8歳 / 大蛇丸A
副題:結局のところ大蛇丸ってオネエなの?

 コゼツが中に入ったはいいものの、息ができない問題は、わたしが我慢するということで解決した。
 何回かに渡って測定したコゼツの移動平均速度は、

木・木材の中……約300m/s
土・岩石の中……約30m/s
コンクリート……約22m/s

 で、その発見した大蛇丸の実験施設までの道のりの殆どが土なので、最短ルートを通ると距離約2km=潜土時間は約66秒。前世の身体では耐えきれたか怪しいが、忍として鍛えている今なら3分半はもつから余裕だった。水牢の術の中で5分も生きる忍者がごろごろする世界線で本当に良かった。
 その後、わたしinコゼツのまま地面に潜る練習もしたし、その最中別個体とテレパシーで連絡を取り合うこともできるようになった。コゼツは、チャクラを纏わないものに限り胃の中にものを飲み込んで持ってくることができるので(できると言っても、本人はお腹痛くなるからやりたくないと言っている)、仮に何か欲しいものがあったら彼に飲んで貰えばいい。
 二人は決行の日を7月1日に決めて、夜、母親たちが寝静まった後分身を残して部屋から消えた。



 大蛇丸の実験施設のうち、現在手つかずのものは2つ。一つはここから南西方向に行った森の下、もう一つは根の本部と目と鼻の先にある。根の近くに作るとは大蛇丸も度胸あるなあと思ったが、そういえばダンゾウと手を組んでいたんだったことを思い出して、そこは行かないことにした。
 息を吸い込んで心の中で60秒数え終わるかどうかくらいに、地表に顔を出した。地中にいるときは少し怖くて目を瞑っているので、最初は到着したのが分からなかったが、顔の周りに空気を感じて潜伏が終わったことを知った。風船に穴を開けたように息を吐いて思いっきり吸った。

--周囲に人の気配はない、このまま行こう。
--本当だね?
--サエもしつこいなぁ。ガンマとデルタ2の二体で警戒してるよ。扉に封印札が貼ってあるけど、デルタ1が実験施設の中で待機してる。
--オーケー

 再び息を吸って土の中に潜った。
 大蛇丸の実験施設は木の葉の地下に無数に放棄されており、その殆どに侵入者用のトラップが仕掛けられている。それを知っていたので、コゼツの別個体には闇雲に近づかないよう言っておいたのだが、どうやら土の中に溶け込めるコゼツたちのことは侵入者としてカウントできない仕様らしく中に入り込むことができた。
 封印術にはその仕組みの違いによって大きく2種類に分類され、中にあるものを封印するものと、外からの攻撃から守るものがある。流石にナルトに九尾を封印した術なんかは、外側と内側の両方から主を守るための強力な封印術なので例外だが、大体中にあるものを封じ込める類は外側からの刺激に弱く、外からの攻撃から中のものを守る類のものは内側からの刺激に弱い。
 大蛇丸の研究施設の扉に残された封印札は外側からの侵入者をはじくためのものなので、内側からなら簡単に破くことができる。前もって札を剥がしてもらったので、コゼツを中にいれたわたしでも、トラップに引っかかることなく内部に侵入することに成功した。
 そっと床から頭を出す。
 実験室の中は、怪しげな青紫の蛍光灯がところどころ灯っていてぼんやりと明るく、全くの無音だ。てっきりまだ何か稼働しているのかと思ったが、全ての機材の電源が止まっているようだ。

「大丈夫だよ、何もいないから」
「……ほんとかよ〜……」
--ビビリだね
--いや、めっっっっちゃくちゃびびってるからね……。

 中のコゼツにからかわれながらズズズズッ…と床から出る。
 まず鼻についたのは、アセトンのような刺激臭と硫黄化合物のような腐臭だ。まず前者が残っているっていうのはどういうことなのか…揮発性だからとっくに拡散していてもいいんだけど。大蛇丸が里を抜けてからもう1年は経つ。それ以降も誰かここを使っていたのだろうか?デルタ1が発見してからは誰も寄りついていないし、人が踏み込んだ形跡もない筈だ。
 後者に関しては気持ち悪いけどなんとなく予想が立つ。この匂いは、動物標本室と知人宅で嗅いだことがある。なんせその知人、家で骨格標本を作ろうとして、小さいから大丈夫かなって思ったらしいけどやっぱり匂いが出てアパートの住人から苦情食らったんだよね。大学にまで連絡行って怒られてた。
 実験施設の内部は部屋が二つあり、ガラス扉のついた棚と何かの薬品、書物、そして作業台があるだけの小部屋と、頑丈な扉で繋がっていて大掛かりな装置がある大部屋の二つだ。まるで研究室を思わせる作りに、ちょっと郷愁を抱きながら中を物色する。

「……ほんと怖い」

 いやだこんなリアルホラー体験。怖い。クナイとか起爆札とか、今できる限りのものは持ってきたけどそんなの焼け石に水じゃん。今にもどっかのトラップが作動して、蛇が襲ってくるんじゃないかってひやひやしてる。蛇だよ蛇!床にスパゲッティ状にたぐなっている配線とかチューブとか見るだけでもビクッってなるんだよ!!

「なんだこれぇ!」

 デルタ1が隣の大部屋で気の抜けた声を出した。

「デルタ1さん指紋とか残さないでよ?」
「油脂出ないから平気平気」

 ゆるい。

「いや、指紋じゃなくて年輪……?葉脈かな?」

 そんなことをふんふん考えながらある程度棚の中を漁ると、早速霊魂を現世に留める延命術を研究した痕跡が見つかった。扉間が穢土転生の術を作る際下地にした理論の一つだ。本物の天才と称された大蛇丸でさえ、扉間の理論を再現することができずにまだ苦労しているんだから半端ない。ほんと天才かよ扉間。強くて頭も良いとかずりーよ死ね。あ、もう死んでたわアッハッハー。
 束なった紙がホチキスで止められていて、びっしりと文字や何かの実験結果が書いてある。
 これトラップだったらどうしよう…手に持った瞬間この墨文字がうねりだして、わたしの身体に巻き付いて、ぎゅっ!と押しつぶしたりして……。

「…………ハァ〜〜〜…ゴキブリより怖い…」

 このわたしにGと並べて恐れられるとは…大蛇丸、大した奴だ(震え声)
 逡巡ののち、心を決めてその紙束を手に取った。ええい、心配したってもうしょうがない!ここで死ぬならそれまでだったってことだ!と、半ばヤケクソになった訳だがその賭けには勝ち、その後もいくつか目ぼしいものを見つけてわたしは賭けに勝ち続けた。

--大丈夫だってば。他の実験施設にも暗部や根の人間が入り込んでるけど、扉に仕掛けられたトラップや一部実験体の生き残りに攻撃された以外は皆無事だから。
--攻撃されてんじゃん!!!!
--運も力のうちって言うでしょ…

 そしてその小部屋の中は全て物色し、大部屋にうつる。思った通り、そこには何かの動物の標本と、作りかけの肉塊があった。肉塊の方は大きな褐色ガラス瓶の中に完全に密閉されていて、中心部がドクドクと波打っていた。やだもうお家帰りたい。オイオイ……おいおいおいおい…これ扉の向こうに引きずり込まれる奴じゃない??真理に手足持ってかれるよ?!手足……腕……………アッ(察し)

--マッドサイエンティストだ……大蛇丸さん一人で頑張ったんだなぁ。

 さっきのレポートも凄い量だったし……あれ自分で一人で書いたのかなあ。パソコンもないのに、手書きで一人で、すげーなよくやるよ。大蛇丸すげえ!
 その大部屋にもガラス扉のついた棚があったので、そこの書物も物色した。こっちは主に時空間忍術系のものが多く、ざっくり見た感じ生き物の時間を完全に止めて保存する方法を研究していたようだ。扉間関連の巻物もあったのでそれはササッと回収し袋に入れた。

「さて、じゃあ最後はこの謎の機械ね」

 機器分析室かってくらいなんか重そうで高そうな機材の前に立った。真ん中に小さな台があって、上から何かを放射して、レバーを下ろすと、内部の様子が観察できるような仕組みになっているようだ。前世だったら液晶ディスプレイがありそうなパネルの裏には、何かの術式が書かれた札が貼ってあった。
 先ほどのガラス扉の中に入っていた本、一様にして背表紙が焼けていたから、この機材から紫外線が出ていたのかもしれない。いやわからん、だってナルト世界だもん。

「うわ、目がある。マダラみたいだなぁ」

 金属で出来た棚の内部を恐る恐る漁っていたデルタ1が反応したので、近寄ってみると、液体に浸された眼球が二つ瓶の中に入っている。ブルーハワイのような紺碧だが、これは一体何眼だ……三大瞳術ではないけど、十大瞳術くらいには入っているかもしれない。
 その棚のその段には、他にも中身がなく保存液だけが入った新品の瓶が大量に並んで置いてあった。大蛇丸さんもダンゾウよろしく眼球コレクターしようと思っていたのだろうか。つーか前から思ってたけどこの世界の眼の扱い方雑すぎるよね。なんかプラモデルの部品かってくらいポンポン移植するし……マダラがカカシから写輪眼奪うときとかあれひったくりじゃん。目のひったくりとか笑えねえよこえぇよ。

--ん。
--どうしたの?
--………これも持って帰ろう。

 わたしは保存液が入った新品の瓶を二つ袋に入れた。
 この部屋で入手したものは全てビニール袋の中に入れている。それをデルタ1の口の中につっこんで――おえええ、って顔された――分かりやすい落とし物がないか調べて、扉の内側に封印札を貼り直し、来たときのようにこの部屋を出た。
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