前3人に言わず、後ろ4人もついて行くのであった。
「…こっちって、特になーんもないよね」
「うん、ない」
「なにしに行くんだろう…」
「それを確かめに行くんじゃない!」
「そーだ、磯貝!」
「…あ、曲がったぞ!」
「…花屋、か?」
柴崎の向かった先は花屋だった。7人はゆっくり近づいて、会話が聞こえる範囲のところまで寄った。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
「あぁ、えっと、サルビアってありますか?」
「サルビアですね、ありますよ。何色にします?」
「紫で」
「サルビアだけでいいですか?」
「あー、後スターチスってあります?」
「スターチスですか?えーっと…、あぁ、ありますよ!色はどうします?」
「ピンクと淡紫で」
「分かりました。他には?」
「その2種類でお願いします」
「花束にしますか?」
「はい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「…花を買ってる」
「花屋に来たんだから花買うに決まってんだろ」
「誰かに贈り物?」
「…イリーナ先生?」
「それとも、烏間先生?」
「烏間先生に花ってあげる?」
「……いや、あげねぇか」
「サルビアにスターチス…」
「なに、矢田何か知ってるのか?」
「えっと、花言葉を、ちょっと…」
「あ、花言葉!」
「ねぇ、どんな意味なの?」
「サルビアは…燃える思いとか、恋の情熱で。スターチスは…永遠に変わらない心とか、変わらない誓い…っていう意味、なんだけど…」
「「「「………………」」」」
沈黙
「…いや、いやいやいや、待て。ちょっと待て、落ち着こう」
「いやお前が落ち着け、前原」
「それって、柴崎先生誰かに恋…してる?」
「うっそ!え!?まじで!?」
「前原声でかい!!」
「でもそれが本当ならさ、もうすでに柴崎先生には想い人が居て、その人のための花ってことになるじゃん!」
「そう考えるのが、無難だよね」
「…相手は誰なんだろう」
「ありがとうございます」
「いえ!またのお越しをお待ちしてます」
花屋から出てきた柴崎。腕の中にはさっき束ねられただろう花束を抱いている。そして、誰かに電話をし出した。
「ちょっちょっちょっ!!電話相手ってもしかして想い人!?」
「だから声でかいって前原!!」
「三村もでかい」
「えー誰なんだろう?来るのかな?」
「来るとしたら、沖縄の人?」
「沖縄、の人くらいだよな。後は俺ら位だし…」
「私らが知らない人なのかもね」
掛け終わったのか、電話を切って歩き出す。
「あ、来ねぇんだ」
「もしかしたら待ち合わせしてるのかも」
「なるほど」
その後をまだまだついて行く7人。着いた先は、
「…海岸?」
「なんで、海?」
「さぁ…」
「あれ、人が来た」
「ん?あれって…」
「…え!?烏間先生!?」
「は!?マジで!?じゃあ想い人って烏間先生!?マジか!!」
7人は近くの岩から覗いていた。十分に会話は聞ける距離である。もう7人は柴崎が気配に敏感だとか、そんなこと頭の端の端に追いやられた。つまり、忘れている。
「あ、ごめん。来てもらって」
「いや、良い。…買えたんだな」
「あぁ。この花、売ってないかと思ってたんだけど、売っててよかった」
「スターチスはこの季節もう枯れてるかもしれないからな」
烏間は柴崎が腕に持つ花束を覗き見る。
「沖縄、来れて良かったな」
「うん。プライベートじゃ来る時間なんてないし、約束守れるか冷や冷やしてたけど…やっと、守れそうだ」
「約束?烏間先生と?」
「いつも一緒にいるのに?」
「しかも沖縄に来ないと出来ない約束って何?」
「…婚約?」
「………え!?嘘だろ!?」
「煩いって前原!」
「だからお前も煩いって、三村」
柴崎と烏間は少しだけ波際に近付く。そして、柴崎はその花束を海に放り投げた。
「「「「あ!!」」」」
思わず声を上げる7人。それに振り向く烏間と柴崎。やってしまったと全員口を両手で塞いでいる。それに柴崎は笑う。
「そんな今更口塞がなくたって着いてきてたの気付いてたよ」
「柴崎が何も言わないから別に良いかと思ってたんだ」
2人の言葉に7人は目を合わせ、そろそろっと岩陰から出てくる。
prev | next
.