8歳 / 日向ヒナタ誘拐未遂事件A
副題:中二病なかっこいい名前って実は結構難しい

 第11回作戦会議、またの名を白眼取引計画最終打ち合わせをする前にお腹がすいたのでお弁当を食べた。

「焚火あったかいねー」
「焚火があったかいんじゃなく外が寒いんだ」

 雪に覆われた標高2800mで一体なにやってんだって話だ。空の弁当箱を鞄にしまい込み、まだほかほか湯気が立っている水筒からお茶を注ぐと見た目に違わずとても温かい。気圧低いと湯気立っててもぬるいことあるから、嬉しい。

「魔法瓶すげー」

 メーカーは……象印じゃなく木の葉印でした。

「よーしエネルギー補充で元気百倍アンパンマンなので一週間後のわたし追悼式始めます」
「……という名の作戦会議だろ」
「…という名の生前葬ですよ」

 コゼツが拾ってきた木々は湿っていてなかなか火種にできないので、焚火の近くで乾かしている。その乾かした木々をまた数本炎の中に突っ込んで、わたしはノートを開いた。

【1】ヒザシが死ぬ前に、本物とイプ1で作った偽物を入れ替える。
   ※死ぬとき一人じゃない場合作戦中止
【2】ヒザシの本体をコゼツに飲み込ませて運び、代わりにヒザシの中に入っていたコゼツを殺し死体を偽装。
【3】雲隠れが木の葉から出立し十分離れたら、ヒザシの身体を飲み込んだ別個体は土の中から木の葉を出て、わたしとコゼツは表から出る。
【4】雲隠れの忍と接触して交渉する。

 まず【1】について。今回使う薬は、油目紫蘇麻酔薬(点滴静注用及び注射用)と日向専用点穴阻害薬(注射用)だ。両方とも使い方を誤ると非常に危険で強い薬であり、特に麻酔薬の方は命に関わる。詳しく調べていくうちに分かったことだが、麻酔薬とはわたしが想像するより遥かに扱いが難しく、両方とも眠る効果なんだから似たようなもんじゃね!?って思っていたがところがどっこい睡眠薬とはその仕組みが全く違うものであるらしかった。なんでも、『麻酔薬は何故効果があるのかその仕組みがはっきりと解明されていない』らしく、木の葉病院で使われている麻酔薬は注射タイプと気体にして吸入タイプの二つがあって吸入タイプが特に取り扱いが難しいのだそうだ。前世でもそうだったのか、それともナルト世界ではまだ医療が発達していないのか、分からないことは多い。
 こいつぁ驚いた。わたしはコピーしてきた医学書と、病院から盗んだ日向ヒザシのカルテから今まで使われた油目紫蘇麻酔薬の量とその時得られた効果時間を元にどの程度の頻度でどの程度の濃度の薬を注射するべきか書きだした。カルテに載っているデータを参考にすれば間違いないはずだが、わたしは医者じゃないので”但し○○の場合は除く”とか”これこれこういう症状の場合はこうなる”みたいなのが分からない。
 仕方なく、コゼツの別個体オメガシリーズを3体ばかり使って臨床実験をしてみたが、コゼツの別個体を人間と見做していいものか分からないので実験の意味がないし、なんということか2体は死んだ。ヒザシに使ったものと全く同じ濃度・頻度を注射したら死んだのだ!ちょっとこれ嘘だろ……と狼狽しつつ、尊い命が犠牲になったのでひとまず冷静になって自分の行いを反省し、また何故死んだのか調べておきたいと思い、やれるだけのことはやろうとデータを取っていたらその最中死体はおがくずのような土のようなものになって崩れてしまった。

日向ヒザシ
普通の人間
コゼツの別個体
コゼツ

 わたしは、意味がないと思う実験を無駄に繰り返すなんて馬鹿だという当たり前のことを改めて理解した。『意味がない』と思うならやめればいいし、少しでも意味があると思うなら全力でやればいい。ああ自分はなんて馬鹿なことをしたんだろう!今一番問題なのは、わたしがオメガシリーズ2体の犠牲を必要な失敗だと思えないことにある。わたしは、そのとき、”自分の後悔を埋め尽くしているのが『それ』であること”について自分を見当違いだとは思っていなかったし、こんな自分を心底苛立たしく思った。
 少なくともこの四パターンで薬の適正量が分かれるわけだ。ヒザシに使った量とコゼツの別個体に使う量が同じである筈がないとは分かっていたし、日向家専用の強い薬だからきっと何かしら身体に不調が出るだろうと予想はしていたが、まさか死ぬとは……。そして、その後冷静になって調べ直したら、物凄い勘違いというか凡ミスで希釈していない方の薬を注射していたことに気付いた。そりゃ死ぬわ。
 その後もう一度オメガシリーズで実験したら、20時間眠った後目を覚ました。現在も経過観察中ではあるが、麻酔薬実験生き残りオメガちゃんは、今も元気で次の実験体となる日を待っている。囚人みたいな気持ちにさせてしまってすまない。ただまあ、『普通の人間の基準値』と『コゼツの別個体の基準値』の違いはずっと知りたくて、いつか比較してデータを取りたいと思っていたので少しずつデータを集めることができたのは良かった。
 さて、というわけで、油目紫蘇麻酔薬の実験はこれで終了したが、点穴に作用して阻害する薬についてはチャクラを練ることができないコゼツまたは別個体たちを使うことはできない。日向家の人間に使われたときのデータを参考に、木の葉の中忍で予行演習することに決めた。
 コゼツの中にはいって土の中から近づき、後ろから抱き着いて首に注射器(医療忍者でなくても簡単に注射ができるように改良されているらしく、決められた場所に皮膚に対して垂直に突き刺せば大体オッケー。対サソリ戦でサクラが太ももに刺した奴と同じものと思われる)を刺すと、男は全く抵抗なしにガックリと意識を失った。そのまま人気のないところに放置して、目を覚ますまでコゼツに見張らせると、28時間後に動き出した。
 男は自分に起きたことを不審に思い、里で何か事件がなかったか色々な人に聞いてまわり、何か術をかけられていないかすぐに病院に行って検査を受けた。特殊な薬を打たれていることを知ると、男とその班員ともども首をひねっていた。薬を打たれたこと以外は何も起こっていなかったからだ。
 この話は上に伝えられ、警務部隊にも話しが行くと、その特殊な薬――点穴に作用する薬が病院の中から盗まれたこととすぐに繋がって病院の警備が強化されたが、誰が盗んだのか、そしてなぜ盗んだのかという事件の真相にはたどり着いておらず、勿論わたしの名前が出る様子はなかった。

「【1】について、できる準備は全部やった。ヒザシの死に方が薬殺だったら、作戦通りイプ3が家政婦に成り代わって薬をすり替えるか睡眠薬を盛って眠らせる。イプ3には既に薬を渡してある」

 コゼツは相槌をうつ。

「眠らせたヒザシをイプ2が飲み込んでここに運んで、わたしたちもこっちに来たら、点穴阻害薬を打って動きを完全に封じる。その後、呪印が残っていることを確認して右目を除去し保存瓶の中に入れる。そして【3】、イプ5と連絡取りながら雲と木の葉の取引内容を盗聴して、彼らがイプ1の死体を持って木の葉を出たら追いかける」
「家政婦の中に入ってるボクはその後どうするの?」
「何か異変があるかも分からないから、ずっとその中にいたままでいいよ。あの夜までまだ5年あるし」
「デルタたちから、今火影室の近くで禁術の棚に近づけるタイミング伺ってるらしいけど三代目の近くに潜伏したほうがいいかって質問」
「別にいいって言って。エドテン資料集めるほうに専念してって」
「了解」
「じゃあ次行くね。そのあと【4】……ここが、二番目の難所なんだけど」

 ペンで【4】の文字の下に崖線を引き、息を吐く。
 雲隠れの使者一行と交渉し、取引するという大一番が、わたしには待っている。

「まずわたしとコゼツの組織に名前を付けないと……暁、蛇、鷹かぁ、動物の名前がいいのかな」

 ナルトに出てきた組織の名前を出して候補にしてみたが、思いつかない。ここで作った名前は今後使うことになるから、変なキラキラネームをつけると大変だ。

「……植物もいいよね。お姉ちゃんもコゼツも、植物繋がりだし」
「ボクは植物じゃないってばぁー!」

 機嫌を悪くしたコゼツは土の中に潜ってしまった。こういうときは面倒くさい、ごめんねーって何度も何度も土の中に向かって呼びかけた後、見当違いの場所から”どこに喋ってんの?ボクここにいるんだけど〜”って出てくるのを待つという儀式をやらねばならない。
 例の儀式でコゼツを呼び戻して、焚火に一本枝を加えて地面に座り直すと、なんだか面倒くさくなってしまってわたしは頭を掻いた。

「夜の葦にする」
「足ぃ?なんで!」
「足じゃない、葦!イントネーション気を付けて!」

 足ってフットのほうじゃねーよシンキングリードのほうだバカ!

「変かな?」
「ボクは足でもいいけど……」

 少しだけ眉を下げて、”足だったらやだなあ”と言いたげな顔をするので一回殴りかかったが避けられた。

「人間は考える葦であるっていう諺からとったの。人間は葦の一本と同じ小さく弱い存在だけど、考えることができるっていう意味で……」
「サエは下忍にもなれない弱い存在だけど考えることができるって?」
「まあそうだけど、くっそ直接言われるとムカつくわ」
「夜の、は?」
「あの夜を起こさせたくないという意味でまんま夜を取った」
「まあボクら夜の活動時間長いからね」
「そうそう夜型だから」

 コゼツは、夜の葦、夜の葦、と繰り返して自分の足を指して「足!」と叫びゲラゲラ笑う。喧嘩売ってんのかこいつ。
 組織名は決まったが、自分が夜の葦を名乗ることを考えると不安がこみ上げた。雲隠れの人間に取引を持ち掛けるとき、当然喋るのはわたしだ。相手に舐められてはいけない。得体のしれない連中だと思わせなければいけない。そんな演技力、うちは一族でもなきゃ一朝一夕で身につくものじゃないのにどうしろってんだ。

「この交渉、ボクがやろうか?」
「えっやってくれんの?」
「いいよ。サエさぁ、ボクの得意分野を体術だと思ってない?ボクらは元々こういう暗躍特化の存在だよ」

 コゼツは素早く土の中に潜って、次の瞬間おどろおどろしく天井から現れた。逆さまにひっくり返った顔が、目の前にぶら下がっている。洋服が燃えるから早く戻りな。

「えーじゃあやってもらおっかな〜……なんてね、冗談だよ。これはわたしがやんなきゃねー、相手がどう出るかもわからないし」
「ふぅん」

 コゼツはズズズズ……天井の中に消えて、再び右横の地面から現れる。

「まあ任せてよ、交渉の時にはフード付きのマントみたいなの羽織っていくから顔は見えないし、コゼツの能力があれば結構怪しいヤツ感出るし!問題はキャラ付けだよね」
「キャラ付け?」
「うん。ホラわたしのキャラのままだと、普通の小娘って感じじゃん。こう、”こいつはやべーぞ!ただもんじゃねぇ!!”っていう雰囲気出したい」

 誰がいいかな……。歴史上の怪しい奴を思い出して唸る。
 シュコーシュコーって音が出るマスクした黒いマントを羽織った某宇宙映画のアイツか、グルグル仮面をかぶって”デイダラせんぱ〜〜〜い!”(Cv.高木歩)って陽気なアイツか……右手が疼く邪王炎殺黒龍派なチビもいいし……でもちょっと世代が違うから詳しくない。ジョジョ立ちする?無駄無駄無駄無駄無駄ァ!ってする?それとも右手で顔を覆ってギアス発動する例の革命児のマネする??革命と言えばレボリューション、サスケか……サスケはヤバそうの意味がまたちょっと違うし、できそうにないなぁ。
 あ〜お辞儀をするのだ!な例のあの人でもいいな、でも蛇顔にできないしな……。

「マダラ口調で行くか……」
「できるの?」
「基本その1、会話や思考の途中遮るようにして姿を現す。その2、ダンディなCv.内田直哉を喉に装備する。その3、鷹揚でゆっくりと抑揚をつけて余裕を醸し出す」

 無理じゃぜ。まずその2が無理じゃぜよ。声を変える忍術はあるけど結局はハリボテみたいになっちゃう、緊張してるときにそんな演技できるわけない。

「うーん、とってつけたようになりそう」

 はあ、とため息をついたところで隣を見た。そうだったここにめちゃくちゃ怪しい奴いたわ。

「コゼツのマネしよう」

 ポン、と手を叩く。そうだそうだ、雲隠れの一行が休憩してるときに”ハァ〜ロ〜〜〜!”って現れればいいんだ。

「えぇぇー、それなら猶更ボクがやったほうがいいじゃん」
「声もコゼツのマネならできるしな!よしよし」
「他の奴らも反対してるよ!イプシロンシリーズがブーブー言ってるよ!」
「あー緊張してきた。どんな感じかな、”雲隠れの人もうんこするの?”よしこれでいい」
「偏見だ!見解の相違だ!!」
「そうだそうだ!」

 デルタ1まで出てきて反対されたが満場一致(強引)で可決されました。
 その後家に帰り、母の手伝いをしながら豪華な夕食を作った。イプ5から、ヒナタが誘拐されるのは明日の夜という情報をコゼツが受け取って、その日は安心して眠りについた。
 そして翌日の夜、ヒナタ誘拐未遂事件が起こりヒアシが使者を殺した。
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