7歳 / 暗中模索C
副題:俺のダンゾウがこんなに可愛いわけがない

「……すみません、便覧には載ってないのですが、家系図は閲覧できますか?」
「何の一族でしょうか?」
「志村一族です」

 受付で志村一族についての本を閲覧できるか尋ねると、秘匿レベルDで公開されていた。司書に閉架書庫から持ってきてもらったそれを手に取り席に着く。
 志村一族は、色々な一族と混ざっているようだだ今も木の葉で血が続いていた。しかしダンゾウの直系は全員既に死んでいてやはり子供はいない。父、祖父は里が起こる前後に戦死、奥さんは……あっ奥さん死んでる。結婚してたんだ!えー意外、恋とかできるのかあの人……。

――囮役はもちろん俺が行く。

で有名な、扉間小隊6人がそろったあのシーン。あのメンバーで、今生きていない人間はうちはカガミと秋道トリフだけだ。あんな戦乱の世を生き抜いてきたくせに凄い生存率である、さすが二代目火影が直接率いた部隊だ。
 さて、ダンゾウの思想に強く影響を及ぼしていると思われるのは、

1、父と祖父
→・ダンゾウ『父と祖父は戦場で死んだ、自分もそうする覚悟がある』みたいな台詞。ダンゾウの人格を形成した意識は”忍は潔く戦場で死すべし”

2、扉間
→・ヒルゼン『我々は二代目様のやり方をうまく引き継げなかった』
 ・ダンゾウのいた部隊の隊長だった。
 ・扉間が火影に選んだのは自分ではなくヒルゼン

3、ヒルゼン
→・扉間『お前はいつもサルと張り合ってきたな』
 ・『猿飛、お前に覚悟はあるか?』
 ・ダンゾウは囮役を買って出ることができず、自分の弱さを知っていた。ヒルゼンが先に名乗ったことでほっとしてしまい、その時ヒルゼンには一生追いつけないという烙印を自分の心に押してしまった?
 ・死ぬ間際に思い出したのは少年のころのヒルゼン。『ヒルゼン、お前は今のオレをどう思う…?』

 この三者だろう。
 あってるかどうかわからないけど、まあ仮にこう考えてみる。
 ダンゾウには父と祖父の影響で芽生えた”忍とは斯くあるべき”という理想の姿があり、扉間小隊での経験で自分が”そうあれない人間”だと理解した。そして”そうあれない自分”を”ヒルゼンができないことをする”ことで正当化し心のバランスを取ってきた……。ダンゾウにとってヒルゼンは、”斯くあるべき”という基準であり、決して届かない背中であり、老いた今となっては疎ましい過去の遺産。
 とすると、うちは一族とはダンゾウにとって、理想の忍の姿とは正反対だったことになる。そもそも、里の起こりから続く因縁を今まで引きずっていることそのものがダンゾウにとっては許せないのかもしれない。彼曰くそんな因縁を耐え忍ぶ、自己犠牲こそ忍の本分。
 ダンゾウはイタチのことを高く評価していたし、おそらくうちはシスイのことも評価していた。自分の理想の忍だと思う者には残酷な仕打ちを与え、それが実際遂行されその忍が”斯くある”と、”アイツは立派は忍だった”ってなるわけだ。ヒエエエエ〜〜〜ツンデレとかいうレベルじゃねえええええ!ダンゾウに気に入られたらもれなくツラい運命が待っている!
 
「すみません、これありがとうございました」
「はーい」

 受付に志村一族の本を返した。アレ大判のやつだからテーブル占領しちゃってね……重いし。
 さて、ダンゾウがうちは一族を疎ましいと思っている理由に一応の仮説はたった。この疎ましさは、ヒルゼンに対するものとはまた別のもので、両方とも燻り続けてウン十年の苔むした岩石の如き固い思想である。これを揺るがすのは正直無理臭い。
 ではうちは側をダンゾウの思想に近づけるのはどうかというと、さっきノートにまとめた通りこれもまたかなり無理臭い。

「……だめじゃん」

 いやいや待って?無理臭いじゃだめなんだって。
 わたしは一旦冷静になろうと伸びをした。ハァ。こんなハードモードに誰がした?セーブポイントないしハート一個だしクソゲーだ…………。
 さて、両方とも無理臭いのは最初から分かっていたことだ。やっと今分かっている事実から両者の現状を整理できたので、もっと踏み込んでいこう。いくら思想が固いって言ったって、そこには両方とも長年蓄積してきた様々なしがらみがあるからだ。憎悪、嫉妬、野心、執着……それらの根底にある”本音”はなんなのか。
 ナルト的”本音の図り方”でいくと、

――人間死ぬまでは自分が何者かわからない。(by鬼鮫談うちはイタチ)

なので、代表してヒルゼン、ダンゾウ、フガク、イタチの死に際の台詞を流用しよう。例によってちょっと正確には思い出せないけど、

ヒルゼン…台詞?内心?『木の葉舞うところに、火は燃ゆる』
ダンゾウ…台詞『忍の世のため、里のため、お前らは決して生かしておかぬ』内心『ヒルゼン、お前にとって俺は……』
フガク…台詞『考え方は違っても、お前のことを誇りに思う』
イタチ…台詞『お前をずっと愛している』

である。
 こうしてみると、まず木の葉上層部コンビはなんだかんだ里のことを考えて逝っている。里が危うくなれば、うちは一族粛清よりも里の防衛を優先するだろう。
 次にうちは一族。彼らは最後の最後まで自分の身内の人間への想いを語って逝った。つまり、一族の同胞が(里上層部以外の外圧によって)危うくなったとき、里への不満や憤りよりも優先してそちらへ動くだろう。
 今まで、この対立する矢印がお互いを向かないような抑制を、忍界大戦が行っていた。しかしそれがない今、どうにかして再び彼らの向く未来を一致させなければならないというわけだ。

「ふぃ――……」

 やべ〜頭が沸騰しそうだ。
 気づくともう時計の針が五時近くを指している。なんかめっちゃ考えたし、今日はここまでだな。わたしはノートを閉じた。


「あ゛ぁ〜〜〜……」

 最後に原作読んでからもう7年も経つ……流石に細かいところを完全に忘れていて、要領を得ない。どうにかできないものかと悩むけど、アカデミー生のままじゃどうにもならないなぁ。
 図書館から出て、深いため息と苛立ちを抱えて頭をぐしゃっとかき回す。あー今のわたしは髪質が柔らかいからちょっとぐしゃぐしゃしてもすぐ元通りで素晴らしい。アジエンスのCMみたい。
 因みにわたしが使ってたシャンプーはロレッタでした。しかしあれ途中でリンスだかシャンプーだかどっちかが製品回収されたんだよな〜。いつも通り買い足そうとしたらなくなってておえええ?!ってなったの覚えてる。
 わたしは特に理由なく河川敷で立ち止まってベンチに座り、川の流れをぼーっと眺めた。

「わかってんだよーこーーのままじゃ終わるーこと〜…」

 焦っても仕方ないって分かってるんだけどな〜。
 まだダンゾウやうちは一族と敵対するとは決まってないし、そもそも姉一人を助ける方法があればそれでいいのだ。このままじゃ”分かってんだよおばさん”とか言われちゃう。オビトの愛すべきdisり文句を自分に対して使うなんてクソ〜悔しいぜ……。
 その後もぼーっと川の流れを眺めていたら、なんだか見たことのある青年3人組が現れて目の前を通過していった。口に長い串を加えてる優男と、顔の半分に火傷の痕みたいな引き攣れがある男と、顎に髭が生えている男。

「やっぱうまくいかねーな。先代のようにはいかねえか」
「次に予定会う日っていつだ?俺明日から長期任務だぞ」
「俺は明後日から大名の護衛」
「あわねぇな……」

 どうやら予定が合わずに苦労しているらしい。まーねー、大人になると色々予定が合わなくて、ちょっとした飲み会とかも人集まらなかったり開催されなかったりするよね。わかるわかる……。
 口に長い串、もとい千本を加えている男、確か中忍試験本選の試験官だった不知火ゲンマだ。あとは名前を忘れたが、名前がカタカナだったような気がする……この3人で何かをやっていたような気がする…いや全部気のせいだった気がする……。
 わたしはふぃ〜とため息をついて彼らが川上から現れて川下の方へ歩いていくのをただ眺めていたが、その途中で視線に気づいた火傷の人に、ブッと笑われた。

「なんかまた随分オッサンくせぇ顔してるガキがいるぞ」
「あ〜〜あの子アカデミー生だ。この前演習場で見かけたな……おーい」

 不知火ゲンマが手を振ってくれた。ちょっと嬉しくなって手を振り返す。あのひとイケメンだけど、顔覚えて貰えない木の葉上忍筆頭だよね。
 さて、3つの目的のうち2つは達成された。色々と情報を整理して理解したことは、アカデミーを卒業しないと行動の自由が制限されてやりにくいってことだ。まずは最短で下忍になることを考えよう。
 空がゆっくりとオレンジ色に染まり水面の反射が目に痛くなってきたので、わたしは腰を上げて家に帰った。
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