「知ってました?」
「知ってたよ」
名前というのは親が与え、一生その人の人生に残るもの。1人の生徒はその名前に大きく溜息を吐いた。
「皆武士の情けで「まさよし」って呼んでくれてんだよ。殺せんせーにもそう呼ぶように頼んでるしな」
「最初入学式で聞いた時はビビったよなー」
「卒業式でまた公開処刑されると思うと嫌ったらねーよ」
そう口にするのが、木村正義。ふりがなを打つと、「きむら ジャスティス」になるそうで。
「「親の付けた名前に文句言うとは何事だ!!」って叩いてくるしよー。子供が学校でどんだけからかわれてるか考えたこともねーんだろーな」
落ち込む木村に狭間が話しかける。
「そんなもんよ、親なんて。私なんてこの顔で「綺羅々」よ「きらら」!!「きらら」っぽく見えるかしら?」
「い、いや…」
「うちの母親メルヘン脳の癖に…気に入らない事があったらすぐヒステリックに喚き散らす。そんなストレスかかる家で育って…名前通り可愛らしく育つわけないのにね」
「大変だねー皆。ヘンテコな名前付けられて」
「「「「!?」」」」
お前が言うのか!?と目を開いてカルマを見る生徒達。確かに、カルマという名前も大変珍しく、聞く事なんてない。
「あー、俺?俺は結構気に入ってるよ、この名前。たまたま親のヘンテコセンスが子供にも遺伝したんだろーね」
そういうカルマの言葉に木村はうーん…と考える。そこににょきりと出てくる殺せんせー。どうにも彼も名前に不満があるようだ。
「殺せんせーは気に入ってんじゃん。茅野の付けたその名前」
「気に入ってるから不満なんです。未だ3名ほど…その名前を呼んでくれない者がいる」
それにギクリと肩を揺らす3人。言わずもがな、烏間・柴崎・イリーナだ。彼らは一度たりとも「殺せんせー」などと呼んだ事はない。
「烏間先生なんて私を呼ぶとき「おい」とか「お前」とか…。熟年夫婦の会話じゃないんですから。柴崎先生は「ちょっと」とか「異次元生物」とか…。最近では「タコ」なんて呼ばれて…!まるでペットのよう!」
「…だって…いい大人が「殺せんせー」とか…正直恥ずいし…」
イリーナが殺せんせーに背を向けてそういう。それに男性2人は小さく頷く。
「ねぇ、柴崎先生」
「…………」
「殺せんせーって、はい!呼んでみてください!」
「…絶対嫌」
「呼ぶだけですから!5文字じゃないですか!」
「6文字だから」
「伸ばしいれるんですか!?」
触手をワタワタとさせ言う殺せんせーを無視し、背を向ける。もう関与しないといった様子である。そこで矢田がいい事を思いついたと提案をする。
「じゃーさ、いっその事コードネームで呼び合うってどう?」
「コードネーム?」
「そっ!皆の名前にもう一つ新しいのを作るの。南の島であった殺し屋さん達って、互いの事本名隠して呼び合ってたじゃん。なんかそういうの殺し屋っぽくてカッコよくない?それに柴崎先生にもコードネームあったんですよね!」
「あぁ、あったよ」
「えっと、確か…アドニスでしたっけ?」
「そう。情報収集したり立って話をしている時だって、敵はどこから聞いて見ているか分からないからね。名前を出すのはご法度だよ」
「じゃあキールさんもあれはコードネームですか?」
「あぁ」
「本名は?」
「さぁね。本名を知っているのは上層部だけだ」
「へぇ…」
お互いの素性など知らず行動する。情報収集をするには隠密さが大切である。
「しかしなるほど、良いですねぇ。頭の固いあの3人もあだ名で呼ぶのに慣れるべきです」
それに眉間に皺を寄せる三人。余計なお世話である。
「それに…皆さんが親になった時のために、名付けセンスも鍛えられる。こうしましょう。皆さん各自全員分のコードネーム候補を書いてもらい、その中から先生が無作為に一枚引いたものが皆さんの今日のコードネームです」
「(面白いけど全員分考えるのか…)」
「(思いつきで適当に書いちまうべ)」
「今日1日、名前で呼ぶの禁止!!」
こうして生徒達は互いに互いのコードネームを考えることになったのだった。
「……」
「「「「…………」」」」
「…っ、…っ」
今は体育の時間。まだこれからだという時だ。
「……柴崎」
「…っ、分かってる…っ」
「…ならそろそろ笑うな」
「…っふふっ、ごめん…っ」
生徒達の前に立つ2人。それはいつも通りだ。何も変わらない。だが、烏間の隣に立つ柴崎は顔を背けて口元に片手を当てて肩を震わせているのだ。
「っ、本当…みんなよく分かってるよ…、堅物…っ」
「そこが笑いのツボか!お前は!」
「誰が考えたんだかね…!あははっ!」
耐えきれないのか、体を折って笑う柴崎。生徒達の目は生暖かい。
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