とりあえず、この姿のまま過ごし、いつも通り仕事をした。現在午後9時。
「柴崎、送る」
「なんで?一人で帰れるけど」
「今は女だろう?こんな時間だ。一人じゃ帰らせれない」
「あ、そっか…今女だ」
じゃあよろしく、と言い帰り支度を。着ていたスーツを持って席を立つ。用意が出来たのを確認して烏間は扉を開けた。
「……疲れた」
「…濃かったな、今日は」
「濃過ぎた…。今度花岡、赤井に会ったらシメる」
「やってやれ。許される」
車の中、助手席に柴崎を乗せて運転する烏間。
「烏間の名前出されてそっちに意識が向いたからってその瞬間に口入れるなんて…。油断も隙もないやつだよ」
「俺の名前で隙が出来たのか?」
「ん?そう、かな?うん。烏間がいるって言われてそっち向いたら入れられた」
「あいつら柴崎に何が何でも食べさせたかったんだな…」
「そんなに食べたきゃ自分で食べろって話」
「でも女化するんだろ?あいつらの女化、想像出来るか?」
そう言われて、そう言って、二人は想像する。ぼや〜っと。
「いや、やめよう。気持ち悪い」
「あぁ、やめよう。俺が悪かった」
靄がかかったとしても想像するもんじゃなかった。
「そう考えると、やっぱり適任だったのかもな。お前が女化するのは」
「やめてよ。もう二度とごめんだ」
「一度なったんだ。次は警戒できる」
「次変な事したら殴るけどね」
そして着いた柴崎の住むマンション。
「送ってくれてありがとう。助かった」
「気にするな。明日も朝送る。車は学校だからな」
「あぁ、ごめん。そうだった。よろしく」
「あぁ」
「じゃあまた明日ね」
そう言ってドアを閉め、背を向ける柴崎に烏間は窓を開けて名前を呼ぶ。
「柴崎」
「ん?」
「綺麗だ」
「…は……」
「一度も言わなかったからな。…でも、やっぱり俺は男のお前が良い」
「……」
「じゃ、また明日」
動く車。動かない足。なんだそれは。言い逃げか。
「…っ、狡いな、本当に」
でも俺も、女の俺より男の俺としてお前の横に立ちたいよ。
「その方が背中合わせられるし」
一番重要なことだ。烏間と柴崎にとって。安心して背中を任せることが。
「…はぁ、明日には戻ってますように」
一日だって言ったけど、やっぱり不安なものは不安なのだ。
そして次の日。朝起きれば無事男に戻っており、息を吐く。烏間が迎えに来てくれたのでその車に乗って学校へ。すると早々に…
「ハロー、柴崎!烏間!」
「おや、おやおや。男に戻ったかーっ!」
「女の柴崎。もう少し見たかったな…」
「せめて写真だけでも…」
チラホラと登校するE組生徒。彼らは触らぬ神に祟りなしといった様子で、サー…っと避けて通っていく。今はまだ夏。なのに、烏間・柴崎・赤井・花岡を取り巻くそこだけは冬だった。
「……許されるよね」
「……証拠は残すなよ」
「そんなヘマしないから大丈夫」
あーだこーだと言う赤井・花岡に持ってた鞄で頭を叩く。
「いだぁ!!」
「え!?なに!?」
「鞭」
「愛の?」
「憎しみの」
「怖ッ!?」
「いや本当ね、昨日はありがとう。良い経験させてもらえて、本当に、本当にありがとう」
念押し念押しと2度3度言う。柔らかく笑っているのになぜか怖い。そろーっと背を向けて去ろうとするその首根っこを掴む。
「…お礼したいなって思ってて。それに今日も天気が良いし、空も青いし。あぁ、そうだ。そんな時って、空に行きたくない?」
「え…」
「あ、いやぁ…どーかな…」
「行きたいよな」
「「…す、こしだけ…」」
「遠慮しなくても、すぐにでも行かせてやるから」
そしてズルズルと引きづり歩いていく。
「あ、ちょっ!柴崎!首!」
「首絞まってる!絞まってる!」
「絞めてんだよ。黙って付いて来い」
「天に召されそうだから!」
「このままお空に行きそうだから!」
「そのまま召されて二度と空から帰ってくるな」
「あ、おはようございます、烏間先生」
「…あぁ、おはよう」
「あれ、その鞄柴崎先生のじゃ?」
「あいつは今仕事中だ」
「え?」
その後、えらくスッキリした顔の柴崎先生が見られ、あぁ今日も平和だなと感じた瞬間でした。
By 一部E組生徒
prev | next
.