8歳 / 白眼取引計画B
副題:コゼツとコテツは響きが似てる

 父は大工なので、その現場によって作業場が遠くもなり、近くにもなる。コゼツが父の手伝いをするとき大抵朝早くに家を出るが、今日は今までで最も早く、朝五時には慌ただしく玄関扉が開閉する音が寝室にまで響いていた。
 12月18日、コゼツと正午に待ち合せていたが、少し早く着きすぎたので近くの本屋で時間を潰していた。店の前には、『忍はいかに死ぬべきか』とか『歴代火影の勇敢な死に様』などの本が平積みされていて、忍なら美しく立派に死ね!という圧力をビシビシ感じて面白い。
 こっちの世界にも一応漫画はある。パラっと見た感じ、忍里ではなく火の国のどこかに住む一般人が書いているらしく、少しは希望を感じさせる内容だったが、主人公の忍者率が高かった。

「週刊NINJUMP……忍里と契約結んでるだろこれ」

 なんだニンジャンプって。背表紙には木の葉隠れのマークがあるから、流通しているのは火の国だけらしい。
 漫画雑誌を置いて、ファッション雑誌コーナーに移った。最近のくの一の流行忍具や鎖帷子の着こなし方、ヒールでも美しく着地するコツなど、こっちも面白い。少し前から使い始めた石鹸の匂いのせいで、最近8年ぶりに色気づいていたわたしは、しばらくファッション雑誌を読み漁った。
 ネイルしたいな……あーでも今8歳だからなぁ。流石にもうちょっと待ちたい……化粧も特に必要ないし、あとは何だろう…?あ、髪の毛!折角外国人みたいな柔らかい栗色なんだから、ショートカットにしたいなぁ。

「あら?」

 なんだか視線を感じるなぁ、と思っていたらすぐに声がかかって顔をあげた。夕日紅、マイトガイ、イズモ&コテツが歩いていて、紅さんだけがわたしに反応したように顔をパッと明るくした。

「東雲サエちゃん?」
「……知り合いか?」
「あんたたちも知ってるでしょ?ほら去年、団子屋で会ったじゃない。……わたしたちのこと、覚えてる?」
「はい、紅さんお久しぶりです!」

 わー、久しぶりに担当上忍世代だ。しかもまた一緒に行動してるし、本当仲良しかよ……!
 雑誌を閉じて向き合うと、紅はニッコリ笑って、わたしが身体の前で所在なさげにしている両手を見る。何を見ているんだろう、と思ったが、包帯かもしれない。

「アカデミー入学できたんだってね!よかったね」
「はい!コゼツ、あ、あのとき一緒にいた弟も入学できました」
「おお!サエか久しぶりだなぁ!」

 ガイが手をグーにして眼を燃やしたのでちょっとどうしようかと思ったが、まあここはのるしかないと、同じポーズをして拳を突き合わせる。

「青春してるかァ!!」
「し、してます!!!」

 キラーン!と白い歯を見せてきたのでこちらも負けずにキラーン!
 キラーンの応酬で店の前を若干騒がせてしまい、店員さんに声をかけられそうになったところでイズモが無理矢理ガイの場所を移動させた。

「あれ、アスマさんいませんね」

 カカシがいないことにはもう慣れた。きっとこの頃のカカシはガイたちと付き合いが悪かったんだろう。
 アスマの話題を出すとコテツはちら〜っと視線を泳がせて紅の顔を見たが、そのことに紅は気づいていないようだった。

「アスマは今里の外に出てるのよ」
「えっ里抜け……?」
「ぶっ、んなわけないだろ!ははは!」

 そんなに面白いことを言ったつもりはなかったのに何故かコテツのツボに入ったようでひとしきり笑われた。わたしのギャグセンはそんなに向上していたか?と真剣に考えそうになったところで、彼は「里の外にある有名な寺に、修行しに行ったんだよ。まああれだ、家出」と言葉を続けた。

「家出……」

 ……あ!
 様々なことに辻褄が合って頷く。きっと彼らは、特に事情なんて知らない筈のわたしが合点承知しているさまを見て少し不思議に思ったことだろう。
 アスマが、守護忍十二士とかいう凄いんだか凄くないんだかイマイチ分からなかった集団に入っていたことは知っている。角都&飛段に殺された地陸がその一人だ。なるほど、アスマがそれに入るのはこの時期なのかもしれない。いやわからんけど。
 そしてコテツが”家出”と称したことも少し納得いった。これは想像だけど、豆腐屋でヒルゼンに会った時の仏頂面は、ちょっとツン入ってる、程度の軽いものじゃなかったんだ。火影の息子であるというプレッシャー、火影業務で忙しいヒルゼンに対する複雑な感情、そしてクシナの出産の面倒を見ていたビワコが死んだこと……母親を守れない父親に対して思うところあったのかもしれない。

「アカデミーはどうだ?大変か!」
「大変です……あ、でもでも、わたし一応クラスで一番なんですよ!」
「へぇ、マジかよ」
「すごいな」

 イズモとコテツは相変わらずテンションが変わらない感じで、感嘆の言葉を呟いたが、特にお世辞を言われているように思えなかったので悪い気はしなかった。ちょっとふふっと笑ってしまい、イズモは「ん?」と首をかしげる。
 木の葉の忍って、こういう人多いよなぁ……根が素直すぎるというか。いい奴多いのに妙に民度低いのもそういう理由なんだろうか。

「でも、わたしもっと早く卒業したくて……あはは、生意気ですよね」
「やけに焦ってるわね。どうしてそんなに早く卒業したいの?」
「早く強くなりたいので……」
「一番ならそのうち飛び級できるんじゃねぇか」
「でも、今は時期が悪いかもな」

 時期が悪い、と言ったのはイズモだ。

「先の大戦で子どもをどんどん卒業させてバンバン戦場に送ったから、一時期忍平均の成熟度が低かったらしい。今は平和だから、焦らずゆっくり子供を育て上げて十全な状態にしてから任務に出したいっていう上の考えがあるんじゃないか」
「あー……」

 思わず深く納得してしまった。

「ウームなるほど、それはあり得るな」
「ま、それでも飛び級する天才ってのはいるけどな。なんだっけ?最近の……うちは一族にいたよな」
「ム、いたか?」
「あそこはどいつも天才だから分からん」
「それもそうね」

 なんてことない顔でウンウンと頷く4人。
 あぁ……もう、この人たちってちょっと抜けてるっていうか、いい意味で呑気な感じが好きだ。なんて説明すればいいか分からないけど、とにかく、木の葉の忍って感じ。うちは一族もこれくらいの根明さがあったらいいのになぁ。……いや、ああ、そんなうちは一族希望の星だったオビトさんがああなったんだったわ。
 その後コゼツが待ち合わせ場所の公園の前に現れたのが見えて、彼らと別れた。わたしがコゼツを見つけるのと同時にコゼツもわたしを見つけて、何故かコテツにだけめちゃくちゃいい笑顔で「コテツ〜!」と叫び、手を振っていた。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -