7歳 / 結婚式A
副題:絶対守るって誓ってくれなきゃ妹ちゃん結婚は許しません!

 火の国の神を祀っているというその神社は、火影岩の上に広がる森の中にある。木の葉で行われる殆どの神前結婚式はそこで行われるのだと母が言っていた。
 森の中に佇む神社と、そこから漂う静謐な空気を想像して、向かう道すがら「リハーサルとかしてないけどいいのかなあ」と緊張していたわたしだったが、鳥居に続く階段の前に人がぱらぱら集まり、祝いの言葉を送りあったり巫女さんとの最終確認をしているのを見て案外騒々しいのだと知った。

「ユキさん、今日はよろしくお願いします」
「いえいえ、〜〜さま、こちらこそどうぞお願いします。今日は晴れてよかったですね」
「ねぇ〜本当に!昨日は少し怪しかったですもんねえ」

 母とヤクミの母ば、お互いお辞儀合戦をしながらお喋りしている。そうそう、実は母の本当の名前はユキではなく、ユキノシタだったことを、わたし結婚式の招待状を見て初めて知ったんですよ。
 実の娘が本名を知らないってそんなんありか!ちゃんと教えてよお母さん!とその時はさすがに言い募った。母の実家では生まれた子どもに名前を二つつける慣習があり、それぞれ真名と呼び名で区別される。しかしその二つがあるからと言って、例えば真名を知られると命を取られるとかそんな千と千尋の神隠し的展開は起こるはずもなく、母はユキでもありユキノシタでもあるからどっちでもいいのだそうだ。
 母の名前はユキノシタ、そして父がスグリ、と来れば、あれ?これってもしかして植物名縛り?とナルト読者ならすぐに気が付く。そして姉がユズリハ……でわたしはサエ。おうっわたしだけハブか!わたしだけユキノシタ目じゃないんか!!少々衝撃を受けたが、今日のわたしのお着物は母の小さい頃の御下がりなので溜飲が下りた。楕円形の葉っぱから伸びる赤紫色の茎、そして白い小ぶりの花の模様があしらわれていて、これがまた可愛らしくて結構気に入っていた。

「結婚式かー…洋風のヤツしか出たことないからわからない……」
「………」
「コゼツ今日静かだね」
「これ高い服でしょ?汚したらお父さんが大変になる」
「…………」

 白ゼツも随分庶民臭くなったなー。
 コゼツは両手を広げて、砂色の袴の上から羽織っている黒い羽織を、ひらひらとはためかせてしげしげ見ている。緊張とは縁がないようなこの子も、初めての正装で落ち着きを意識しているらしい。
 今日の主役の二人は、わたしとコゼツがここに到着する前に既に来ていた。神社の人に大きな赤い傘をさしてもらって、写真も撮り終わった。姉の肌は日焼けやストレスで少し荒れていたけど、それもプロのメイクさんによって珠の肌のように白く輝いている。目深に被った白無垢の中、顎を引いて控えめに笑うと、紅と白のコントラストが美しい。
 暇を持て余したコゼツがチャクラを練り始めたのを見て笑ったり、つま先で地面の砂利を弄って母に怒られたりしているうちにやっと式が動き出した。母と父に呼ばれて列の先の方に並ばされて、笛の音と共に参進の儀が始まった。
 まず先頭に青磁の着物を来た斎主が歩き、山葵色の着物を来て雅楽の演奏をする男の人、その後ろに二人の巫女さん、そして新郎新婦、白無垢の後ろが地面につかないように持ってる女のひと、媒酌人夫婦、その後ろにそれぞれの父、母、そしてわたしが並んで歩く。コゼツはわたしの弟ってことで後ろに着いており、その後ろには親族が近い順に並んでいて、職場の先輩や恩師や友達などは参列しないようだった。
 わたしの横には本来ならヤクミの兄が並ぶはずだったが、第三次忍界大戦で殉職されたそうで、知らないおじさんが並んでいる。

「…………」

 新郎新婦の後ろを歩く人、媒酌人という役割で、どういう人たちなのか結婚式が決まったときに母に聞いた。多分仲人のことだろうという予想は当たっていて、2人の縁を結び結婚式を進行する大事なポジションであり、お世話になった先輩や恩師など、もう結婚した人が夫婦が務めるそうだ。大抵は新郎が誰かにお願いしてやってもらうそうで、結婚式の招待状にその名前が記されていた。
 フガミコだ。
 フガミコかぁ……わたし的ナルトのノマカプランキングではかなり上位に食い込む強者である。いつもムッスリしてて顎の骨がカクカクしてるフガクさんと、うちはの血筋らしい鼻筋の通った優しそうなミコトさん、この二人のなれそめとかプロポーズとか想像すんのめっちゃ楽しい。正直今前の方を2人並んで歩いてるの見るだけでもほっこりしてしまう…えへへ……ベッドシーンとかどんなかな……。まさか後輩の嫁さんの妹が自分のそんなシーンを想像してほっこりしてるだなんてフガク微塵も思ってねーだろうなドンマイ。
 しかし、そんな暖かい気持ちにはいつまでも浸っていられない。真面目に考えると、ヤクミの媒酌人にフガクがなるなんて恐ろしいことだ。
 なんでうちはフガクが……。
 たしかにフガクは警務部隊隊長で族長だから、ヤクミさんの先輩でありお世話になっている人であることは間違いない。でもそれにしても仲人をやってくれるほど近しい仲だったとは思わなかった。
 今までずっとモブだと思っていたが、もしかしたらうちはヤクミという人は原作に名前が出ていたのかもしれない。だが一応うちは一族好きの自覚があったので、名前は結構網羅していた筈なのだが、もしかして陣の書とか在の書とかに出てきたのかそれともアニオリキャラなのか…。知らんけど、とても、穏やかじゃない。姉はうちはの血筋じゃないからクーデター計画のことは知らされないと思うし、会合にも出ないと思うが、夫が重要なポジションについていたとしたら話は変わる。厳かに砂利を踏みしめて歩くフガクの背中を見ると、凄く不安に駆られた。
 会場に入ると、祭壇を前にした左手が新婦側、右手が新郎側に別れ、祭壇の前に新郎新婦が並んで座る。その後ろに少し間を開けて媒酌人夫婦がつき、式が始まった。
 こうしてうちは一族と対面すると、改めて顔が整った一族だと思う。うちはヤクミさんはイタチやサスケのような美形ではなく、頭の上で結った髪が特徴的な素朴な男性だが、その父や母、祖父、叔父などバランスのとれた顔だってことが分かる。それに、わたしが忍の卵だからなのか、今並んでいる全員が一人前の忍として戦っている、またはその経験があることが、その顔つきから感じ取れた。

「続いて、三献の儀と参ります」

 三献の儀、盃を交わして契を結ぶ儀式だ。
 姉とヤクミさんで、同じ盃に酒を注いでもらって何回かに分けて飲んでいる。ここからは背中しか見えないが、確か前世で1、2、と盃に口をつけ3回目に口をつけたときに全部飲む、という決まりがあった気がする。
 そして、誓詞奉上。

「木の葉舞う今日の佳き日に、ここ火国氏神様の大前において、夫婦の契を固く結び、結婚式を挙げ得ましたことを心から感謝します。今日より後は、深い愛情と信頼をもって、いついかなるときも助け合い、支え合い、誠心誠意努め、励み、苦楽を共にし、清く明るい家庭を築きますことを、ここに、誓います――……」

 ヤクミさんの浪々とした声が、静かな神社に響き渡る。
 母がそっと目頭にハンカチを当てる。

「…――2月16日、うちはヤクミ」
「ユズリハ」

―――

 その後も式は静粛に進み、つつがなく、婚姻の儀は終了した。その後神社近くの催事場大広間で行われる披露宴へ、新郎新婦以外の参加者が歩いて向かう。主賓や友人らはそこで待っているらしい。
 新郎のご家族や親戚の方々とはもう何度も会ったことがあるらしく、両親はかなり打ち解けた様子で話をしていた。父の妹の叔母さんはコゼツのことを”大きくなったわね”なんて言って構っている。コゼツは少し嫌がっているが、両親の手前大人しくしているみたいで可愛かった。
 少し緊張が緩んだのだろう、笑顔を浮かべる親族の様子を眺めて心の中でため息をつく。
 …………はぁ〜〜〜…。
 如何に苦楽と言えど、苦にも限度があるというかうちは一族滅亡の夜まで共されたらたまんねー。

「顔色悪いよ」

 コゼツがにやにや笑う。

「あんたの顔色もいつもより緑だよ」

 おばさんに構い倒されてげっそりしてんじゃねーか。
 披露宴会場は和洋折衷って感じで、デザインは和風だけど会場のセットはよくあるあの感じ(壇上に新郎新婦の席があって、会場にはテーブルがいくつか置いてあって左側が新婦席で、右側が新郎席みたいなアレ)になっていた。ナルトらしい。四角いモダンなテーブルの上にはめいめい違う種類の生け花が生けてあり、どれもとても美しく綺麗だ。
 わたしたちは末席に座るので、会場の様子がよく見えた。新郎側は恐らく警務部隊の同僚や上司なのだろう、殆どうちは一族で埋まっていたが、背中に団扇がない人が数人いる。その中の、20代だろう男女はヤクミさんが下忍になったときの班員なのかもしれない。
 新郎側とは反対に、新婦側の賓客は様々だ。育ちも職業も雰囲気もバラバラで、姉がこんなに友人が多いとは知らなかったので驚いた。

「あっこの子がサエちゃんとコゼツくんやね!可愛い〜〜〜!」
「サエちゃん、おばさんのこと分かる?郵便局の隣の、青い屋根の二階に住んでるんだけどね??」
「おい、コゼツくんは、色が白いけど大丈夫かよ?!病気じゃねーだろうな?」

 色々な人に声を掛けられて、わたしとコゼツも忙しい。
 1回目のお色直しに出かけるころには、皆テーブル毎に話に花が咲いて式が盛り上がっていた。前世での披露宴のような余興は少なく、結婚の報告と両親のスピーチを簡単にやった後はみんなで会食しようねみたいな感じだ。

「さっきのとは全然違うんだね、ボクこっちのがいいや〜」
「披露宴ってこういう感じだよ。もっとお祭りみたいになるやつもある」
「…………」

 なめこの酢の物と葛藤していたコゼツがやたらゆっくりと首を回した。

「そうか…サエって結婚してたのか」
「ぐっ」

 アワビの炊き込みご飯が喉に詰まった。こんな高級食材口から出たらどうすんだ。

「いや、してないよ」
「前のときでも?」
「ウン……。親戚の結婚式に出たんだよ」

 なるほどコゼツは、わたしの前の人生のことを考えていたらしい。

「ふぅん。結婚できずに死んじゃったってこと?」
「勝手に殺さないで」
「いーやうんこだ」

 うんこだ?!どうしてそうなった。っていうか食事のとき排泄物の話はしないとあれほど注意したのに……やっぱりコゼツはいつまでたってもガキだ。砂利だ砂利。
 うんこだとか、うんこじゃないとか、その後も2人でひそひそそんな話をしていたとき、ふと、視線の先の新郎席に自分より少し大きいくらいの子どもがいて目を見張った。ヤクミさんの親戚に、自分と年が近い子どもはいない筈だ。
 その少年は親と一緒に来ているのか、たまに隣に座る男と会話する以外置物のように静かだった。とても落ち着いていて、一発で忍だと分かった。

「うちはシスイだ」
「誰?」
「……新郎席、ちょうど今お水飲んだ10歳くらいの子」

 なるべくその方向を見ないように、山葵をちょんとつけて刺身を口に運ぶ。山葵辛くてうめぇ〜〜〜!酒だ!酒を持ってこい!!

「あの子がなんなの?」
「色々とキーマンなんだー。でもなんでヤクミさんの披露宴に来てんだろ……仲良しなのかな?」
「ふうん。ボクもあんな感じの髪の毛にしてみようかな―どう思う?」

 コゼツが洒落っ気出し始めた……。
 大学生になった途端パーマかけ始める男子みたいで面白すぎる。

「コゼツは今の無造作ヘアー似合ってるよ」
「……ハァ。サエはホントつまらないなぁ、笑いが分かってない」

 コゼツはフンと鼻で笑って、再びなまこと格闘し始めたがすぐに諦め他の品に手を付けた。わたしも鳥の照り焼きのような肉を食べ始めるが、すぐにまたコゼツが口を開いた。

「あれ?あそこの奴うちはイタチじゃない?」
「えっ」

 反射的に顔をあげると、丁度視線の先、シスイの左隣の空いている方の椅子に座る少年がいる。1つ縛りにして背中に垂らした長髪に、鼻筋の通った横顔、なによりシスイを見上げるときのキラキラした表情は、間違いなくうちはイタチだ。

「よーし、ご飯も食べたし親もいないしちょっと絡みに行くか」

 イタチは呼ばれていなかった気がするんだけど、名簿を全部チェックしたわけじゃないからな。

「ボクの口の中にまだなまこ入ってるんだけど……」
「おばさん、あっちにちょっとお喋りしたい子がいるんだけど会いに行ってもいい?」

 眉を寄せてもぐもぐとなまこを噛み続けているコゼツを引っ張って、わたしは新郎ゾーンに向かった。
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