carry -Extra edition-

あの騒動の次の日。烏間・柴崎は防衛省に来ていた。E組生徒達の要求書を手に。




「「暗殺によって生徒を巻き添えにした場合…賞金は支払われないものとする」手配書にこの条項を明記しない限り…生徒全員があの教室をボイコットすると言っています」

「暗殺の選択肢は狭まりますが…生徒が安全を求めるのも当然の権利かと思われます」



自分達の上司へとその書類を手渡した。そこには彼らが直筆で書いたもの。



「……。随分と子供好きになったもんだな、烏間、柴崎。…まぁいい。条件を飲もう」

「「!」」

「どの道もう終わりだ。個人レベルのフリーの殺し屋に頼る時期はな」

「「……?」」



後ろのカーテンが開けられる。





「気付いていないだろうが、椚ヶ丘市ら目下空前のマンションの建設ラッシュだ。最近の住宅バブルに見せかけて…その正体は各国共同で進めている…、最終暗殺プロジェクトだ。概要を見たがとんでもない超技術だ。あれの前には殺し屋などの出る幕無しだ」


対先生用ナイフを手で遊ばせ話を続ける。




「全ての準備が整い次第…最終兵器同士の共同作戦が発動される。今のところ、決行予定は…来年3月!!もはやE組に必殺までは求めていない。3月までのんびり楽しく暗殺を続け…奴さえ逃さないようにしてくれれば、それでいい」





2人は「失礼します」と言い、部屋を出る。それと同時に柴崎も烏間も大きく溜息をつく。決行されるという来年3月。一体それはどれ程のものなのか。

生徒達を使い暗殺をしろと言ったのはこちら側なのに、その生徒達は今やあの生物を逃さないようにするための謂わば檻のようなものになりつつあるのだ。



「…必死になるのは分かるんだけどね」

「時間の猶予は確実に削られていってるからな」



期限は残り僅か。迫りくる暗殺という壁がもうそこまで来ていた。


学校に着き、車から降りると丁度隣にも車が。出てきたのはイリーナだった。



「おはよ」

「おはよう」

「おはよう、イリーナ」

「寒くなったわね。明日から服変えなきゃ」


肌寒さを感じる10月中頃。もう秋である。イリーナは腕を摩った。



「なんだ、二種類の服しかなかったのか」

「なわけないでしょ!!あんたが落ち着く服で統一しろって言うから!!」

「さすがに二種類しかないことないよな。イリーナだからいろんな服あるんじゃない?」

「シバサキの言う通りよ!女は服装こそ気を使うの!ダサイ服なんて着てたら女が廃れるのよ!!」


そんな話をしながら校舎へと歩く。



「あ、イリーナ」

「なに?」

「腕大丈夫?昨日怪我したんだろ?」

「あぁ、平気よ。こんなの屁でもないわ!」

「ならいいけど、あんまり無理したら駄目だよ」


殺し屋とはいえ、女性なんだから。イリーナにそう告げて前を向く。隣でイリーナが震えてるとは知らずに。


「烏間も目の下のこの部分。傷入ってる」

「あぁ、ここか。擦れたんだろうな」

「そういう傷ほど染みるんだよな…」

「まぁ、確かにな」



校舎に近付くと、生徒達が登校していた。ある数名の生徒は犬の変装をした殺せんせーを朝から元気に追いかけている。そして撃ち、ナイフを振っている。…当たらないのだが。



「朝から元気なガキ共ね」

「彼等らしいけどな」

「それだけ体力付いたってことでしょ」








「おいイトナどうしたよ」

「……志貴さん…」

「?柴崎先生がどうかしたのか?」

「…あ、この子柴崎先生のとこに行きたいのね」

「え?そうなのかよ、イトナ」



村松の問い掛けにイトナは小さく頷く。


「行ってくれば?」

「…でも話してる」

「お前がそれを気にすんのかよ;; 転校初日から後ろの壁ぶっ壊して入ってきた度胸あんだから、柴崎先生のとこくらい余裕で行けんだろ;;」

「ほら、行っちまうぞ?」

「…ったく!おら!さっさと柴崎の先公とこ行け!」


寺坂はイトナの背中を押すと、1度4人の顔を見てからイトナは走って行った。


「世話かかんな」

「とかいって、寺坂が1番イトナの世話焼いてっけどな」

「んなことねぇよ!吉田!」

「いやいやー、あるって」

「あるね」

「村松に狭間も何言ってんだ!!」







「柴崎先生おはようございます!」

「おはよう」

「烏間先生、イリーナ先生もおはようございます!」

「おはよ」

「あぁ、おはよう」

「朝から暗殺?頑張ってるね」

「犬の格好した殺せんせー、すばしっこくって」


確かに本物の犬の如く走り回っている。もしかすると、この中の誰よりも元気で力が有り余っているのかもしれない。


「…?」

「先生?」


柴崎が後ろを振り向こうとした時、その首に誰かの腕が巻き付き飛び付いてくる。



「おっと…っ」


落ちないよう、咄嗟にその体を鞄を持つ腕で支える。視界に見える白髪とターバン。




「イトナくん?」

「………」


抱き着いてきた犯人はイトナだった。彼はギュっと柴崎に引っ付き離れない。



「どうしたのよ、この子」

「さぁ…」

「……、あ!分かった!」


倉橋が手を叩いて言う。




「イトナくん、柴崎先生に甘えたいんだよ」

「甘えたい?」

「ほら、イトナくんだけが柴崎先生のこと名前で呼んでるでしょ?それってそれだけ先生に懐いてるってことだもん」

「そういえばそうだな!イトナ、柴崎先生のこと大好きだもんなぁ」


杉野がそうだったそうだった、と笑いながら柴崎に抱き着くイトナを見る。そのイトナは恥ずかしいのか首元に顔を埋めている。



「柴崎先生」

「?」



生徒達の後ろから出てきたのはいつもの服装に戻った殺せんせー。



「今日1日!イトナくんをめーっいっぱい甘えさせてあげてください」

「……へ?」

「最近は色々ありましたしねぇ。柴崎先生もあまり元気のないようでしたから、イトナくんも甘えたくても甘えれなかったんですよ。でも、事は全て解決した今!遮る壁はなくなったのです」



ドドーンっと、何やら派手な背景が見えた気がした。疲れているのだ。きっとそう。

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