8歳 / 道A
副題:イタチ真伝のアニメを見てから転生したかったわたくしです

 6歳の11月から不定期に開催されていたこの『”あの夜”を回避しよう作戦会議』、今回は第六回となる。今日は両親が友人と食事に行っているので、地下室ではなくここの部屋で行うことになった。
 簾で区切られている部屋の、今日はコゼツの方に行って、わたしがベッドの上、コゼツが椅子に座った。コゼツは、手渡したノートの、以前図書館で木の葉の歴史やうちはの処遇、そんな彼らを取り巻く状況や背景などを調べたときのまとめなどが記されているページを眺めながらうーんと首を傾げた。

「ボク思ったんだけど……」

 ノートを返される。

「アカデミーで、仲間で作戦を考えた後それを遂行するためのコツみたいな話先生してたとき、本命の作戦は仮の作戦を全力でやればやるほど成功確率が上がる、って言ってたよね」
「あー、そうだね」
「それなら……」
「あ!」
「そうそう」

 わたしは、掌をぱちんと合わせてノートに文字を走らせた。

「今まで、ユズリハだけを助ける作戦とうちは滅亡を回避する作戦を一緒に考えてたけど、それ両方同時にやろうよ」
「コゼツさ〜〜んほんとナイス」
「サエが一生懸命情報収集と現状整理をしてたせいで見やすいよこのノート」
「まあね」

 確かに両方同時にやったほうが保険がかかっていい。
 コゼツナイスプレーさすがわたしの相棒。これでこいつに裏切られた日には軽く絶望する。

「じゃあ、まず姉だけを助ける方法ね。今のところ上がってるのが、」

(a)事件を装って姉を匿う。
(b)コゼツの身代わりで死を偽装する。

「だけど、コゼツの別個体で身代わりを作った場合って死体はどうなる?」
「ああそれ、試してみたけど、誰かのチャクラを吸い取って化けるとき、吸い取ったチャクラが多ければ多いほどその人の死体のまま保っていられる時間が増えるみたい。里の奴らで試したときはこっそりやったから、1時間がせいぜいだったね」
「ふむ…」
「それでその後はボクの姿に戻って、少しずつ土の吸収される。塵になっていく感じだね」
「塵に……」

 灰は灰に、塵は塵にってか。
 (a)の場合、うちは地区に住んでいる姉をあの時期に誘拐するのは至難の業だから、わたしが相当天才にでもならない限り決め手となる大技が必要だ。一番習得したいのが避雷神の術なんだけど、それは難易度Sクラス、文句なしの高等忍術。確か現存する忍者であれが使える人がいない……あ、3人でならできるとかいう連中がいたけど…わたし1人で習得できる確率は死ぬほど低い。なるべくならコゼツ身代わり作戦で行きたいものだ。
 しかし、コゼツ身代わり作戦の場合、姉の身代わりを用意している間、本物の姉をどこかに匿って、連絡を途絶させておかなければならない上に、コゼツの演技力が非常に試されるという失敗フラグがある。

「ボクがユズリハの中に入って土の中を移動できれば、多少やりやすくはなるんだけどね」
「無理っぽいけどね……わたし以外の人の中にも入れるんだっけ?」
「入れるよ」
「じゃあお姉ちゃんの中になるべく長い間入って、チャクラを吸収しておいた方がいいね。死体を用意することになるかもしれないし」

(a)姉を誘拐する作戦
→・わたしの実力が試される
 ・避雷針の術を習得したいが難しい。
 ・事件後姉だけ生き残った理由づけが肝要、後処理でわたしの身が危うい

(b)コゼツ身代わり作戦
→・コゼツの身代わりを作るのは楽
 ・コゼツの演技がバレると失敗する
 ・事件後姉の身柄をどうするか

「……ふむ。じゃあ次、本命を生かすための大舞台について……うちは皆殺しナイトをどうやって止めるか」

 わたしは以前まとめたうちは一族と里の関係についてのページを開き、ふーと息を吐いた。
 今までの作戦会議で立てた案と前回の作戦会議の内容を合わせると、

1、うちはのクーデターを起こす
→うちは内部の不満は解消されるが、木の葉上層部との関係は最悪になり里内秩序が揺らぐ。戦争の可能性も。
2、うちはの要望を里上層部に受け入れさせる
→うちはの不満は解消されるがダンゾウが事を起こす可能性あり
3、イタチとシスイたちにもっと頑張ってもらう
→あの夜が延期されるだけで根本的解決にならない

の3つで、どれも決定打に欠ける上に何かしら軋轢を生む。勿論今は、できるかどうかではなく、純粋に最も適した解決策をあげているので、その後自分たちの力量と擦り合わせなければならないが。
 第5回作戦会議では、抑制となる役割を担う第三勢力を作ることと、クーデターを延期するだけでは根本的解決にならないとこまでは話がまとまった。前回は、クーデターをどうするか=第三勢力をどのように動かすかに論点が絞られたが、今回は誰を第三勢力とするかを考えたいと思って、わたしはこれを開いたのだ。

「第三勢力を作るにあたって、誰を仲間に引き込むかずっと考えてたんだけど、誰かを仲間に入れるって考え方だとメインはうちらじゃん?それって正直無謀だなって思ったの」

 ”忍界大戦が行っていた役割”を、所詮下忍だか行っても中忍のわたしたちが担うのは明らかに無理だ。だが、協力者を集めるのではなく、誰かを擁立することならできる。木の葉を脅かす第三勢力になる何かを操るか、誰かをそこに据える……としたら。

「オビトもマダラって名前で忍界大戦を起こしたんだから、わたしたちも誰か他の名前を主力に据えたらどうかな」
「そのオビトって奴ボク初耳なんですけど……」
「勿論わたしたちが誰かのフリをするんじゃないよ?問題は、わたしたちと目的は違ってもいいから、この騒動を止めなければと自主的に行動してくれるような、そういう誰かが必要ってこと」
「オビト誰だよ…。……まあ、手段は置いておいて仮にそういう奴を擁立するとして、候補は誰?先に言っとくけど、木の葉内部の人じゃ結局上層部につくと思うよ」

 コゼツは笑った。
 因みにコゼツには、マダラのフリをして色々やる奴がいるよ〜っていう話だけざっくりしてあるのでオビトのことは知らない。コゼツの知識は、コゼツがこっちに産み落とされる前のものからあるらしいが、白ゼツの本体と離れてからは情報が更新されていないので、オビトのことは知らなかったのだろう。

「うんー……」

 わたしは苦笑いして麦茶を飲んだ。
 木の葉に参画している忍一族は、なにもうちは一族だけじゃない。三大瞳術の一つを持つ日向一族、特殊忍術の奈良、山中、秋道一族、感知タイプの秘伝忍術を扱う油目一族、犬塚一族、また優秀な人材を多く輩出し古株でもある猿飛一族、その他にも小さいコロニーで水戸門、うたたね、波風、加藤、不知火、並足、月光、夕日、神月、はがね、山城など沢山ある。
 そして、力を持つ一族はどこも少なからず『根』に子供を提供している。
 ダンゾウが木の葉内部で非道だの野心家だのと囁かれているのは、里のためと称して裏の仕事に欠かせない人材を引き抜いていくこと、そしてそれを受け入れなければならないことに、民衆がやりきれない思いや反発を抱いているからだ。しかし、同時に、木の葉に住む者としてある種犠牲と呼べるソレに納得してもいるから、皆ダンゾウの存在を承知している。
 わたしは去年、アカデミーの一個下に山中フーがいることに気付いたが、8歳になってから一度もその姿を見たことがない。十中八九、『根』に引き抜かれたのだ。「根には名前はない、感情はない、過去はない、未来はない、あるのは任務」――根に引き抜かれる子どもは、今までの全てを捨てて、その後親や兄弟と接触を持つことはないと考えられる。部外者から見たら、失踪したか亡くなったようにも見えるだろうが、実は皆知っているのだ。
 そして、ダンゾウが自分の配下にうちはを加えたがらないことは原作でも触れられている。考えてみたら当たり前だ、「過去はない」はずの根に一族という繋がりを捨てられないうちはの人間を入れる筈がない。それに、仮に入れたかったとしても、うちは地区として自治権を持つあの場所に踏み入れてそんな勝手などできない。
 根とかいう人権侵害な職場に親族を遣ってしまうのは常識的に考えたらとても身内のやることじゃないと思う。でも、ここは前世の日本じゃなくて、長い戦争にあった木の葉隠れだ。だとしたら、里に生きる者ならば平等に負っている”犠牲”をうちはだけが免れていることになる。そして、ここは憶測の域を出ないが、大人たちは皆それを知っている。
 こんな状態で里の内部に協力者を得るのは難しい。うちはを全滅させることに賛成するとも思えないが、表立って協力する人はいないだろう。

「じゃあ、里の外かな」

 呟いてはみたものの、あまりやる気になれない。里の外から、木の葉を脅かす外圧を強めるには、木の葉内部の人を動員するのとではクリアしなければならない項目の難易度が違う。

・かなり太いツテを作ること
・木の葉を脅かす利益があること
・強者揃いの木の葉を動かすネームバリュー

 まず問題となるのは、木の葉を脅かすメリットを作ることだ。今まで木の葉を襲った連中を見てみると、皆感情的な理由と一緒に何かしら利益を得ている。その利益を用意して、取引することになるだろう。

「里の外にいる奴らで、木の葉を襲いたい奴がいないことはないけど、わたしがやりたいのは戦争じゃないからな……。里の外の人たちは基本的にうちは一族の盛衰とかどうでもいいし」
「だろうね」
「だから、国家単位で考えると今思いつくのは雲隠れかなぁ」

 雲隠れと木の葉には浅からぬ因縁があることは調べがついているし、この後もっとその因縁を強くしそうな出来事が起こることも知っている。コゼツの調べによって、日向ヒナタ誘拐事件がまだ起こっていないことが分かっているので、もしその犯人が雲隠れなら、手を回す余地はあるかもしれない。

「雲隠れか……動機は作れそうだね。でも向こう側だって、同盟締結したい流れなんでしょ?」

 コゼツは頬杖をついた。

「はぁ〜〜……そうなんだよね」

 わたしは”雲隠れ”の文字をくるくると囲った。

「あー、それに、擁立する人に必要なのは強さだけじゃダメだと思う」
「他に何がある?ボクの本体は、今まで長いこと人間の盛衰を観察してきたけど、どの争いも結局は強い方が弱い方を従わせてきた」
「そうだけど……。まあこれは強いて言えばって話」
「甘いなぁ〜サエは」

 コゼツは綺麗に生えそろった白い歯をちらつかせてにやついた。
 コゼツの言うことも理解できるし、わたしもまずは圧倒的な力でもって優位を示したいところだ。ただ、もっと望みを言えば……うちはと里上層部に言葉で語り掛けるような人物を擁立したかった。
 NARUTOという物語では、終始”力VS愛”という型に嵌められた多くの似通った関係が出てくる。700話のサスケのモノローグはとても秀逸で――『オレ達は孤独で愛に飢え 憎しみを募らせたガキだった』――これは全ての対立に言えることであり、力と愛のどっちが勝ったかと言われても一読者のわたしには結論が出なかった。ただ、今までアシュラや柱間が叶わなかった夢をナルトが実現できたのは、『友だちだから』を貫いて最後までサスケを追いかけたからだ。そしてその為に、ナルトは死ぬほど修行して強くなっている。
 つまり、力がなくては愛が為せないし、愛の方向を間違えれば力は悲劇を生むっていうのが、ナルトの話が伝えたい大筋なんだ。
 対話で憎しみの連鎖を止められればそれがいいけれど、それは主人公のナルトだからこそできる特権だ。そしてわたしは主人公じゃないから、力を持ち、それにどのような機能性を付けるのかで事態は大きく変わってしまう。
 力があり、尚且つうちはにも里にも愛の深い人間を擁立できたら、それが最も良い。しかしどっちかしか満たせないのだとしたら、力を持つ人間が必要だとそういうことだった。

「こう……木の葉上層部と、うちは一族がいるじゃん?」
「うん」
「その両方の、考え方というか、本音?その人格形成に、ドカンと影響を与えるようなそういう人を擁立したいんだよ」
「あっはっはっは」

 笑ってんじゃねえ!!!
 わたしはキー!と歯を食いしばる素振りをする。コゼツは黄色い瞳をひくつかせて、片足を膝の上にのせて姿勢を崩す。

「じゃあ、擁立できるかどうかはいいとしてその影響を与える人物って誰?」
「ええぇ〜……」

 誰だ……うーむ…。
 ナルトに出てくる強い忍を思い出してみるが、なかなかコレという人物がいない。わたしはノートを見直した。

「フガクにとって影響の強い人物は分からないし……いやそもそもうちは一族全体に漂う空気を変えなきゃいけないんだから個人を注目しても意味ないか…」

 フガクとは結婚式でしか会ったことがないが、両親や周囲の人間の反応を見る限り、真面目で堅物で責任感のある不器用な人って感じだ。優秀だけど、典型的なうちは一族。
 今は35歳だから九尾事件の時は30歳くらい。コゼツが持ってきた情報だと、第三次忍界大戦ではミナト、ヒアシらと並んで中隊を率いて戦果を挙げている。イタチ真伝では火影に対する羨望の気持ちも見られたから、自分より6歳も年下のミナトが火影になったことに悔しさを抱いているかもしれない。でも影響とまではいかない気がする……。

「ダンゾウとヒルゼンは誰だ?柱間?扉間?」

 でもこいつら死んでるしな。
 …………ん?

「…………あ」

 ピンときた。
 わたしはその瞬間、全ての問題を解決する答えとその手段が、天啓のように降ってくる感覚がした。まるで電気が迸るかのように、青白い光が脳内を一直線に走った。
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