9歳 木の葉情報部A
副題:第二部の絵柄ほど洗練されていないかもだけど、第一部の線が好き

 開忘心の術は「心潜心の術」の応用で、印は他人にかけるそれと同じだが自分のチャクラで自分の頭の中に入るだけあって他人のチャクラと干渉することがない分難易度が低い。

 四月も終わろうという週末、任務明けで休みだったので、午前中に母・ユキからお願いされた家事を片付けて午後から隠れ家にこもった。
 春の山は明るい。萌黄色の若々しい新芽は青く大きく広がり、力強くやかましい夏の姿へと変貌しようとしている木々は益々生い茂りつつあった。冬と比べて洞窟の入り口は目立たなくて、わたしは少しずつ丈の伸びる草花を踏みしめて洞穴の簾を開けた。

「ガンマ、いる?」

 洞の中でガンマに声をかけると案の定土の下からぬるりと出てくる。

「いるよ〜」
「念のためだけど、誰か近くにいないか警戒しといて」
「言われなくたっていつもやってるよ」
「だよね……ありがと」

 胡坐をかいて鏡を壁に立てかける。わたしの顔、しばらく見ない間に少し精悍になったかな?
 客観的に見て、まだまだ小学生としか思えない。9歳といえば昼休みに外で鬼ごっこしてるような小学生のはずだけど、イタチやヨウジ君らと同じように鋭利な刃物を振り回し火を噴き蟲を操る世界に最近少し慣れてきた。それが顔にも出ているのかな?
 しばらくそうして眺めたあと、印を結び丹田に集中しチャクラを練った。熱く、つめたいチャクラが丹田から脊椎を通って身体全体にいきわたる感覚がして、そのままその流れを頭の後ろにも引っ張るようにして流す……鏡に映る自身の茶色い瞳を見つめているうちに、ぐい、とへそのあたりが引っ張られる感覚がして術がかかった。
 わたしの頭の中は、大きな脳みそが薄紫色の液体の中に浮かんでいるというなんとも奇妙な情景として映し出されたが、その脳みその中に手を突っ込むと脳みそが消えて、目の前に何枚も重なる和紙の群れが現れた。
 新しい記憶ほど大きな和紙に映像として映し出されており、浮遊する薄紫色の世界をどんどん奥に進むにつれ、和紙は小さくなっていく。勿論、新しい記憶の中でも既に忘れているものは、手前に浮かんでいても和紙の面積が小さいので、見落としやすいという寸法だ。
 わたしが見たいのは、こっちにくる前の記憶。
 白い和紙の群れの中を飛びながら、奥へ、奥へと進み、その和紙に映る映像が見る見る間に幼い頃のものへと逆戻りしていき、もうそろそろと思った途端和紙の群れが尽きた。

「………え、これで終わり?」

 今まで飛んできた空間を振り向くと、だいぶ小さくなってしまった白い和紙の群れが依然不気味に浮かんでいる。
 もしかして、まさかとは思うが、転生前の記憶はこの術の効果範囲外なのか?
 わたしは一旦脳みその中から手を抜いて、はぁとため息をついた。自分の頭の中で脳みそに向かってため息をつくというのは初めての経験だが、これじゃため息の一つや二つ、つきたくもなる。
 とりあえず、一回術を終了しようか、と集中を解こうとしたその時、ふと、今まで手を突っ込んでいた大きな脳みその“向こう側”に、同じ大きさの黒い塊があることに気づいた。

「なにこれ………」

 近づいてみると、これも脳だ。さっきのと全く同じ、シワの模様も手を突っ込んでいた場所の感じも等しく同じで、先ほどの脳と対になるようにして反対側を向いていた。

「……なんかわかったかも」

 黒い脳みそに手を突っ込んで、先ほどと同じように中に入る。そこには薄紫色の空間に黒い和紙の群れが現れて膨大の奥行きに向かってズラリ立ち並んでいる。

「………いやわかってないや。なんなんだこれ」

 一番手前の黒い和紙は、最初に入った脳みその中にあった最も大きい和紙と比べて1/4ほどの面積しかない。ゆっくりと和紙の群れの中を泳いでいくと、その中には、親指の平サイズのものまであって、転生前の記憶がいかに埋もれてしまっているか一目瞭然だった。

「あ、アカリ」

 アカリ――わたしの妹だ。
 転生前の一番新しい妹の記憶は、お父さんの誕プレを選ぶという口実で買い物に行き、夜飲み屋で喋っている時のものだった。わたし視点の記憶なので、自分がどんな顔をしていたのかはわからないが、妹のふてぶてしい顔が携帯をいじりっていたり、身内向けのぶさいくな顔で爆笑したり、ふてくされたり、ニヤニヤと目を細めてロクでもないことを嘯いている様子が克明に映し出されている。わたしは思わずその小さな和紙に触れて、記憶の中に入り込んだ。
 陽射しを浴び続けた本の背表紙のように色褪せ、雨風に晒されて腐食脆化した岩石のようにボロく崩れかけていた記憶が、今、鮮やかに蘇る。もう一度頭の中に刻み込まれるこの感覚――いつか思い出せなくなる気がしてた、妹のあんな顔やこんな顔。
 こんなの一生見ていられそうだ。しかしこの記憶の妹は死ぬほどムカつくな……改めて思い返すとウザいなこいつ。

「アカリ元気かなぁ……会いたいな〜。つーか向こうのわたしってまじどうなってんの……」

 『我が人生はギャンブル』を地で行くような、ロックで芸術家肌で危うい雰囲気の妹である。突然できちゃった婚を発表して、うちのお堅い母親が心臓発作で死んでしまうなんていう不幸を防ぐために、わたしの存在は必要不可欠である。まあ仮に不必要だったとしてもしぶとく居続ける所存ではあるが、ともかく、このままこっちの世界を全うしてはいサヨナラはいやだなと思った。
 その後わたしはしばし自分の記憶と向き合い、忘れかけていたそれを刷新する作業に没頭した。肝心の、ナルト原作の何冊目をいつ頃読んだのかを探しまくり、また今まで読んできた正確な情報が詰まった専門書、参考書、様々な教科書とサイトなどに眼を通そうとする頃にはチャクラが尽きかけていて、慌てたコゼツに揺り動かされて漸く術を解くと、4時間以上が経過していた。
 チャクラはほぼゼロに近いほど尽きていて、術が解けた瞬間に反動のように疲労感が身体を襲い、マラソンの後のように吐き気と汗と手足のしびれ、動悸が激しくなって、その日はもう忍術を使うことはできなかった。


 チャクラ切れでダウンした翌日から暫く、頭の中の情報を外部にバックアップする作業が始まった。
 まず、チャクラ切れの後物凄く眠くなって沢山寝た。一晩経つと昨日より頭の中がすっきりして、チャクラの流れもよくなっているように感じたが、その日の昼に休憩がてら身体を動かすと、尋常ではない眠気を感じて昼寝を挟んだ。
 理想としては、白ゼツに備わっている録画機能を拡張した忍術をつくり、頭の中の情報を文章・映像・画像ファイルとして巻物の中に封じ込めたい。更に、それは内容の種類によって外付けHDDのように取り外し可能で、持ち運びの容易い媒体であるとなおよい。しかし、例によってコゼツは完璧な白ゼツと異なるため現時点では録画機能をうまく扱うことができないし、わたしも巻物の中に情報を封じるような忍術を知らないため、それらは最終目的として掲げることとし、さしあたって必要そうな文字情報をノートにピックアップした。
 自分の知り合いや友だちが登場する漫画を読むという、実に珍妙な摩訶不思議な心地になりながらざっと原作を読み返したあと感傷に浸ろうとする自分をどうにか隅に置いて――全然置けなかった。最初はナルトを読んでる自分の記憶を探るのでいっぱいいっぱいだったし、読んでいた期間だって飛び飛びで、小学生の頃ハマりかけたかと思えばバトミントンに夢中になって漫画なんて読まなくなり、思い出したように中学生の頃再開したがすぐに高校受験に集中し始め……という感じで内容を気にする場合じゃなかったが、やっと“ナルトを読んでる記憶”をピックアップした後その内容に集中し始めたら、もう感動の嵐で全然記憶精査なんかできない。

「なるとぉ……サスケ………サクラ……」
「……?」

 イルカ先生がナルトを庇ったところで泣いて、白の再不斬語りで泣いて、中忍試験編、頑張るリー、シカマルの優しさに心温まり、ネジとヒナタのそれぞれが抱える想いに泣いて、我愛羅とナルトのわかるってばよで泣いて、猿飛ヒルゼンの死で泣いて……大蛇丸、ヒルゼン殺そうとしたときなんで涙流してんの?凄い心臓に来た……あとイタチは悪役ムーブがうますぎる、さすがカブトに嘘つき兄貴と呼ばれただけはある……と、まず第一部完結までが長い!もうめちゃくちゃ長いのにいちいち泣いちゃって、しかも完結後の映画BORUTOまで見てるものだから子供の頃の彼らが可愛くてしんどくてティシュひと箱くらい使っちゃった。ガンマも見かねて「あいつ呼んでこようか?」と声をかけてきたくらいだ。
 その後も、満を持してのイタチ再登場、火影探しの綱手過去話、サソリの過去、ダンゾウから任務を使わされたサイが第七班として打ち解けていくまでの過程、などなど、ほっこりしたり切なくなったりポリコレ的に古かったりギャグが最強に冴えていたりと存分に楽しんでしまい、結局時系列を正確にするための年表づくりに一週間かかった。

「はーおもしろかった」
「自分の記憶眺めるのってそんなに面白い?」
「自分の記憶じゃなくて、この世界の未来について…??多くの別れや死、そして得られた未来について………!!!」
「多くの別れや死を見て泣いて楽しむって。サイコパスかよ」
「ただいま〜!」

 ドン引きするガンマがやれやれと首を振り、アカデミーから帰宅したコゼツに「君のご主人様ちょっと頭がアレなんじゃない?」とこちらを指さして言いつのった。別にわたしはコゼツのご主人様じゃない、友だちだ。……多分。
 その後第三班での任務が二回あったが、それぞれC級の簡単なもので滞りなく終わった。イタチはもう十分中忍レベルなのに、こんな簡単な任務で大丈夫なのかなと思ったけど、イタチはイタチでこの世界の現状を知るための情報収集として毎回の任務を毎回クソ真面目に取り組んでいた。ちなみに、わたしの毎晩の幻術練習が突然終わったので「あきらめたのか?」と水無月先生に言われ、「得意分野を見極めるのも重要なことだ」とヨウジ君には何故かフォローされ、イタチは首をかしげて「ふーん」みたいな態度を取った。
 膨大な漫画の中から時系列に関わる数字を抜き出すのは本当に大変だ。とりあえず今の段階で誰がどこで何をしているのか、というところだけは把握するべく年表用巻物を新たに作り、主要キャラクターの現在の様子を補填した。ナルトが産まれた年、つまり『九尾事件(10/10)』を基準としてそこからA.N.(アフターナルト)B.N.(ビフォアーナルト)で何の事件がいつあったかを記し、また今現在(AN4年)、イタチ、カカシ、オビト、カブト、暁の面々、長門たち、三忍がどこで何をしているのか大まかに推測する。

「……ガンマ、ちょっとコゼツに第二次忍界大戦の歴史書?みたいなものがあったら図書館で借りてきてって伝言してくれる?」
「おーけー」

 長門たちのあたりが全然わからん。
 長門たちが自来也に師事したのが第二次忍界大戦中で、その後大戦が一旦終結するも雨隠れの内紛が起きて、自警団みたいな綺麗な暁ができて、一度オビトが接触し、半蔵とダンゾウの……ここ名前似てるな〜、ゾウゾウコンビに騙され弥彦が死んだのが多分今から数年前。恐らく現在の雨隠れは、旧政権である半蔵派と汚い暁・ペイン派に分裂している?状態と思われる。
 うちは一族虐殺事件にはオビト(マダラ)も一枚かんでいることから暁の状態についてうっすらとでも把握しておいて損はない。ただ、雨隠れは現在も内紛が続いて治安が悪いようだからどれほど情報が集まるかは期待できない。
 勿論年表作成の最中に、穢土転生の術式についてわかるコマもじっくり観察した。コマを一つ一つ書き写すくらい入念に、術の発動状況の模式図を別の巻物にトレースし、仙人カブトの吹き出しに隠れた背景の術式発動状態を調べた。仙人カブトほんと良く喋る。
 それで…なんと……驚いたことに、穢土転生の術式が五割がた判明した。

「サエ〜アカデミー終わったよ!」
「おかえり……」

 丁度コゼツがアカデミーから帰ってきて、カバンを置いて水を飲み始めたが、挨拶もそこそこに巻物に向かって項垂れているわたしを見て「どうしたの」と声をかける。「うん……」と適当に答えた。
 原作を読んだ感じだと印程度しか分からなかったので、穢土転生の術式についてはもうこっちで調べるしかないんだろうと踏んでいたのだが、いざ漫画を読み返してみたら術式の根幹をなすものが分かってしまったのだ。ほら、カブトが根を生贄に穢土転生するシーンや、大蛇丸が白ゼツを生贄に歴代火影を穢土転生するシーンなんかの床に、みみずがのたくったような文字、ヒジキみたいな忍文字がズララッて出てくるじゃん?前世では、『それっぽい模様だなあ』程度にしか思わなかったけど、こっちの世界で忍文字を学んだ後に見てみると、それが”なんであるか”理解できたのである。

「思ったより記憶掘りだせなかった?」

 お茶飲む?と言われて水筒を差し出されたけど、手持ちのが残っていたので断った。コゼツはわたしの向かい側に座って、背中を洞穴の壁にもたれかからせて「この壁も全部木で補強したいなぁ。スグリにリフォームのやり方教わろっかな」とぼやいている。

「今すぐ使えるわけじゃないけど、穢土転生の術式が半分わかっちゃった」
「へぇ〜よかったね。じゃあ術式調べに忍び込みにいく計画なくなったの?」
「ううん、理解の一助として基になった術は知りたいから作戦Uはやりたいよ。でも、事前予想ではかなり頑張らないと術を完成させられないと思ってたから驚いてて」
「………でも落ち込んでない?」
「だって…心の準備が出来てなくて……」

 まだ火影室の隣の書庫に忍び込む前なのに、ここまで情報がそろうとは思っていなかった。想定よりずいぶん早く柱間さんに会うことになりそうで怖い。

「うーん柱間、はしらまさんかぁ……人選間違えたかな?」
「選択の余地はないって自分で言ってたんだろ〜?」
「個人情報物質の入手難易度からすれば、もう何年も前に死んだ人たちの生きた細胞を見つけてくるなんて到底無理だしそりゃ柱間さんが一番楽だよ。でも正直方針をエドテンに固めた後については、あんまり細かく考えてなくて……とりあえず穢土転生の術が会得できなきゃなんにもできるようにならないから……」

 ガンマが土から身体を出して、コゼツの水筒を代わりに受け取りお茶を飲み始める。コゼツが少し鬱陶しそうにガンマから水筒を取ろうとしたが「いいじゃん、ボクも飲む」と言って緩やかにそれを拒否した。

「でも、この感じだと誰を穢土転生するかについても本当にちゃんと考えた方がよさそう」
「ちゃんと考えてなかったの?」
「そうじゃないけど……改めて、柱間さんってちょっと怖いなって」

 二日間以上かけて原作を読み返してみた感想は、記憶の中の柱間さんよりも原作の柱間さんは怖い、だ。
 里にとって脅威になるであろう人物は、それが例え友であろうと、兄弟であろうと、我が子であろうと排除する。『今を見守るために耐え忍ぶ覚悟を決めた』、その頃の自分をそう語った彼が、最後にマダラを後ろから突き刺した表情を見ると有無を言わさぬ迫力を感じて嫌な汗が出た。
 漫画を読んでいたときは、「キシモトセンセーの画力本当にすご〜い!マダラと柱間はこうして決別してしまったのか…切なすぎる…泣ける………ナルトとサスケはちゃんと和解して欲しいな〜〜でも創設期ホントかっこいいなー!」なんてノンキに思っていたけど、これと実際相対するとなれば話は別だ。あと顔はやっぱりかっこいい。特にマダラ。

「柱間さんでいいと思う?」
「ボクはエドテン候補の中で実際会ったことあるのマダラだけだし、いいかどうかって言われても全然わかんないよ。でも二代目火影ってうちは一族と里の禍根を作った張本人だしサエに賛成してはくれないだろ」
「うん……」

 二人で悩んでいても埒が明かない。
でも自分でも判断ができない。

「でもさ、それ、捕らぬ狸の皮算用ってやつじゃないの?転生させてから考えればいいじゃん。使い勝手が悪かったら術の縛りを解かれる前にサエが術を解けばいい、そういう忍術だって前言ってなかった?」
「そりゃそうか。……取らぬ狸の皮算用なんて、そんな諺よく知ってたね」
「この前アカデミーでことわざ大会があった」

 コゼツは目を細め、「猿も木から落ちる」「豚に真珠」「棚から牡丹餅」と謳うように続ける。

「確かに……穢土転生がそもそもできないかもしれないもんね」
「そーそー!」

 アカデミーで学んだ内容と、いくつか自分でもやってみた感覚によると、狭義の”忍術”とはソフトウェア、”発動場所”がハードウェアだ。
 例えば口寄せの術の場合、印とチャクラの練り方、動物との契約行為と呼び出し方法などがソフトウェアで、それを発動する場所と使用者の身体がハードウェアにあたる。口寄せの術の場合、”呼び出す動物”によって呼び出す場所が違う――例えばサスケのキーさんは空中でも呼び出せるが、ヒルゼンの閻魔は掌(血)を接地させなければならない――ことから、その動物の生態とも関係がある。まあ、口寄せ動物とはある程度円滑な『人間関係』を築くことが求められるので、”猿なのに空中に呼び出すとかふざけんな”とか”鳥なのに水中に呼び出せるわけねーだろ”みたいな理由かもしれない。
 忍文字はプログラミング言語のことで、術式発動の命令文を書いたものがコード、発動する忍術がアプリケーションにあたり、それをどのように操作するのかは使い手のチャクラコントロールに依る。パソコンの場合はOSとハードウェアって別物として区切られているけど、だいたいどのPCにも何かしらOSが入って売っているように、こちらでも封印用の巻物とか攻撃用の巻物などと最初から用途別で売られている。
 そして、ハードの種類によって使い勝手が違うように、忍術も内容によっておすすめのハードってやつがある。封印術一つとっても、巻物に封印した方がいい場合と、特殊な封印物(たとえば魔像、鳥居、石碑など。人体に封印する場合は特例中の特例だ)が必要な場合とあり、どれもチャクラが漏れだしたり術式が勝手に解けたり、”ウイスル”や”ハッキング”から中身を守れるようにその構造は繊細で複雑だ。
 逆に、火遁の術をいちいち巻物から発動するとなると、チャクラを通じてから術が出てくるまでに幾つものプロセスを踏まなければならないため、発動までに時間がかかって戦闘じゃ使えない。その点、胃の中でチャクラを練り上げて口から吐くだけなら、手慣れた者ならコンマ数秒で発動できる。
 素早さが要求される忍術はなるべく手順を少なく、逆に堅実さが要求されるものは丁寧に幾つもの壁で囲って手順を多くする。そうやって様々な忍術が構築され、改良され、今日に至っているようだ。

「火影邸忍び込む計画立てる?」
「待って、ちょっと待って。とりあえず次の任務が明日で、高所野草採取の依頼だから多分一日で終わるから、それ終わったら作戦会議して、その次の任務が終わったら決行……っていう理想」
「おーけー」
「でもその前にちょっと休憩!!本蟲ツタさんのとこも行きたいし……つかれた〜〜〜」

 コゼツは、コゼツは水筒をオメガからふんだくって、中身が全て飲まれてるのを確認した後それをカバンに入れて立ち上がった。「じゃあ、今日はボク出番なし?」と聞いてトントン、とジャンプしてつま先で軽快に地面を叩く。

「そうだけど、どうした?」
「組手しようよ」
「ア〜〜〜〜〜〜うん。ちょっと休憩……」

 疲れてるんだよ……。
 たぶんコゼツはアカデミーには体術で張り合える相手がいないから、さっきから返事もおざなりで準備体操に余念がない。バスパンみたいなハーフパンツから伸びる彼の足が、テーピングの上からでもしなやかな筋肉繊維で包まれていることが分かる。あの、日光と水分が足りない朝顔のような、冷蔵庫でシワシワになったホウレン草のようなやせ細って死にそうだった状態からよくもまあここまで回復したものだと改めて思う。
 原作で体術が強い人といえばガイ先生、リー君、日向家、エーとビー、綱手……あとはうちは家も強いイメージがある。勿論今のわたしやコゼツと比べれば原作キャラの殆どが強いことは間違いないが、今その中の誰もアカデミーには所属していない。だから、たまにお母さんに「コゼツがね、街中で年上の忍に組手の相手をせがんでいたって、田中さんに聞いたのよ〜、男の子ってみんなそうなのかしらねぇ」と心配そうに打ち明けられたり、コゼツ自身から「さっきネジに声かけたけど無視された」と報告を受けたりするのは仕方のないことかもしれない。わたしは、マイトガイが強いよと教えてあげたが、ガイはもう上忍で頻繁に他国へ出かけているため、なかなか街で偶然ばったり会って組手を、というわけにはいかなかった。
 
「ねえ!!まだなの!!!!」
「うわぁぁぁぁ!あとちょっと!待ってて!!」

 五月蠅い弟分が回りでドタバタする中で、穢土転生の理解について巻物に筆を走らせた。

@エドテンは現世に留まらせる器として塵を使うから、必要な元素を不足なく集めるために地面で行う。
Aエドテン相手の遺伝子情報としてDNA、口寄せ通行料の生贄としてコゼツ別個体を用意する。
B巻物などに予め術式を映しておき、発動したい場所で構築、接地して印を結ぶ。
 
 この忍術は一見とても高度で必要なチャクラもさぞ多かろうと予想しがちだが、実際あの世から魂を呼び寄せるためだけにチャクラを使用するだけなのでコスパがいい。Fateでいうところの聖杯戦争システムだ。サーバント・柱間、召喚に応じて参上してくれ。令呪は何画でも使えるが術者が弱いからって無視しないで命令に従ってくれ。
 ここで、今分かっていない情報はコードである。つまり一番大切なところが分かっていないじゃないかと言われそうだが、実はコードは地面にもじゃもじゃと書かれているのでそれをそのまま流用すれば万事オッケー問題ない。
 しかし、ここで大蛇丸の天才っぷりが本領を発揮する。あろうことか彼は、忍界で主に使われている忍文字ではなく、大蛇丸が独自に開発した忍文字で術式を書いていたのだ!例えばわたしがRubyとPHPしか分からなかったとして、彼が使っているのはJavascript、みたいな。
 ここに現る救世主がカブトの術式だ。カブトも長年大蛇丸の元でプログラマーやってきただけあって当然のように”蛇vascript”を用いているが、多くの穢土転生を一度に操るために術式を物凄く簡略化した。それは、原作でカブトが穢土転生したときに地面に浮き出た文字を見れば、忍文字初心者のわたしでも分かる。カブトの書いたプログラムは、大蛇丸が書いたプログラムをめちゃくちゃ簡単にしたバージョンなので、あとはわたしが”蛇vascript”を勉強すればコードを理解できるだろう。

「ま〜〜〜た勉強か。もういいよ勉強は……疲れたよパトラッシュ…」
「終わった?」

 何故かキレ気味に尋ねられたので巻物を閉じた。キレたいのはこっちだというのにコゼツにむっとされると強く出られず、ちょっと疲れてイライラしていたのに「ごめん」と謝った。下の子のあざとうざい仕草って本当にずるいよね。
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