8歳 / 大蛇丸
副題:授業中ぼーっとしていると小テストが始まったことにも気づかない

 第六回目にしてようやく、大胆で大掛かりな計画が決定し、わたしはその後改めてもにょもにょ考えながら何度か草案を練り直した。なおコゼツの報告により、雲隠れとの平和条約締結に向けて雲に潜ませていた暗部を数名木の葉に帰還させる動きがあることと、日向ヒザシがまだ存命であることを知った。やはりそうだ、ヒナタ誘拐事件はまだ起きていなくて、その犯人は雲隠れだ……多分。
 わたしの記憶が正しければ、ヒナタの父ヒザシは顔がよく似ている誰かの身代わりになって死ぬ……ことにネジが絶望し、ヒナタのことを嫌うようになったみたいな過去があったはずだ。その、ヒザシが死ぬ前に起こる雲隠れとの一件に一枚噛みたい(まだ具体案は浮かんでいない)ので、日向一族と雲隠れの監視も必須となった。それが具体的にいつ起こるのかさえ分かっていれば対策の立てようもあるが、そこは仕方がない。
 ということで、既に動かしている案件とこれからやるべき件を含めて整理すると、

0、コゼツが中に入ったまま地面に潜れるようにする。できないなら諦める。

1、記憶の精査(既に運用中)……シータ(θ)シリーズ
(1)秘匿レベルD〜Aの文献調査
(2)木の葉情報部の所蔵調査
(3)上記でも見つからなかった場合、山中一族の所蔵を調査

2、柱間を穢土転生させる……デルタ(δ)シリーズ
(1)穢土転生の術式完成の資料集め。
  --1、木の葉にある禁書を片っ端から漁る。
  --2、大蛇丸が放棄した実験施設を探る。
(2)個人情報物質の入手
  --1、墓・研究室を漁る。

3、雲隠れの動向監視……イプシロン(ε)シリーズ
(1)コゼツの別個体を一体雲隠れに向かわせ、監視させる。
(2)日向家の屋敷を遠くから監視。(白ゼツを白眼で看破できるのか不明なため)

 大体この4つになった。
 一気にコゼツ別個体を大量に並列運用するにあたり、新しくシリーズ毎に3体ずつ作って貰った。αβγωも加えるとこのシリーズも増えてきたので彼の並列処理に負担がかかることが懸念されたが、彼曰く”常時コゼツの頭とリンクしているわけではなく、任意または別個体の意識に重要な損傷があったときのみ自動でテレパシーが送られてくるので問題ない”らしかった。
 しかし、この別個体を作る間にコゼツの身体に異変があった。彼は、3時間かけてシータシリーズを3体作り終わったあと貧血を起こしたように地面に蹲り、無言で青白い顔をわたしの背中にくっつけた。そして、そのままズズズズ……と静かに体内に入った。

--どうした?気分悪い?そうほいほい分裂できないのかな。
--分からないけど、凄く疲れた……。サエの中に少し居れば回復するよ…。とりあえず、次のシリーズ……なんだっけ?いぷしろん?は、明日作る。

 そう言ったきり、しばらくずっと口を閉じていた。
 コゼツは続きは明日と言ったが、一気に連続して作ることに消耗が激しいのなら、今は特に緊急性があるわけでもなしに無理する必要はない。わたしは、コゼツの別個体を作る頻度を一日一体と制限をつけた。
 第6回作戦会議が終わって数週間は、五月晴れが続く過ごしやすい日が続いたが、わたしは基礎練習に打ち込んでいてもどこか気がそぞろで、よく怪我をした。自分がやろうとしていることがあまりにも遠すぎて、どうしようああしようとつい考えてしまい、どうしても注意散漫となったからだ。
 集中している筈なのに、手裏剣が自分の手を離れた瞬間”本当に柱間を穢土転生させるっていう方法でいいのかな?もっといい方法があるんじゃないかな?”と一瞬試案したら、放った武器が標的を外れ大きく旋回して自分に帰ってきたことにも気づかなかった。

「イィッテ!!」

 間一髪でのけぞり、鋭利な刃物はわたしの肩を切り裂くだけに終わった。傷がカァッと痛み、真っ赤な血が手に付着するのを見たら少し冷静になり、気分を入れ替えた。
 何やってんだよわたし……シカクさんにも言われたじゃん、焦るなって。つーか今さりげなくやばかったよ!のけぞらなかったら目が!目がァ!!!
 その後、止まらない血にオロオロしていたら、偶然近くの演習場で練習していたシカマルに似た髪型の少年が病院に連れて行ってくれた。

「ありがとうございました……!」
「いいっていいって!気を付けろよ、危ないから!!」

 白い歯を見せてニカッと笑うと、鼻の真ん中についた一本傷もぐにゃっと細く歪んだ。後から絶対親がお礼したがると思って、何度も名前を聞いたが、彼は名乗らなかった。予想通り母は、そういうときは名前を聞いてくるものです!って怒ったが、わたしはうみのイルカの名を口にはしなかった。
 次の第7回作戦会議は、第三勢力をどのように増やし、動かすかについて考えることになるだろうが、その前までに上記の0をこなし、既に進めている1に加えて2と3も並列して動かし何か進展を得ておきたいところだ。ただ、優先順位では0→1→2・3なのだが、2の大蛇丸の研究施設については急ぐ必要があった。原作で大蛇丸の残した施設がいつごろ発見され取り押さえられたかは覚えていないが、デルタ1の報告ではどんどん根の人間に発見・調査されて、残り2箇所の隠し地下室が見つかるのも時間の問題だからだ。
 大蛇丸は扉間のことを最も崇拝する火影として非常によく研究しており、このころから穢土転生に関するデータを沢山集めていたはずなので、そんな美味しい獲物をミスミス逃す手はない。
 もしも一人だったら、穢土転生で仲間を集めるなんて危険な方法は取らなかっただろう。きっと姉一人を助ける作戦のみに絞り、ひたすら忍術を極めるのみだったはずだ。コゼツに動いてもらうことで作戦の幅が広がり、また全てのことを同時に進められる有利があった。
 そして、コゼツをわたしの中に入れたまま地面に潜ることだけが未だにできないまま、6月になった。



 6月のある日、わたしとコゼツは部屋の中に閉じこもっていた。
 その日はしつこい長雨に河川の水位増加が警戒されアカデミーが臨時休校になり、父親は堤防の補強へと周囲の男たちと向かっていた。またお前ってやつはすぐに危険な場所に行く!弱いんだから大人しく引っ込んでろ!!と、家に出る前にやたら物凄い目力で睨んでおいたので脚を滑らせて溺死することがないと願おう。
 あーあ、これが前世だったら、休校なんて喜びイベントだったんだけどなぁ。○○線運転見合わせヒャッホ〜〜〜〜〜イ!首都圏の電車全滅ハイ二度寝二度寝!!とか言って満面の笑みで成仏しそうになりながら布団にしがみついてお昼頃まで寝て、そのあとムックリ起きてコーヒー飲みながらツイッターやって、社会人の方々に下される非情な出勤命令でタクシーが乱舞する中部屋の中でまったりとネイルでもしてたってのに……。

「今は部屋の中でまったりとコゼツを中に入れて地面に潜る練習だもんなー」

--何か文句でも?
--いいえー、コゼツ様には頭が上がりませんほんと。

 死亡フラグクラッシャー様どうもありがとう。

--ハイハイもっと集中して!
--でもさぁ〜無理だよ!なんか全然できそうな感じしないもん。
--これが無理なら大蛇丸の実験施設に行くこともできないんだよ?
--むむむ……

 部屋の真ん中で一人突っ立ったまま、もう小一時間こんなことをしている。コゼツは頭の中で松岡修造のごとくわたしを応援してきたが、さすがに気合いや根性でどうにかなる問題じゃなくね?もっと熱くなれよじゃねーんだよ。

--あ、もしかして、わたしがコゼツの中に入ればいいのでは?
--それ、今と同じじゃないの?
--同じじゃないよ!

 いやわからん適当言った!
 二進も三進もいかない状況に耐え兼ねてそう訴えて、渋るコゼツを身体の中から出てもらう。そして、今度はわたしがコゼツの背中に顔をくっつけた。

「……………」
「……………」

 何も起きない。あ、今笑ったね?ブフッって鼻から空気でたねお前。笑ってんじゃねーよこういう地道な試しが積み重なってだなぁ!過去の偉人たちは様々な則を導き出してきたんだからな!!大体院生なんて碌に結果出てないのに発表させられて教授陣からきっついダメ出しされてめちゃくちゃメンタル削られて、何か実験やろうとしても「それで何がしたいの?」とか「この結果で論文どうするの?」とか言われてメンタル削られてお前…!お前!!!
 先輩たちの話を思い出し薄っすら浮かぶ涙を飲み込み、笑うコゼツをポカポカ殴っていたら、

「あ、」
「えっなにこれ?」

 ずぶ、と、コゼツの皮膚をわたしの手が突き破る感覚がして胃がひやっとした。何かコゼツに怪我をさせてしまったんじゃないかと、そう思って身体を引こうとしたときには、目の前にコゼツはいなくなっていた。

--あれっコゼツ?!コゼツは?!
「入った!なにこれ、入った!!」
ーーえっ待ってコゼツどこ?!てか身体が動かない!!どうなってんの?!

 目の前にはただわたしの部屋の壁がある。いきなり消えたコゼツの姿を探そうにも、首が後ろに回らない。パニックになりかけたわたしは、突然自分の右手が勝手に動いてまた驚く。

--違うよ、ボクの中にサエが入ったんだよ。感覚はどんな感じ?
--いやどんな感じも何も……なんか…。

 思ってたんと違う!って感じ。
 誰かの中に入っているという感覚はまるでなくて、ただわたしの身体の自由が利かない感じだ。姿見に身体が映るようにコゼツが移動すると、そこに映っているのはコゼツの服を着たコゼツだった。足元にわたしの服が落ちているのが気になった。パンツの端っこ見えてる。

--この入れ替わりを、どっちがどっちの中に入ったままでもできるようになれば楽だね。
--う――ん……そうだけど…このままわたしに主導権を変えると服ってどうなるの?もしかして、全裸???
--ボクの服を着たサエになるんじゃないのー?
--やってみよう……。

 全裸にはならなかった。コゼツの服を着たわたしになった。でも失礼ながらパンツが気持ち悪かったのですぐに分離して服を着直した。元植物とはいえ男の子が現在進行形で履いているパンツを履いてしまった……控えめに言って死にてえ…。
 その後もわたしとコゼツは体の中に入ったり出たりして、色々と試したことで、身体の外側を入れ替えなくてもその”主導権”を自由に変えられるようになった。パンツの悲劇を防ぐため、基本的には全裸のコゼツが服を着たわたしの中に入り、”外側”を入れ替えずに”内側”(=身体の主導権)を委譲した形で潜入調査を行うことが決まった。
 ”外側”と”内側”で入れ替えができる身体でよかった。これが8歳だから良かったものの、10歳にもなってみろ。コゼツがペタンコのブラするハメになるんだぞ?思春期の男の子がだぞ?!やッべ――だろ流石に…………。
 そして、満を持して大蛇丸の実験施設に行くため土の中に潜った――――が。

--?!?!待って待ってマジまって!息できない!!!
--えっ

 酸素を求めて激しくもがき、床から口を出した瞬間せき込みながら大きく息を吸った。
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