7歳 / 作戦会議
副題:進捗どうですか?

――ダメです。
 崖登り練習の途中で気が緩み、地上30メートルから落下してしまい足首を捻ったので夜の練習をお休みしたわたしは、ぷんすか怒るコゼツに小言を食らった。そして久しぶりに「”あの夜”を回避しよう作戦会議」第五回を開催中の東雲家地下室。ウンウン唸りながら考えていたが、姉だけを救出する作戦に妙案が出ないので、うちはと木の葉上層部の衝突を虐殺以外の方法で避ける作戦に議題を移行して以前図書館に籠ってまとめたノートを見ながら意見を交わしていた。

対立する矢印がお互いを向かないような抑制
→昔:忍界大戦
 今:なし
→どうにかして再びお互いに向く矢印を逸らさなければ、衝突は免れない。

「このメモだと、サエはこの抑制とやらをもう一度作って、奴らの向く視線を互いから逸らせたいって風に考えてるんだね」
「うーん、一概にそうすればいいってわけでもないんだよね……」

 木の葉がペインに襲撃され、ナルトが長門を説得し輪廻転生で死者を蘇らせてくれなければ壮絶な被害を受けていたってときに、ダンゾウは根の人間を動かさなかった。それだけではなく、木の葉がペインに襲撃されて大変だからナルトを妙木山から呼び寄せるために放ったカエルを、人柱力が万が一敵の手に渡ることを避ける名目で殺し、連絡を遅らせた。つまりダンゾウのせいで木の葉はペシャンコになってしまったとも言えるのだ。
 ヒルゼン亡きあとは火影の椅子だけがダンゾウの目指すものになってしまったから……なのか、綱手が瀕死だからこのまま手を出さずにくたばってくれるの待ってればオレ火影取れるぜ!ってヒャッハーしたからかは知らないが、ダンゾウの行動指針は”里の為”だけではない時もある。恐らくそれが、ダンゾウを非道だとか野心家だと揶揄し批判する人たちの持つ疑心だろうし、わたしもそう思う。ダンゾウは、自分の目的を果たすためならば、守るための里、そしてそれを作る人々の命を犠牲にするきらいがある。よってうちは一族と木の葉の因縁を解消する手段として、外圧そのものを利用する可能性があるのだ。

「九尾事件のときみたいに、里の危機を利用して更にうちは一族の立場を悪くし、追い込む手を使ってくるかもしれない。”抑制”も抑制で、うまく使わないと本末転倒になりかねないのがダンゾウなんだよね」
「へぇ……」
「わりとキングオブクズ」

 ダンゾウは好きだが、長門が死んだ事件の片棒を担いだり九尾事件での警務部隊の采配などを見ると、全ての元凶と称されるのもやむなしだ。
 
「でも、他に思いつかないし、第三勢力を作る方針で今は考えてるよ」
「うーん……」

 いつもは、わたしの考えをふんふんと聞いているだけのコゼツが、珍しく言い淀んだ。鉛筆を持って、2人の間で開かれているノートに何かを書きだす。

「つまりサエはさぁ、うちはと里の上層部の衝突を延期させたいってことだろ?それって結局、いつかはその夜が来ちゃうってことじゃないの?」

 がっしり掴んだ鉛筆でもって、物凄い筆圧で削るようにして書いた文字は『延期』。わたしはため息をついた。

「それね」

 勿論そこも考えていた。うちは一族と里上層部、この二つに解消されない因縁が出来てしまっている以上、衝突は避けられない。もしもわたしたちが第三勢力を作り、木の葉に再びの危機を持ってきて里が危うくなったとしても、ずっと保ち続けられるわけじゃないから、いつかは衝突する日が来てしまう。それに保ち続けたとして、じゃあ一体いつまでそうしていればいいのか?って話になる。
 穢土転生され、うちはの末路を知った扉間は『いずれそんなことになると踏んでおったわ』と言った。……ん?ちょっと台詞違うかな?まあいい。でも言った。彼が危惧していたのはきっと、”抑制”となる外圧がなくなった時、つまり彼が生きていた時代は忍界大戦があり真の平和とは言えなかったが、いずれそんな平和が訪れたとき、今度は里の内部で不満が噴出する今のような未来だ。

「延期じゃあ根本的な解決にはならないってのは分かってるよ。できるなら、うちはを里中心部から切り離し、警務部隊の役職を与えて隔離する今の政策をやめさせる……」
「つまりうちはの要望を上層部に通す」
「そうそれ。それが一番スッキリしてて、素直に考えた解決方法ね。でもそんなことって、上層部の思想を変えるってことだから無理でしょ?」

 今の里上層部、その中でも最も権力や発言権の強い人間が全員元扉間小隊って、よくよく考えなくてもクソだなwww二代目を特に嫌っているうちは一族の苛立ちが手に取るように分かる。

「となると……」

 わたしは、”クーデターを起こす”という文字をトントンと指で叩いた。

「確かにこれは有力な候補ではある。どうにかしてイタチの行動を遅らせる、それかうちは側を焚きつけて、クーデターを起こしちゃう案」

 クーデターを延期することはできず、クーデターを止めたのが原作の結末だとしたら、まず浮かぶのがクーデターを勃発させる案なので、この選択肢は1、2を争う有力候補として一回目の作戦会議以降度々議論されていた。
 だが、そこには三つの障害がある。

・クーデター勃発を早める。
--1,どうやって?→うちは一族に対する発言権がない。また、暗部に見つからずにイタチが二重スパイであることをバラしクーデターの実行日を早めるのが困難。
 2,クーデターの結末が予想できない→下手したら里内部でうちは一族と暗部・根の全面戦争になり、姉が死ぬ可能性が高い。
 3,多里と戦争になる可能性→上層部の目論見通り、他里に攻め込まれ戦争になったら姉が死ぬ可能性が高い。

「1と2がやばいなー……まず、うちはが企むクーデターの詳細ってどんななんだろう。そこが分かればもっと作戦の立てようも……いや、やっぱないな。結局詳細分かったところでどうしようもないわ」

 イタチ真伝にチラッと書いてあったような気もしたが、あまり覚えていない。火影を人質に取って要求を通すとかそんなだっけ?結構荒っぽいやり方だった気がする。
 しかし、前世の常識で考えたらうちはの要求は全く憲法違反じゃないどころか、正当な権利を主張しているだけだ。そんな正当な主張すら事前に押しつぶされる木の葉隠れの里とは……平和とは…前世でも中東やアフリカなどの紛争地域でこういうやり取りがあったかもしれないと思うと…………深いね!!!

「うちは一族にも、早いところボクの別個体を潜伏させた方がいいね。写輪眼で見破れるのかまだ分からないんだっけ?」
「うん。そうなんだよ〜そこがさ……」

 ここに原作があればな……。もう何度も思ったこの気持ちを、また反芻する。

「うーん、そだね。延期じゃだめだ……」

 わたしは、黒々と刻まれる、延期の文字を鉛筆でまたなぞった。コゼツは頷いた。

「クーデター止めるにしろ起こすにしろ、ボクはどっちでもいい。でも……衝突を避けるだけじゃ、サエはこれからもずっと、ユズリハが死ぬまでうちはの動向を見守り続けなきゃいけない。そんなことするくらいなら、いっそユズリハ以外を早急に始末した方が楽だよ」
「それもそれで難しいよ……」

 それに結婚式を見た後だからか、ヤクミが死んで号泣するユズリハのことを考えると延々とした鬱のループに陥ってしまうので、わたしは余り考えたくなかった。わたしが守りたいのはあくまで姉であり、姉の幸せではない。勿論、姉と両親には幸せでいてほしいし、幸せとは言わなくても、理不尽な死に巻き込まれて欲しくないとは思うけど、そこまで手を伸ばすには少し技量が足りなさすぎるし、それじゃあ一体どこまでが姉の幸せでどこまでが守るべき範囲なのかっていう答えのない疑問を追いかける羽目になってしまう。だから目的には優先順位をつけていた。
 姉に死なないで欲しい。それだけだった。

「それかダンゾウを殺すか」

 言ってはみたものの絶対に無理だと思った。

「まあ、サエが決めることだ。とりあえずボク、第三勢力を作るって案には賛成〜〜」
「よし。お姉ちゃんを確実に助ける案って、わたしの忍としての技術に直結することだから、今から考えるにはちょっと前がかりすぎる。しばらくは第三勢力をどうやって増やして、どう動かすか、何をするかっていうそっちを詰めよう」

 ノートの、『・第三勢力を作る』の箇条書きをぐるぐる◎で囲ってその日の作戦会議は終了した。
 作戦会議には未だこれといった進展がなくもどかしい日々を送るうちに、3月になった。スーパーに春キャベツや新玉や温室育ちの苺が並ぶのを見ながら焦りを覚えたが、その度にシカクさんの言葉を思い出して心を宥めた。
 忍としての経験値は見えないところで少しずつ溜まっているようで、ルーティーンワークの忍術練習で、初めて、影分身の術に成功した。分身の術と違ってチャクラの練りこみが大変で、少し気を緩ませるとすぐに解けてしまうが、チャクラを練り、発散し続けることに慣れると、徐々に影分身を保っている時間が長くなっていった。
 これを本番の戦闘中に使うには、一瞬でチャクラを練り分身を作りそれを出さなければならない。
 先は長い。
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