9歳 第三班@
 まず先に結論から話そう。命からがら逃げおおせた厳しい冬を越え、草木の芽吹く春になり、紆余曲折を経て念願の下忍に上がったと思ったらイタチの班だった。
 去年の三月、卒業試験一週間前に突然「卒業試験受けちゃう?」って軽いノリで先生に声を掛けられ、幸運にもアカデミーを卒業することができた。イタチほどとは言わないが、六歳でアカデミーに入学した同期の中ではイタチに次いで二番目の好成績である。うちは一族をはじめ数々の有名忍族を差し置いての飛び級卒業、それも一般家庭という出自を鑑みたら、まさに期待の新星兼庶民の星のダブル二つ名を戴いても差し支えないのではないだろうか?あくまで最終目標が“うちは一族虐殺の夜を止めること”だからこの程度だと心細く感じるだけで、客観的に東雲サエという下忍を評価したらこの努力と才能は素晴らしいものだ。
 そう改めて自分を評価し、自分の上と下を見て自己肯定感を高め“おれはやれる”と自己暗示しながら意気揚々と迎えた四月の第一週目、ワクワクしながら教室に入ったら、皆三人一組の席に座っているのにわたしだけ三人席に一人だった。もうこの時点で「うん……?」って思ったら案の定最後まで名前を呼ばれないし、教室にボッチで取り残されるし(これきっと途中から誰かの班に編入するパターンだな。既に出来上がっている友情の中に新しくわたしだけが入るって……あれしかももしかしたらその欠けた一人が死んでいる可能性だってあるわけで、うわめっちゃやだ!凄いそれ嫌だなあ、暗いなーきっついな〜)って思って待つこと数十分、水無月先生というナルト原作では出てきていないが確実にどこかで聞いたことのある名前の先生に連れられて教室を出て、第五演習場の丸太の前に行ったらそこにイタチがいた。

「よし、これで全員か。えー、まず新しく入ってくれた二人は知らないことだと思うが、僕とイタチ君がいた以前のフォーマンセルから、事情によって2人下忍が抜けて新しく君たちが入ることになった。なので、ここが新たな君たちの班ということになる。じゃあ、まずはお互い自己紹介をしようか!」

 あぁ〜……そうだったそうだった、イタチ真伝でちらっと読んだぞ。
 なんか、イタチが最初配属された班には意地悪な男の子となまりが強い女の子がいたけど、とある任務で男の子の方がトビに殺されちゃって、イタチはそこで写輪眼開眼して、なまりが強い子はその事件のせいでPTSDみたいになって忍をやめたんだっけ。
 その後新しく班編成されて、女の子と男の子が入るはずだ。女の子の名前は忘れたけど男の子の方は覚えている、イタチを監視するために根から送り込まれてきた油目一族の子。そしてわたしの隣に、油目一族っぽい雰囲気の男の子がいることから、恐らくその新しく入る女の子に替わってわたしが配属されてしまったのだろう。
 自分が恣意的に行動しなくても原作の内容が変わってきていることを実感して少し面白かった。多分、東雲サエという女の子が原作で忍じゃなかったか、もしくはイタチと同じ班に配属されるはずだった女の子より成績が低かったかして、本来選ばれる運命ではなかった筈なのだ。
 あと、イタチ真伝の内容がこっちの世界でも反映されているのか不明だったが、この様子を見るに、今のところはイタチ真伝≒原作と考えて差し支えないようであった。
 水無月先生の指示により、”名前と将来の夢を適当に”と簡単な自己紹介を1人ずつ喋っていく。

「……うちはイタチです。将来の夢は………争いのない世界を作ることです」

 イタチは、少し見ないうちに声が低くなり、背も高くなっていた。彼の聡明な心は、その窮屈な身体と狭い世界から脱したいともがいているようだと思った。

「油目ヨウジだ。将来の夢は特にない、オレの存在意義は里の為に在ることだ」

 根らしさがありすぎる答えだ。君ちょっと潜入任務向いてないんじゃないか?大体、ヨウジ君って今いくつなんだろう。わたしやイタチより年上に見えるから……12歳とか?
 さて次はわたしの番だ。油目ヨウジの監視目標がイタチであるからと言って、わたしがここで変なことを口走ってダンゾウサンに報告されたんじゃたまらない。

「東雲サエです。将来の夢は専門分野で一旗揚げてノーベル的な凄い賞貰って特許や印税でそこそこ金持ちになって南太平洋のリゾート地に別荘を建ててそこに閉じこもって漫画アニメゲーム三昧のニート生活を送ることです」
「べっそう?ははは、サエは面白いやつだな!」

 無難に、ちょっと変人みたいなキャラを作っていこうかな?と思ったけど、普通に笑いを取れなかったしスベった。
 そもそも前半は明らかに盛りすぎたし後半については本音を飛躍させすぎて全体的にリアリティがない。勿論できれば研究開発職に正社員として採用されたいけれど、しっかり働いて最低限の文化的生活を送れる程度にお金を稼げる職種につけるならなんでもいいし、そのあたりの現実的なことを考えるのが怖いから考えたくないから逃げてしまった。
 まず、わたしは院に行く前にこちらに転生してしまったので、研究についても就職についてももやもやしたイメージしか抱けていない。だから、今の自分に本当の夢があるとすれば、この世界からどうにかして前の世界に戻ることだろう。そうしたら、ナルトの漫画を読み終わったあの夜に戻ってその後は大学在学中に溜めたお金とどうにかしてバイトで生活費をやりくりして極貧院生生活を送りながら学会出たり論文書いたりするんだろう、それで就活するけどD進ほど専門知識はないし一流大学の修士には勝てないしでどの辺の会社になら入れるのか分からなくて、高望みして落ちまくったりして下手するとどこにも受からなくて、ちょっと興味あるけどブラック企業の正社員か興味ない会社の興味ない正社員か研究開発系補助の仕事はあるけど派遣社員かで迷うことになって……ああ既に気持ち悪くなってきた……でも、就職うまくいかなかったり薄給で夢も希望もない職場で働くことよりは、忍者の方が断然、もちろん、辛いに決まっているのだ。東雲サエはまだ大学四年生までの人生しか知らないのでそう思っている。

「よし、じゃあ顔合わせ初日から任務をやるぞ!内容は、サバイバル演習だ!」

 水無月先生曰く、このサバイバル演習で負けた人はアカデミーに戻されるそうだ。去年の合格者42名のうち下忍になれたのは15人、約1/3しか合格できない超難関試験だと言っている……が、元々イタチはこの試験に受かっているし、せっかく抜けた班員の穴埋めでわたしと油目ヨウジが入ったのにここでまた誰かが落ちたらこの班はいつまで経っても任務を開始できないわけで、わたしが落とされるとは考えにくい。つまりイタチのいる班に配属された時点で出来レースである。
 先生の指示により、めいめい赤青黄の鉢巻のうち一本を選んで腰に差し込み、30センチほど垂らした。水無月ユウキは緑色の鉢巻を腰に挟んで、パンパンと手を叩いた。

「自分の持ち色は1点、相手の持ち色は2点だ。今からこの鉢巻を奪い合い、終了の鐘が鳴ったとき2点以上持っていた奴だけ下忍に昇格できる。イタチは合格してるから仮に負けてもアカデミー送りはなしだぞ、良かったな!」

 水無月は笑顔で言い放ったが、イタチの顔色は優れない。

「何か質問は?……それじゃ、はじめ!」

 パン、と手を叩いて、慌ててその場から離れて木陰に隠れた。
 さて、わたしの持ち色は赤。イタチが青、ヨウジが黄色。先生の説明から推察するに、時間が来るまで逃げ続けていたら失格で、自分の鉢巻を取られてもいいから誰かの鉢巻を奪わなければならないってことだ。つまり、全員が戦わなくてもお互いに鉢巻を交換し合えば円滑かつ短時間で試験は終了する。
 あと、水無月先生の持つ緑色の鉢巻についての説明がなかったんだけど、先生の持つ鉢巻も2点なのかな?
 とにかく2人の居場所を見つけようと、わたしは植え込みの中から出て森の中を走り出した。

「ッ!」

 間一髪、斜め後方から飛んできた手裏剣を左に避ける。地面の上を転がって左側にごろごろ二回、反転したら今度はその場所を狙って立て続けに手裏剣が飛んでくる。跳ね上がってクナイでそれを弾きながら敵の居場所から身を隠そうと走り出す。再び手裏剣が、今度は左右から同時に飛んでくる。右側の手裏剣は弾いたが、左側から来るものは身体を捻って躱したら腹部を切り裂いて木に突き刺さった。

「イタチ!待って!」

 どこにいるのか分からないので、次なる攻撃を警戒しながら声を張り上げる。攻撃は一応止んでいるが、イタチが姿を現す気配はない。油目ヨウジがわたしを積極的に攻撃する理由が分からないし、彼は虫使いだから、この手裏剣攻撃の相手はイタチであるはずなんだが――。

「鉢巻を交換しようよ!そうすれば全員、まあイタチはもう下忍だけど、全員合格だし!」
「………………」

 返事はない。
 大体、イタチにはわたしを落とす必要性がないし、この演習の効率よく終わらせる方法だって分かっているだろうに、何故手裏剣を投げてくるんだろう?
 しかしイタチが本気で鉢巻を狙ってきたらわたしに勝ち目はない。わたしは火遁や水遁のような性質変化の忍術を習得できていないから、相手を仕留めるときの手順はたいてい、手裏剣でかく乱してから影分身を応用して体術で攻め落とす。つまり近距離戦しか選べないので、イタチが姿を見せなければこっちに打つ手はない。
 だがそれはイタチも同じだ。うちは一族は伝統的に体術をしっかり教え込む習慣があり――幻術をうまくハメる為に相手に接近する必要があるからだろうか――そこにプラス火遁を広範囲攻撃として使う。この近距離スタイルを基礎として、後は各々中距離をカバーしたり近距離攻撃にバリエーションを増やすための獲物を使い相手をほんろうする。イタチは後者の獲物として手裏剣やクナイをよく使い、サスケは刀+雷遁、マダラ及びオビトは鎖鎌だ。
 つまりうちは一族の人間が逃げることを目的としていない場合、絶対距離を詰めてくるはずなので、攻撃を待ってさえいればいい。
 わたしは走り出し、木々の隙間を通り過ぎるときに影分身を作って本体と入れ替えて木々の上に待機した。影分身の自分が立ち止まり、開けた場所でイタチの攻撃を待つ。

「ッ!」

 頭上から踵落としが来て、間一髪でのけぞり避けた。畜生聞く耳持たずかよ、と影分身の自分はポーチから手裏剣を出して牽制しながらまずは距離を取る。わたしの手裏剣に当たったイタチの手裏剣に、クナイを当てて回り込みながらイタチのクナイが6本飛んできて、前に走り出しながら避ける。
 手裏剣やクナイといった投擲物は、たいていが相手を仕留める為ではなく相手の動きを制限して自分の罠に誘導する為にあるので、わたしが前に走り出すと待ち構えていたイタチの火遁が襲い掛かってきた。マジで容赦ないんだがこれ影分身じゃなかったらどうすんだよ……と冷や汗をかきながら、影分身がポンッと消えるのと同時にイタチに後ろから接近し、鉢巻を掠めとる。
 ポンッ!

「ああー」

 こっちも影分身だったか。わたしごときが天才イタチを出し抜けるなんて変だと思ったけど、それとこれとは話が別だ。本気でやって負けたら悔しい。

「勝負あったな」

 首筋にクナイが当たっている。腰から鉢巻が抜き取られた。

「えぇ〜〜〜……ねぇ、なんで本気なの?ふつーに鉢巻交換しようよ」
「本気でやらなければ意味がない。これは下忍になる資格があるかどうかを調べるための演習だろう」
「そうかもだけど、そうかもだけど!」

 クナイが取り払われたので後ろを向くと、イタチはふっと笑って鉢巻をひらひらとふってみせた。

「お前と同じ班になるとはな」
「わたしも、イタチと同じ班になるとは思わなかったよ。イズミちゃんがよかった?」
「どういう意味だ?」
「いやいい、ごめん適当言った、鈍感主人公ってキャラでもないしな……、んー、あ、イタチはもう中忍かと思ったよ」
「……そんなに簡単じゃないさ」
「そう?」

 あーあ、鉢巻取られちゃった。いや、取られるのはいいけど、この様子だとイタチは交換に協力的じゃないみたいだしマジで落とされたらどうしよう。さっきは出来レースとか言ったけど落とされたくないな……イタチの鉢巻今から狙うのはちょっと体勢立て直したいし、かといって油目ヨウジ探すのは骨が折れそうだし。蟲使う人に不意打ちとか絶対通じない。体術もあんまりいいとは思えない、そもそも油目一族って全員そこそこ独立した技を使うイメージがあるから油目ヨウジの術が分からない以上どうすればいいか……起爆札5枚しか持ってきてないんだよなぁ、これをどうにかして使うしかない。

「じゃあな」
「あ、待って待って!あの、油目ヨウジ君の場所見つけるの手伝ってください」
「お前がここで落ちたら下忍になるには足りなかったということだ」
「ですよね、ごめん」

 イタチは行ってしまった。は?畜生クソ真面目野郎だアイツ……わたしは己の胸に手を当て改めて考えた後、下忍になるには時期尚早だったやもしれぬと、今後の展望に一抹の不安を抱いたのであった。
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