8歳 / 白眼取引計画
副題:眠いときに大事な仕事をやらなきゃいけないときって

 日向家から帰る道すがらすぐに結果を聞きたかったが、誰がどこで聞いているかも分からないし、話し込むと集中して周囲が見えなくなりそうだったから、家に帰るまで我慢した。ただ、一言、

「結構収穫はあったよ」

 とコゼツが言ったので、逸る気持ちは抑えられた。
 日向ヒザシともあろうお方に稽古をつけられただけあって、家に着くころには身体中の筋肉が軋み、動くのもだるいくらい疲れていた。すぐに風呂に入りたかったが、お父さんより先に風呂を戴くわけにもいかず、こういうときばかりは前世の習慣がストレスを生んだ。
 わたしの家はそんなに堅苦しくなくて、父親も亭主関白とは真逆の優しいタイプだったので、母親に『お父さん帰ってくるの遅いから、先に入っちゃいなさい!帰ってきたときに誰かが風呂に入ってるなんてことがないように!』と言われる家だった。だが、こっちの世界でそんな優しい慣習のある家は珍しい。
 というわけで、日向家での収穫を詳しく聞くことができたのは、家に帰り家事手伝いをして、帰宅した父と夕食を取り、その後わたしとコゼツで交互に風呂に入った後だった。

「疲れたね……」
「そう?ボクそうでもないよ」

 部屋の真ん中に置いた安いストーブのおかげでぽかぽかと暖かい自室、ベッドのなかからもぞもぞと声を出した。コゼツは机に座ってノートを開いている。

「もう眠いよ…………」
「今日は寝る?別に情報は逃げないし」
「……いや、話し合おう」

 掛け布団の中からむっくりと這い出して、お半纏を着てベッドに腰かける。

「地下室行くのクソめんどくせー……もうお風呂入っちゃったし…」
「お父さんもお母さんも下にいるし、ここで会議しちゃってもいいんじゃないの?っていうか、あの二人はどう見ても根じゃないでしょ」
「……む…あ〜〜〜……」

 このまま暖かい部屋の中モフモフのベッドの上で作戦会議がしたかったが、その誘惑を振り切って地下室に移動した。土に潜って移動するとき、服に目立った汚れはつかないが、それでも寝間着のままなのは嫌だったので一度忍服に着替えた。

「眠いけど!第10回作戦会議始めます……」

 クッションに胡坐をかいて座ると、稽古で激しく打った尻に痛みが走った。

「まずはコゼツさん報告お願いします」
「はいはーい」

@イプ1とイプ2が土の中からヒザシに近づいたが、どれだけ接近しても気づいた素振りはなかった。
A4人分の御茶菓子を持ってきたのは本物の家政婦だが、下げたのはイプ3が変化した家政婦。

「エッ?!?!」
「気づかなかったか〜!ボクわりと演技上手いでしょ」

 気づかなかった。それに実行するなら断りを入れて欲しかったが、コゼツはわたしの部下でも所有物でもないので強制する道理はないのでそれは云わなかった。

「あの家政婦のことをヒザシはかなり信用してる。家政婦のチャクラで変化したから気づかないのも無理はないけど、もしも毒盛ってたら死んでたよ」
「マジか……え、その間本物はどこで何してたの?」
「まあまあ落ち着いてよ。まず、あの家政婦の人今日カボチャの煮つけを作ってたんだけど、カボチャって固いらしくて切るのに集中してたんだよね。その隙に足の裏から床に潜った。それで、近くの日向家に何か用事で出かけたすきに床から出て、サエの前からお茶菓子下げて、その後戻ってきた家政婦の中にもう一度入り込んだよ。あ、服装も同じように変化できるから」

 戻ってきた家政婦は、台所に帰ってきていたお盆を見て、付き人の男が下げたものだと思ったらしい。
 うそだろって思ったけど、ふと原作記憶を思い出して顎に手を当てた。そういえば8年前に読んだ72巻のナルト――の数年前に読んだところでは、なんか白ゼツが忍連合の誰かに変化して?味方同士で疑心暗鬼に陥らせてかく乱するような?展開が……そういえばあったような気もする。8年以上前に読んだ漫画の内容なんて細部は覚えていないが、サクラが偽ネジをしゃーんなろーするシーン、あったよね??

「そうか……チャクラが同じだから、白眼では見抜けないのか」

 あれ、じゃあどうやって原作ではそこを切り抜けたんだっけ?ナルトが……ナルトがなんかやるんだっけか?忘れたな〜〜〜。

「えっ、じゃあもしかして、今夜ヒザシの中に――」
「そのつもりで、イプ1がヒザシの寝室の真下で待機してる。サエの指示が出次第、寝入ったところを狙って中に入る」
「それは……」

 危険じゃない?と思ったはものの、そろそろ中に入っておかなければ死体を数日間保ち続けるほどのチャクラを吸収できない。ここらへんでまた賭けに出ることにして、イプ1に決行を許可した。
 案外早く本題は終了してしまい、もっとてこずると思ってい代替案を考えていたので、少しほっとした。

「いやーお茶下げたのがイプ3ってのはびっくりだよ……」
「だろ?ボクもちょっと緊張した」
「緊張って……失敗してたらどうなっていたか!」
「まあまあ、いいじゃんバレなかったんだし。ボクだって成功する自信があったから実行に移したんだよ」
「……コゼツって優秀だね」

 よぼよぼじーちゃんだったマダラや、ずっと存在を隠しながら暗躍をしていたオビトが、様々なタイミングで巧妙に手を回したりピンポイントな作戦を実行できた理由が分かった気がするよ。あーでも、この有用性が白ゼツオリジナルにもあるのか、それともコゼツだけの特性なのかはまだ分からないんだよね……気になる…。
 イプ3の成功可否にもよるが、議題は本格的に白眼取引計画の流れを決める流れに移った。まず先ほどの日向家訪問で変更した箇所と、当日でしか知りえない情報があることを鑑みると、こうなる。

<当日>
【1】ヒザシが死ぬ前に、本物とイプ1で作った偽物を入れ替える。
【2】ヒザシの本体をコゼツに飲み込ませて運び、代わりにヒザシの中に入っていたコゼツを殺し死体を偽装。
【3】雲隠れが木の葉から出立し十分離れたら、ヒザシの身体を飲み込んだ別個体は土の中から木の葉を出て、わたしとコゼツは表から出る。
【4】雲隠れの忍と接触して交渉する。

「まずこの作戦には山場が二つあって、その一つ目が【1】だからまず【1】から考える。期日が近づかないと知りえない情報によって場合分けしてみた」

(i)誰かに看取られながら死ぬ場合
 --1、隙を見て日向ヒザシの本物と偽物を入れ替える。
(ii)1人で死ぬ場合
 --1、自死用の薬物の中身を入れ替えておく。
 --2、1が出来ない場合、自死用の薬物を飲む直前にヒザシを拘束し誘拐する。

<準備>
1、ヒザシを拘束する手段を講じる。習得レベルによって効果にムラがある忍術や幻術よりも、一定の効果を必ず得られる薬物を使用した方がいい?→クロロホルム的な意識を奪う薬の情報を得る。
2、入れ替え用の薬を盗む。

「まず、日向ヒザシが死ぬときの状況によって難易度が変わるけど、こればかりは当日になってみないと分からない。凄く困るけど、あまり詳しく考えないことにした」
「ふぅん」
「そこを踏まえて、わたしたちが取れる手は”ヒザシとイプ3が変化した偽ヒザシを入れ替える”だから、入れ替えるタイミングが重要になるわけね。死ぬ直前に入れ替えることができれば死人に口なしで成功確率はぐんと高くなるし、逆に入れ替えた後イプ3の演技時間が延びれば延びるほど、失敗する可能性が高くなる、これが(i)と(ii)に場合分けした理由」
「うん」
「じゃあまず死の直前にヒザシがフリーにならない(i)から説明する。これはね……、結構きつい。具体的な案はまだ思いついてないけど、有効な手がひらめかない限り真っ向から行くことになると思う」

 ヒザシの隙をついて昏倒させるか、ヒザシに薬を盛って寝てる間にイプ3と入れ替えるか……どちらにせよハードルが高い。今ヒザシと組手をしてきたばっかりだから猶更、一体自分は何を言ってるんだ?って感じである。
 そして入れ替えた後がもっともっとキツい。何せ、ヒザシはネジに遺書を書き、双子の兄に対して遺言を伝えて、今まで過ごしてきた様々な人間を欺かなければならないのだ。忍の生きざまは死に方で決まるみたいな世界観で、その生き方が最もよく分かる瞬間を誰かに演じさせるなんて、できるわけがない。こんな作戦上手くいかない。

「よって、もし(i)になった場合は状況を(ii)に近づけることを第一として動く。死の直前にヒザシをフリーにするタイミングをどうにかして作る、みたいなね」
「つまり実質(i)の状態で決行することは、」
「ない」
「ふんー…」
「ここまでで質問は?」
「あるけど先(ii)に行っていいよ」

 大きな薄黄色の瞳をパチリと瞬いて、コゼツは毛のない眉を片方だけ上げて先を促す。

「じゃあ次に(ii)についてね。ヒアシの性格(っていうか原作の回想の雰囲気)を考えると、痛みを伴うような死に方はさせないだろうから、薬物による安楽死が一番可能性が高いと判断して、(ii)は死ぬ方法を薬殺に限定した。わたしは……これはわたしの主観でしかないから根拠がないのが弱いんだけど、ヒアシはヒザシのことを尊重していると思う。だから、自死の瞬間はひとりにして尚且つ痛みのない薬殺が最も可能性高いんじゃないかなって、期待してる」

 期待ってつまりは賭けのことであって、喋りながら”このタイミングで賭けはねーな”と思った。頭の後ろの方がぼーっと鈍く微振動するような感覚に襲われる。それと一緒に少し吐き気がする。まだ組手のときの傷が治っていないのかもしれない。ねむい。
 コゼツはカリッと唇の端を噛んで首を傾げた。

「これで一応わたしからの説明は終わりです。はい、質疑応答」

 手が上がった。意欲が高くてなによりです。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -