8歳 / 道B
副題:柱間細胞を埋め込んだ人ってガンになったら一瞬で死ぬの?

「ああああなんで今まで思いつかなかったんだ……そうじゃん、そうだよ…ハァ………」

 自分の馬鹿さ加減に反吐が出る。
 穢土転生。死体と生きた人間を生贄として、黄泉から死者を蘇らせ現世に留める禁術。
 ヒルゼンやダンゾウ、そしてうちは一族、かれらにとって影響の強い人物は何も生者である必要はない。そもそも、擁立する協力者を”集める”んじゃなくて、”作れ”ばいいのだ。

「何かひらめいたみたいだけど……」
「穢土転生っていうのがあってね!」
「なにそれ?」
「……”二代目火影が作った卑劣な術だ”」

 ペンを走らせながらコゼツに説明した。

「穢土転生は、死者の魂を口寄せして現世に留まらせることができる禁術。さっき言った、扉間や柱間とかも本人の意思やチャクラを持ったまま呼び出せる。そして、術者が解くか封印しない限り何度でも蘇るし無限のチャクラを持ってる」
「ふぅん…………そんな術ほんとにあるの?」
「マダラと一緒にいたお前が言うな」
「輪廻眼は数々のリスクと引き換えに手に入れた眼だろ。でもさっきの話じゃ、エドテンセイは何のリスクもなしに誰でも行えることになるよ?」
「いやいや人一人の命が犠牲になってますやん。それにリスクは他にもあるよ、穢土転生した側から術を解かれると厄介なこととか、死ぬ間際の姿で転生されることとか」
「そうじゃなくて、術者への影響の方」
「あー、フィードバックはないに等しいね。チャクラ量も関係ないから人死に目をつぶればコスパ最高」
「それでも無限のチャクラは話がウマすぎる……。あぁ、ちょっと待って思い出した、そういえばマダラがそんな話をしていたこともあった…誰が作ったんだっけ」

 扉間、と答えると、アー卑劣の、と呟くコゼツ。完全にわたしのせいでナルトスに染まってしまったようだ。

「仮にその術があったとして、じゃあ誰をエドテンセイさせる?」

 それを今考えていた。
 わたしは候補を箇条書きにして一つ一つ効果を確認した。メリットは○、デメリットが×で考えると、

・千手柱間
→○この世界の全ての忍者にとって効果超絶大。
 ×理想主義者だから扱い要注意
 ×里に仇なすものだと思われたら消される
 ×強すぎて操れない

・千手扉間
→○ヒルゼン・ダンゾウにとっては効果絶大。
 ×うちは一族からの心象最悪
 ×この現状を作った張本人
 ×強すぎて操れない

・うちはマダラ
→論外

・波風ミナト
→○協力してくれそう
 ×インパクトとしては弱い
 ×ダンゾウの抑止力にならない
 ×強すぎて操れない
 
・うちはカガミ
→○ダンゾウ・ヒルゼンにとって効果有
 ○うちは一族にとっても効果有
 ×力量がイマイチ分からない

 いや〜しかしなんだこれ。呼び出す人によっては事故の匂いしかしねぇ……まずマダラはその時点でわたしが終了するから無しだな。
 コゼツはノートを一瞥すると無毛の眉をくいっと潜めた。

「…全体的に強すぎて操れないってどういうこと?」
「穢土転生はその術の精度を上げすぎると、術者と口寄せした人物の力量に差がある場合行動を縛ることができないんだって」
「ふーん」

 鼻で笑うな。

「操れなきゃどうやってヤツらを動かすの?メリットを用意しなきゃいけないじゃん」
「そこを考えるとまず扉間さんは却下だよね」

 扉間とかアレだよ、目覚めると『なんだワシの術か』で、事情を説明したら『そうかなるほど。いずれこんなことになると踏んでおったわ、クーデターを企むにすら至ったか。しかしこれで壊滅するというならばそれもまた定めよ、奴らも最後には里の役に立ったと言うことだ』とかなんとか言って、わたしを上層部に突き出して終了。うちはを救おうとか絶対、微塵も、一ミリも考えないに違いない!分かってるよ二代目様は優秀だってことは!でも今は姉に肩入れしてるんで畜生テメーは絶対ダメだ!絶対お前だけはナシだナシ!!

「えぇ〜なんで?扉間って一番現実的で良さそうな案出してくれる気がするけど」
「それは、卑劣様が本気でうちは滅亡を阻止する気になったらね。でもわたしの力じゃ、どうしてもそこまで説得するだけのトーク力とカリスマがない」

 それこそナルトでもいないと無理でしょ〜。
 それに多分わたしって扉間のタイプじゃない。扉間が好きなタイプって、柱間とかミナトとかナルト=バカ・天然・素直!わたし=愚か・計算づく・捻くれ者。

「ああ……。ハイリスクハイリターンだ」
「そーそー。残念だけど、この人は怖すぎる」

 うちはカガミは、ポジションという意味では最も理想的だ。ダンゾウとヒルゼンの友人であり、尚且つうちは一族出身。二代目火影の部下として、うちは一族と里上層部の間を取り持ち身を削って働いた、知る人ぞ知る影の功労者である。
 何故か享年25歳という若さで死んでおり、原作でもあまり出てこなかったのでその人生には謎が多い。ダンゾウ好きなわたしとしては、カガミの死でダンゾウはうちは嫌いを加速させたのでは?とか、ダンゾウがシスイから眼を奪う前に右目に入ってた写輪眼ってもしかしてカガミのヤツでは?とか、色々考えを巡らせているが、両方にとってある程度の影響が見込まれるのは事実だ。協力してくれそうでもある。しかし、カガミは云わばシスイやイタチと同じポジションなので、第三勢力の要として少々パワーに欠けた。
 波風ミナトは協力者になってくれる可能性が最も高い。わたし程度のトークでも理解してくれて、尽力してくれそうだけど、うちはの主力と里上層部の両方より若いのがネックだった。精神的抑止力に欠けるのだ。
 となると残りはやはり……

「柱間かなー……」

 第一候補は千手柱間になる。
 柱間は元々扉間に『うちはをないがしろにするなと言っておいたはずだ』とか言ってたし、強いし、何より理想主義だからごり押しは得意そうだ。わたしが柱間の心に響くような説得ができるかは不明だが、お前がマダラをちゃんと仕留めなかったから今こんなことになってんだぞ!って話のネタで、釣れる見込みがある。
 勿論、柱間が両者に睨みをきかせるだけではダメだし、『腸を見せ合うことはできねぇだろうか』つって話し合いの場を取り付けたって解決するどころか益々火が燃え上がりそうな予感がある。また、ヒルゼンはともかくダンゾウは柱間を嫌っているので、ダンゾウ側を強硬姿勢に追い込んでしまう可能性もある。
 それでもインパクトや第三勢力の要という意味では最も影響力が強かった。それに消去法でも結局コイツになってしまう。柱間を召喚するだけじゃだめだけど、コゼツとわたしだけでは名案が出るかも分からないから相談者としてもうってつけだし、彼を上手く操作することで――そう、さっきの雲隠れとの関係も利用して――里とうちは一族のしがらみを、断ち切ることができる。

「気がする」
「第一候補が柱間、次点でうちはカガミって感じ?」
「今ではそうなるかな。まずは、忘れてる記憶を取り戻すための忍術を探す、そして次に扉間の残した穢土転生の術式を探す。誰を転生させるかはその後考えればいい」
「ボクは何をすればいいの?」
「コゼツにはやってもらいたいことが山ほどあるよ。ちょっと待ってね」

 ノートに、コゼツにやってもらいたいことを簡単にまとめた。

@穢土転生の術式を調べ、完成させるために、
→・火影岩の倉庫及び火影邸に侵入し扉間関連の棚を漁る
 ・大蛇丸の残した実験施設を調べる
A千手柱間 / うちはカガミの個人情報物質を手に入れる。
→・墓を荒らす
 ・里の研究所を調べる
 ・上記二つでも見つからなかった場合、大蛇丸の跡をつけて彼の手元からくすねる。

「穢土転生って未完成の術なの?!それに今思ったけど、禁術ってことは凄く難しいんじゃない?下忍かたかだか中忍のボクらにできるのかなぁ」
「実は穢土転生ってそんなに難しくない(by大蛇丸)らしいよ」
「へぇ……」

 コゼツはしげしげとノートを見たり、後頭部を掻いてため息をついたり、明後日の方向を見て遠い目をしたりしていたが、何か心の中で諦めがついたように口の端を歪めた。

「サエと一緒にいると本当に飽きないよ」
「…………協力してくれる?コゼツがいなきゃ絶対無理だよ」

 わたしの言葉にコゼツは瞠目した。
 刹那、久しく見せていなかった酷薄な笑みを浮かべて、緩慢な動作で身を乗り出した。

「――勿論協力するよ。サエはいつも、何考えてるのか分からないし、突拍子もないこと言い出すから面白いし……」

 夢小説の攻略相手みたいなこと言い出したよ。

「でも、協力しない方が面白そうだなって思うときもある」
「例えばどんなとき?」
「ボクが力を貸さなかったら、サエはちゃんと人を殺せるのかって」
「……やっぱそうくるよね」

 やっぱそうくるか〜〜〜うわーーそこはですね、わたしもさっき穢土転生案を考えたときすぐ思ったよ。生贄に白ゼツ別個体使えたはずだから、コゼツが別個体を提供しないのなら、誰か適当に捕まえて生贄を用意しないといけない。わたし、これでとうとう殺人犯か〜〜ってね!

「…………そこはコゼツに任せるよ。でも、協力しないっていうなら早めに教えてね。こっちも色々準備があるし」

 主に心のな!!!心の!!こちとら殺人処女、いや童貞だから!
 わたしはコゼツと初めて出会った日のことを少し思い出した。そして、ニヤッと笑みを向けて肩をすくめて、もう作戦会議は終わりだと言わんばかりにベッドから腰を上げた。

「ま、いいや。うん……いいよ、人を殺すサエを眺めるのもいいけど、それは後にとっておいてあげるよ」
「後に……?!」

 今立ったよ、確実にフラグが立った!後にとっておかれてもそれはそれで恐ろしいと思いながら、ひとまず「ありがとう」と礼を言った。
 もしもわたしに本物の覚悟があったら、コゼツの別個体を使用することもなく、その辺の適当な誰かを生贄に使っただろう。だから、これは所謂温情だ。
 わたしは前世じゃ勿論この人生でもまだ殺人を犯したことはなくて、間接的に死ぬならまだしも直接命を手にかけるのは嫌だから、殺さずに済むなら越したことはないって思ってる。そりゃもう説明するまでもなく、普通の人間は自分の手を汚したくなんかないさ。でも、例えば『どっちか殺さなきゃいけないけど姉とこの人どっちを殺しますか?』って言われたら迷うことなく姉を助けると決めている。こういう、必要に迫られたら殺すけど、なるべく迫られたくないんだよねーっていうのを、少年漫画では綺麗事と言う。
 この借りをいつか、返すときが来るだろう。その時わたしは何を要求されて、何をしなければならないのか、今は全然想像だにできない。でもこういうフラグはいずれ回収されるものなので、心底嫌だなぁと思った。もし回収されるときが来ても、それは姉を助けた後がいい。
 とはいえ、コゼツが了承してくれたことにほっとして、そして姉を助けるための具体案と基本骨子を定めることができて、数年ぶりの手ごたえを感じた。なんだかとても疲れて、その後すぐに熟睡した。
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