7歳 / 結婚式B
副題:独特の電波受信してる系の輪に入れない

 そういえばコゼツって、ヨーグルトに入ってるナタデココをいっつも固くなるまで噛み続けるタイプなんだよね〜…アロエだからかな……。でも、そもそも白ゼツってアロエというよりはハエトリソウ…食虫植物をイメージしている気がする。まあどうでもいい。
 視線の先にいる少年たちは、大人たちの間を縫ってわたしたちが近づくとすぐに気付いてこちらを振り向いた。シスイは鷹揚に眉をあげると、わたしの顔を見て、そのあと手前にいるイタチのことをチラリと見て、お兄さんらしくちょっと笑っている。

「こんにちは」
「……この度は、お姉さんのご結婚おめでとうございます」

 わたしたちが、本当に自分たちのテーブルを目的として歩いているのか見定めていたのか、とにかく大きな黒い瞳をこちらに固定していたイタチは、まず最初に椅子を立って丁寧にしっかりお辞儀をした。厳格だと噂されるフガクさんの子だけある、実に礼儀正しい。お前鼻くそほじったことある?丸めてピンッ!って飛ばしていいんだよ?

「ありがとう。……えっと、わたしのこと覚えてる?」
「アカデミーで同じクラスだった、東雲サエ」
「そうそう!」

 よかった、覚えてた。実はアカデミーに入る前にも話し掛けたんだけどそこは忘れちゃったかな。
 外行きの顔で的確に答えるイタチに、にこっと笑みを向けると、わたしの後ろからコゼツも顔を出す。

「ボクはコゼツ。よろしくー」
「知ってるよ。まだアカデミーにいた頃、助けて貰った」
「?」
「……ん?ボク?」
「いや……忘れてるなら、いい」

 イタチがふっと目を伏せる。彼の後ろでわたしたちの会話を見守っていたシスイは、眼を細めてにかっと笑って口を開いた。この人笑うと目尻にシワが寄るんだけど、そこに愛嬌があるというか、優しい雰囲気が醸し出るみたい。

「イタチの友達かな?俺はうちはシスイ、中忍だ。よろしくな」

 シスイさんってもう中忍だったのか!
 驚きとともに、こちらもそれぞれ名乗り挨拶を交わす。

「あれ、イタチ、サス………あ〜っと」
「ん?」

 疑問を抱くとすぐに質問が口を出る癖、早く直さなきゃいけないなと思いながら、なんでもない、と言った。イタチは耳ざとくわたしの呟きかけた単語を拾う。

「サス、ケか?」
「あ、うん……ほら、前弟がいるって言ってたじゃんね」
「お前にそんな話をしたか?」

 したよ!したってことにしようぜイタチ!!
 イタチは訝しげに眉を顰めて、不審者を見るような眼でわたしを見たあと、視線を逸らした。

「サスケは親戚の人が見ている。本当はオレが面倒見てるって話しだったが、父上が……」
「披露宴出ろと」

 言葉尻を継ぐと、イタチは頷いた。

「ふーん……イタチ、ヤクミと親しいの?」
「さんをつけろよデコ助野郎」

 コゼツを諫める。イタチは、まあ……そこそこだ、と言って周囲に素早く視線を回して再びわたしを見た。なんでそんなに周囲をチラチラ見てるんだろう。わたしと喋るのが嫌なのかな?残念ながらイズミちゃんは来てないよ。
 少し会場が騒がしくなって、閉じていた大扉が再びあき、二回目のお色直しを終えた姉が新郎と一緒に現れた。さっきはドレスだったが、最後だからかもう一度着物に着替えている。とても豪奢で、金と青磁と朱色が姉によく似合った前衛的なデザインのものだ。
 もしかしたらあれ、姉の働いている店が特別に仕立てたのかな。そうかもな。わたしは、以前原宿の着物展覧会で見た、折り鶴模様がちりばめられミントとエメラルドグリーンと朱色に配色されたへんてこりんな着物を思い出した。

「……はぁ〜〜〜!やっと飲み込めた〜!」
「何を?」
「コレ」

 イタチに尋ねられたコゼツが、まだそのテーブルに残っていたなまこの酢の物を指さす。

「なまこ。噛みにくくない?」
「そうか?俺はコリコリしてて普通に噛めた」
「ああー……イタチっていうくらいだから歯が鋭いのかな?」
「イヤ……お前の歯と同じだ」

 傍らで間の抜けた会話が続く一方、姉は色々な人に拍手されたり、綺麗ねと声を掛けられたりしながら壇上の前に歩いていく。そして、そこにうちはフガクさんと数人の女性が濃紺の羽織のようなものを持って現れた。
 それはよく見ると打掛だった。姉の後ろに女性が回って、濃紺の地に赤い団扇が刺繍されたそれを肩にかける。これであなたもうちはの一人だ、とフガクが言う。それは確かに祝いの言葉なのに、まるで何か不満でもあるようなムスッとした表情を浮かべたままなので、ミコトさんが『あなたもう少し笑えないの?』と脇をこづいた。笑いが会場を包む。フガクさんはちょっと口をとがらせて困っている……イヤお前がそんな顔したってかわいくねーからな!!決して今ちょっとキュンときたとか思ってねーから!!!

「イタチのお父さんさぁー……んー、出てこない」
「父上がどうかしたのか」
「あっあれだ、ギャップ萌え」
「くっ…!」
「ギャップ?燃え?」

 シスイが腹を抱えて笑いをこらえ、イタチが怪訝な顔で改めてコゼツを見る。だからお前たちのその微妙な空気はなんなの??なんでそんなスルッと仲良くなってんの?わたしも混ぜてよ。
 その後も三人はテンポよく会話を弾ませていて、わたしは完全にハブだった。畜生未来のうちは一族皆殺し野郎が、なんでわたしをハブにする?天然だからか?いや、それはコゼツもだろうけど……きっとここに扉間がいたら、”おぬしら、かなり天然だのう”とか言われちゃうんだ。むしろ来てほしい、ひたすらに優秀なツッコミ役が欲しい。


 結婚式が終わって少しして、完全に引っ越しが終わると、姉は家を出て行った。出ていくっていったって、新幹線のCMでありそうなウルッときちゃうお別れではなく、あれ持っただの、これも必要なんじゃないだの、母さんがしつこく世話を焼いたせいでとても騒々しくて呆気ないものだった。そっちの方が良かった。
 両親は、今まで姉の部屋だった場所をわたしにあげて、今コゼツと使っている部屋をコゼツのものにしようとしたが、別に狭くても気にしなかったし色々と不都合があるので、そのままでいいと主張した。姉の部屋は母さんの部屋になった。

「お姉ちゃんは、うちに遊びに来てって言ってたけど全然行きたくないな〜」
「なんで?下見のためにも行った方がいいと思うけど。大体、もうボクとサエ以外はみんな遊びに行ってるのに」
「わたしが拒否ってるからね」

 アカデミーの帰り、吐息で冷たく湿ったマフラーに鼻をうずめながらスキップする。わたしの身体は、さっきまでやっていた忍組手でコゼツの肘鉄が太ももと二の腕をクリーンヒットしたせいで、じくじくとした鈍い痛みに苛まれていた。コゼツにもわたしの掌底や蹴りが当たっているはずだが、うっ血しにくい体質なのか、それとも威力が足りないのか、彼の肌に色とりどりの痣があるのを見たことは無い。
 そのときふと、後で聞こうと思って忘れていたことを思い出した。

「あ、結婚式のときにイタチが言ってたやつって何?」

 道行く人が持っている焼き芋を目で追いながらコゼツは答える。

「言ってたやつって?」

 焼き芋はそんなに欲しくなかったのか、彼はすぐに興味を失ってわたしの顔を見る。

「イタチがお礼言ってたじゃん。助けてもらったって」
「あぁ〜」

 コゼツは思わせぶりに腕組みした。

「忘れちゃった!」
「覚えてるよね」

 コゼツはしばらく悪戯っ子のような笑みを浮かべながらわたしを見ていたが、すぐ遊ぶのに飽きて普段ののっぺりした表情に戻った。

「前、ボクに喧嘩ふっかけてきた奴に先客がいたことに気付かなかったんだ」
「はい?」
「それがイタチだった」

 コゼツの日本語がおかしくてすぐ理解できなかった。つまりそれって、本当はイタチに用があった子に、コゼツから喧嘩売ったってことじゃね?

「なんでイタチがお礼を言うの」
「さぁ?そいつが鬱陶しかったんじゃない?」
「……イタチが上級生に絡まれてるところにあんたが通りかかって、自分に喧嘩売ってるものと思い込んだってことね」
「そいつ以前にもボクに声かけてきてたからね。あのときの続きかと思って、出会い頭に飛び蹴りしちゃったんだ」

 しちゃったんだじゃねーよ……まあ大事になってないならいいけど。
 わたしは、喉元に突っかかっていた疑問に答えを得たことと、やる気があるんだかないんだか分からないコゼツの生活態度に疲労感を覚えたことに、ふうと息をついた。コゼツが上級生の呼び出しに対して律儀に相手をするもんだから、入学当初に比べて売られる喧嘩の数は減っている。このまま友達もできたらいいなぁ、と思ったが、すぐに、こいつに友達とかできても(その友達が)碌なことにならないという考えに行きつき、思考を正した。
 二月の空気はまだ冷たい。痛いほど冷たい空気が頬を凪いで、わたしは顔をくしゅっと潜めた。
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