8歳 / 日向家A
副題:いいか貴様ら復唱しろ!Yes!ロリータ、No!タッチ!!

 調べによると、ヒザシの住む屋敷に仕える家政婦の女性は、その女性の父親の時代から日向に仕えていたらしい。女性の父親が日向宗家に仕えていて、ヒザシとヒアシがまだ子どもの頃から身の回りのお世話をしていた。ヒザシとヒアシは双子の兄弟で、ヒアシの方が先に腹から出てきたためヒアシが兄、ヒザシが弟となったが、二人がアカデミーを卒業するまでは両方宗家として育てられていたのだという。
 ヒザシとヒアシは実力がほぼ拮抗していた。日向の決まりによって、兄が宗家、弟が分家に下ることは逃れられない運命として決定づけられていたが、ヒザシにもヒアシと同じかそれ以上の優れた才を感じていた両親は、親しい双子の兄弟を呪印によって縛り引き裂くことをなかなか決意できなかったため、本来ならば3歳でつけられるはずの呪印を8歳になるまでつけなかったそうだ。
 しかし、何かが起きて(これが何の事件なのかはさすがに分からなかった。このヒアシとヒザシの幼少時代の話も、イプ3が家政婦の女性の中に入っていたからこそ偶然知ることのできたものだ)2人は、宗家の白眼の秘密を命をかけて守るために作られた分家という、定められた関係に戻ることになった。
 この背景を知ると、日向家当主として非常に厳格で、実の弟に対しても容赦なく呪印の縛りを使うヒアシの性格と、分家として宗家を恨んでいたものの、穏やかで優しいヒザシの性格の違いが少し面白い。
 宗家と分家としてではいがみあってしまっても、兄弟としてなら守りたいっていうのが原作で明らかになったヒザシの真実だ。ヒザシは切り捨てられる側の人間で、ヒアシは弟を切り捨てる側の人間だから、運命を既に受け入れて後は自分の役目を終えるべきときにそれを全うできるよう準備しているヒザシに対し、ヒアシはその”弟の命を終えるべきとき”を自分で選ばねばならなかった。ある意味では、運命に対してずっと抗うことを強いられてきたのはヒアシで、ヒザシはただ分家に生まれた自分の運命を恨み、全てを諦めてきただけなのだろう。
 勿論分家であるヒザシが死を選んだことで、日向を、ネジを、兄を救い里の利益は守られた。しかし客観的に見て、ヒザシの行いは運命に抗ったわけではなく死刑のボタンを自分の手で押しただけだ。

――『兄さん……私は一度でいい、日向の運命に逆らってみたかった………』

 それでも彼は”そのとき”を自分で決めたかったのではないか?
 誰かに――実の兄に決めさせるのではなく。

「な〜〜〜〜んちゃって深読みすんのも楽しいからナルトは素晴らしい!!!少年ジャンプ大好き!!正義!」
「………………………」

 怒涛の冷や汗が身体中からにじみ出て溶けそうだ。わたしが今水月の如く水遁汗分身の術を発動しかけているのも、目の前に、日向ヒザシその人がいるからであった。
 彼の視線はわたしの後ろにいる日向ネジと、人の家の屋敷に勝手に上がり込み4歳児を誑かす不審者――つまりわたし――の顔を一度往復し、再びわたしの眼を射抜いた。薄紫色の白眼から注がれる冷淡な眼差しとキリッと引き結ぶ唇、僅かに皺をよせる眉間から、彼が少なくともご機嫌ではないことが伺える。

「ここがどこだか分かっているのか。日向一族の屋敷に無断で忍び込むなど……いくら子どもでも許されん」

 アァァ――!やっぱ怒ってる〜〜〜〜〜ッ!!!
 胸中で悲鳴を上げて姿勢を正し、彼の白い眼を見つめたままごくりと唾をのみ口を引き結んで次に続く言葉を必死で考える。

「お父上が来たよホラ」
「その言い方はやめろ!」

 緊空気の読めない声がゆるっと漂った。



――約20分前。
 家政婦の中にいるイプ3の情報で今ヒザシが出かけていることは分かっていた。宗家と違って結界を張られていない屋敷は、家の周辺がぐるりと塀で囲われており、ヒザシがいないときは入り口が締まっている。そこを堂々と、まるで約束取り付けてあるんで〜と言わんばかりに押し広げて、わたしとコゼツは中に入った。
 平屋の一件建てはとても広い。塀の中に入ると、母屋の玄関まで石畳が伸びており、右手には枯山水のような庭、左手には樹木が植えてありその奥に稽古場のような広い空間がある。
 とりあえず適当に庭をブラついて、その後戻って今度は広く整えられた空間のある方へ足を進めた。ネジはここで宗家秘伝の筈の回天の練習したのかなーなんて思いながらブラついていたら、縁側っていうのか?外に向けて開いた廊下に、ネジが腰かけていた。

「あっ」

 肩まで伸びる長髪と、額を覆う包帯。今まさに日向流体術の練習中だったのか、少し息を弾ませて白い肌を薄く染め、汗をぬぐう姿はまるで天使!うちはもいいけど、日向もいいね。日向は木の葉にて最強!!!

「なっ………」

 わたしの姿を認めたネジは、脚をぷらぷらさせて腰かけていた縁側から降りたって、半歩足を踏み出したところで身体を硬直させた。突然現れた不審者に対してどういった行動を取ればいいのか分からないのかそれともわたしが誰なのか見極めようとしているのか、大きなおめめを見開く。
 わたしも同じように、歩きかけていた足を中途半端なところで固定したまま、ネジが次にどういう行動をとるのか合わせようとじっと見つめていたので、二人とも同じような形でしばし見つめ合った。

「――あ、えーっと、」

 ネジくんこんにちは……と話し掛けようとした途端、ネジの視線がわたしから外れて、もうそれ以上大きくならんだろうと思われた瞳が更に見開かれた。一体何を見たんだ、と思って彼の視線の先を眼で追って見えたものは、地面に半分めり込んだコゼツだった。

「こんにちはぁ。ボク東雲コゼツ、よろしく〜」
「ちょ、」
「なんだお前は!くせものか!」

 くせものか!だってぇ!!!
 あああああネジ可愛いよおおおお!思わず拳を握りしめ「きゃぁぁぁ」と甲高い声をあげたが、同時に右足でコゼツの頭を踏みつけた。お前は何をやってんだ?!

「何めり込んでんだよ!!!」
「痛いなぁ。もっとめり込んじゃうよ」
「イヤイヤイヤ!!!お前のその特異体質をネジぼっちゃんに視られちゃったじゃん!どうすんだよ!……あっ、ネジくんごめんね?わたしたちそんな、怪しいものでは「くせものだ!父上!!家に怪しいものが!」父上は今いらっしゃらないのだよ……」

 ネジもそのことに気付いたらしい。絶望的な顔を浮かべたあとキリッと表情を険しくさせると、足を肩幅の1.5倍程度に開き、左手の掌を前に向け構える。

「父上がいないときを狙ってきたな……分家だから、オレを分家だからと馬鹿にしているのか?!」

 あいや〜そうではなくてですね……。……待てよ別に全く誤解じゃねーな。
 完全臨戦態勢になってしまったネジくんに、わたしはどうにか誤解を解こうと口を開こうとしたが苦々しく顔をひきつらせる。ヒザシの不在を狙いましたごめんなさい。

「ハッ!!」
「まじ?!」

 そして、何故かその場でVS日向ネジのゴングが鳴ってしまったのである。
 気合いと共にネジの蹴りが飛んできた。もしも彼がわたしと同じ8歳児だったらきっと太刀打ちできなかっただろうが、今はあいにく身長のリーチがある。軽やかに的確に繰り出されるそれを受け流し、はたき、トランポリンで跳ねるように回転しながら飛んでくる彼に拳を突き出す。

「ッ!」
「たぁ!」

 ネジの拳が顎をかすり、ひやりとした。
 普段ヒザシやヒアシなどの大人と稽古しているからか、4歳児の癖してやたら強い。そうだった、ネジは既に、リーチの違う相手と戦う訓練を積んでいるんだった。柔らかくしなやかな筋肉がバネのように何度も収縮し、鋭い拳や蹴りが急所を狙ってくるから、それをいなすのでやっとだ。
 しかしわたしもコゼツと年がら年中忍組手をしていたのが役に立った。飛んだり跳ねたりするネジの身軽さ、バランス感覚は見事なものだが、しかしどうしたって4歳児の攻撃には重さが足りない。つまり、これは実戦では使えないしやってはいけない方法だが、仮に彼の攻撃が当たっても痺れるほどのダメージにはならないから――

「うっ…!」

 彼が中段を狙って掌底してくるのを待ちかまえ、腹筋にぐっと力を込めてその掌底を受けながら、彼が前屈している右足の更に右側――わたしから見た左側に、腰と腰をくっつけるようにしてまで接近した自分の右足を深く割り込ませた。そのまま踵で内側に払うと、掌底を重くするためにかかっていた重さのバランスが崩れ、彼の身体がフラッと左後ろに倒れる。ネジが、あっ、という顔をするのを見ながら、宙に泳ぐ胴体に向かって思いっきり殴りつけようとして、

「ぐっ……!」

 ドスッと重い衝撃が腹のあたりを襲い、真後ろに吹き飛ばされた。
 すんでのところで受け身をとって、背中から地面に叩きつけられる。一体どういう攻撃が命中したのか全然分からないまま、顔をあげると、少し困惑気味の表情を浮かべる仁王立ちのネジに見下ろされていた。

「参りました〜……あー、負けた」

 両手をあげて降参のポーズをとると、ネジは眉をくいっとあげて、未だわたし警戒している。片時も目を離さないぞ!と言いたげな怒ってる顔だ。

「あはは、だっさ。サエ、あんなショボいやり方したのに負けたのか」
「ううううう……うわぁ〜〜〜!4歳児に負けたー!」

 コゼツの冷めた声に指摘されると、負けた衝撃の後から情けなさが追いかけてきて身悶えした。ネジはむっとした顔で振り向き、縁側にちゃっかり座って観戦モードだったコゼツに指をさす。

「次はお前だ!」
「ボクはサエと違って負けないよ〜?手加減もしないし」
「なんだと?」
「煽るな」

 よっこいしょ、と身体を起こそうとしたらギロッと強い眼で睨まれる。

「煽ってないよ。サエだって、まさか4歳児に本気でなんてやってないだろ?本気でやって負けるわけないし?」
「本気でした!8歳が4歳に本気出しました!」
「えぇ〜〜?それで負けちゃうってヤバくない?ネジこいつどうする?処す?」

 わたしが普段使ってるネタをこういうときばっかり引用しなくていいわ。ネジはネジで、コゼツに馴れ馴れしく前を呼ばれたことにおかんむりだ。わたしは両手をあげたままため息をついてネジの眼を見て謝罪した。

「勝手に入ってきちゃってごめんね?」

 ネジは、フンとそっけない顔をして、わたしの身体を跨ぐのをやめコゼツの方へ歩いて行った。
 もうこれ……アカンわ。なんかもうここに来た目的とか完全に見失ってるし、どう考えても突撃日向家は失敗だわ。やっぱり計画を立てずに動くのはまずかったなあ。
 胸中で反省しながら縁側に移動して、コゼツよろしくちゃっかり腰かけて二人が組手を始めるのを見物しようと息をついた。そういえば、家政婦の女はこれだけ庭が騒々しくても顔を出さないのだが、少し離れたところにいるのだろうか?母屋が広すぎるのも考え物だ。
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