7歳 / 暗中模索A
副題:ひじきの鉄分表示が間違っていたことをこっちのわたしは知らない

 今日は午前中でアカデミーが休みだ。なので午後は木の葉中央図書館に調べものに行くという予定を入れていたが、朝母に頼まれごとをされたので木の葉隠れ北西部に来ていた。
 うちの家は、あうんの門から火影邸に行く道を左に曲がり、途中大きな川を渡った向こう側にあるが、母の実家は川を渡らずに河川敷をずっと行った先にある。奈良家の森と、日向一族の住む屋敷群のちょうど真ん中あたりである。
 母の実家、通称”みのやの豆腐”は、火の国の大豆農家から大豆を仕入れており、隠れ里の外にも顧客がいる有名なお豆腐屋さんだった。そこに、今日は母に代わってお豆腐を貰いに来たのだ。

「あら、サエちゃん。お豆腐ね、ちょっと待ってね」

 李色の頭巾を頭に被った従業員が奥に入っていく。この頭巾のすみっこに、みのやの豆腐と白い染め抜きがしてある。

「おきぬさーん!」

 おきぬって呼ばれてる人がここの女将さん。ただ、この人は祖母ではなく、その義妹である。みのやの豆腐は母方の祖母が営んでいたが、その人が第二次忍界大戦後に病で亡くなったためその奥さんである美濃絹さんが受け継いだのだ。

「あ、アイツこの前の……」

 ふと後ろで声がして振り向く。そこには、ムッスリとした顔でどこか不機嫌そうなアスマ少年と、その父三代目火影がいた。

「わっ……え、っと、こんにちは、火影様」

 びびった。最初はアスマの姿しか見えなかったから、あーアスマじゃんって思ったんだけど、アスマが嫌々な顔で一緒についてきてる大人がいて、誰だって思って上を見上げたらヒルゼン。マジか。

「おお、こんにちは。君は去年アカデミーに入った子だな、名前はー…」
「東雲サエ」
「おお、そうかそうか」

 アスマがぶっきらぼうな声で言う。
 あれ?アスマ先生って今何歳だ?こんな反抗期迎えた中学生みたいな感じだったっけ?もっと飄々としていたような気がするんだけど…。
 こういう時期もあったんかな、と、浮かんだ疑問に適当な答えを与えて胸にしまう。ヒルゼンは、まだそこまでおじいちゃんではないはずなのに、元々下瞼から伸びている線?模様?のようなものが皺に見えるし、頬骨あたりにシミが出来ているのもあって、もうおじさんというよりおじいちゃんに見えた。

「!なるほど、君は東雲家に嫁いだユキの娘か!」
「はい、次女のサエです」

 アスマ少年は、もう一緒にいるのが耐えられなくなったらしく、ふいっと顎をしゃくって豆腐屋さんに入っていく。わたしは苦笑いした。
 正直、現在進行形で里に仇なそうかどうか考えているとき、この人に会うのはとても気まずい。別にまだ何もしていないけど、兎に角後ろめたい。この人からは、そう思わせるような向日葵のような暖かさを感じるのだ。

「ワシはここの豆腐が好きでな。特に厚揚げが好物で、沢山買い込んではヒジキに入れて煮ものにする」
「火影様、自炊するんですね」
「おかしなことを言う子だのお、ワシはなんでも自分でやるぞ?」

 あ、ですよね。忍ですもんね、野営も自炊もなんのそのですよね。
 なんかこう、偉い人って自分で台所に立たないイメージがあって……変なことを言ってしまった。

「……だがそうさな、できることなら妻のひじき煮をもう一度食べたいものじゃ」

 気が付いたら背中にダラダラと冷や汗をかいていて、手汗がびっしょりと濡れている。ヒルゼンの奥さん死んでたんだ…全然知らなかった。いやでもホラナルトの世界って父性が強すぎて、女の遺伝子どこ行った?ってくらい存在感ないじゃん。だからあなたの奥さんの名前だって原作に出てきたかすら覚えてないというか……。
 でもそうか、亡くなられた奥さんのひじき煮が好きだったのか。

「ははは、そんなに緊張せずとも良い。ビワコが逝ってそろそろ2年になる、そう心配せずともワシは大丈夫じゃよ」

 ビワコ……あぁ〜〜、なんか思い出したぞ。そうだった。忘れてた、ヒルゼンの奥さんはナルトの出産に立ち会っていて、オビトに殺されたんだ――…。
 申し訳ない気持ちでいっぱいになって、思わず俯いて、しかし顔をそらすのは失礼ではという気持ちから、もういちどすみませんと謝った。ヒルゼンはわたしに気を遣わせないようにしてくれているのか、にこにこと笑って優しい子じゃな、そう言ってわたしの頭を撫でた。

「ワシは火影だが、お前たちと同じ木の葉の忍じゃ。同じ火の意思を継ぐものとして気楽に接してくれ」
「ありがとうございます。……火影様はひじきがお好きなんですね」
「おお!好物だ」

 わたしの隣に立って、少し話しやすいようにと背をかがめるヒルゼンはニシシと笑って見せた。ああ、その顔、その笑い方、ナルトにそっくりだったんだね。

「実はワシの古くからの友人もひじきが好きでな。よくここの豆腐も一緒に送り付けてやるんだが、ヤツはワシと違って生活習慣がなっとらんから果たしてちゃんと食っているのか……」

 やれやれとわざとらしくため息をつく。ヒルゼンのそういうお茶目なところは、可愛らしいおじいちゃんだな、孫を育ててきただけはあるな、と原作を読んでいたときから思っていたが、本物を見るとなおさら思った。まろい優しさがにじみ出てくるようで、心地が良い。
 そこでわたしは、あれ?と気づいた。

「……意外です。ダンゾウさんもひじきが好きなんですね」

 ダンゾウがひじきwwwwwwひじきをwwwwヒルゼンに乾燥ひじき送り付けられて嫌な顔するダンゾウ想像に容易いんだけど!!!こいつら好物同じかい!!仲良し!!畜生なにそれ突然の萌えか?!かわいい!!!!
 わたしがこみ上げる笑みを必死でこらえ、誤魔化すために何度か咳払いしつつ顔を伏せているとき、ヒルゼンは逆に驚いた様子で眼を見開いていた。

「……そうだ。アイツもひじきが大好きだ」

 ヒルゼンは一度笑みを消して、もう一度笑う。

「じゃあ、わたしの家のお豆腐も一緒に食べてますかね」
「そうかもしれんのう」

 彼の霞がかった瞳は、迫りくる様々な外圧や、すぐそこまで来た老いに晒されて、くたびれているようだった。年を取ると目が顔の中に埋まるっていうか、小さくなるように思うんだけど、やっぱりこれって勘違いじゃないよね。年寄りって目小さい。
 しかし彼のそれは老いに追い込まれながらも鋭い光を放っており、今もなお眩しそうに瞬いてもいる。
 その表情に切なさを感じて不思議に思った。ダンゾウは今でも火影岩の下あたりにある根の本部に住んでいるというのに、彼のことを話すヒルゼンは、まるで数年来会っていない友人に想いを馳せるような色を湛えていた。



 木の葉上層部コンビには萌えさせてもらったが、ひじきが好物とかどうでもいいわ!クソの役にもたたねー情報入手した。……でも二人して別々の場所で細々とひじきを食ってるとこ想像したらちょっと癒されたな。
 さて、実家の豆腐を家に持ち帰り、母からの任務を終えたら荷物を整理して今度こそ図書館に向かう。
 ちなみにコゼツは今日1日父の手伝いをするために仕事場に出ている。九尾事件で片腕を潰された父は、医療忍者たちの尽力により最小限の麻痺で済んだもののやはり大きな支障が出ているようで、しばしばコゼツの手を借りていた。コゼツは、元々身軽でバランス感覚があるので、父のよい助手になっているようだ。だから今日の調べものは一人である。

 原作知識を正確に思い出すための手段、記憶の精査。

 わたしは木の葉図書館とそこに併設している書庫でとある忍術の術式を探したいと思っていた。それは、原作でナルトとビーが尾獣のコントロール訓練をしていたガラパゴス諸島みたいなところで、鬼鮫に対してアオバが使った術。相手の頭の中に入って情報を正確に取り出す――あれを応用して、自分の頭に対して使えないかと考えているのだ。
 そして、木の葉が歩んできた歴史。これについては図書館で事足りるだろう。ここ数年の木の葉新聞や、文献として残っている大戦の詳細記録、うちは一族と千手一族の今に至るまでの様々な衝突など――”里の起こりから続く因縁”とやらを詳しく知る必要がある。

「…………アー」

 と、思っていたのだが。
 まあ当然といえば当然、アカデミー生が閲覧できる文献の秘匿レベルは一般市民と同じDまで。下忍はC・B、そして中忍はA、上忍になって初めてSレベルを閲覧できるようになっているらしい。
 文献の最高秘匿レベルはSSS……当然禁術はここかなぁ。
 図書館と併設している書庫の入り口に掲げられた木盤を眺めながらハアとため息をついた。
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