7歳 / 暗中模索
副題:コゼツは犠牲になったのだ…好奇心の犠牲にな……

『一つ、己を知る』

 この項目を達成するにあたり、まず自分の手札を確認した。
 当たり前だが、わたし自身が持っている最大最強の手札は@原作知識、そして今のところ得意なのはA忍術、である。逆に不得意分野は体術と幻術だ。
 今から忍としての技術を高めるとして、6年間の修業期間を考えたとき、自分に才能があるかどうかで6年後の強さが大きく変わる。特に血統第一のナルト世界では、民間人出身のわたしの強さが効果的な手札になると期待するのは不確定要素が多すぎるので、まずは絶対的な有利を最大限に生かせる方向で考えるべきだ。
 となると、

@原作知識
→記憶の精査ができるような忍術を探す。
A忍術分野
→得意な忍術を増やす

「まずわたしはこんな感じ」
「ふうん。ボクはどうしようかなぁ〜」

 森を歩きながらコゼツがぼやく。

「コゼツはやっぱり体術じゃない?チャクラが練られるようになるとは思えないし」
「まあそうだよね」

 コゼツはははっと笑って人差し指を立てた。

「ボクの個人目標は、体術を極める!」
「それにもともとコゼツのことは、戦闘能力って意味では期待してないからさ…」
「その言い方はちょっと配慮が足りないぞ」

 今わたしたちは、コゼツが見つけたという根や暗部など外部の人間に発見されにくい自主練場所に向かっている。春になったばかりであちこちが彩度溢れた朗らかな雰囲気に包まれているが、あいにくこの二人はそんなもの関係ない。
 春と言えば不審者。保護者にプリントで渡されちゃうようなちょっとえっちな不審者が出る季節なのだよ、根の皆さま。

「次はコゼツの能力だけど――…」

@コゼツは自分の別個体を作り出せる。
→1、別個体同士で土や木などどこでも自由に動き回ることができ、テレパシーで連絡が取れる。
 2、別個体を一体作るのには一時間の時間が必要。
 3、別個体は今のコゼツのような戦闘能力がなく三大欲求もない。
Aコゼツはわたしの身体の中に入れる。
→1、わたしの中に入ると傷の修復が速くなる。
 2、わたしの中に入るとわたしのチャクラが少なくなる。
Bコゼツにはチャクラがない。
→1、誰かに一定時間接触することでその人間のチャクラを再現でき変身できる。
 2、コゼツは忍術が一切使えない。
Cコゼツの自然治癒力は今の身体には使えない。
→1、コゼツは血が出るようになった。
 2、血が出るようになってから自然治癒力はほぼなくなった。

 今分かっていることはこれだけである。そして今日は、コゼツの持ちうる能力を詳細に調べるために、木の葉隠れの中の森でも特に人気のない場所に来たというわけだ。

「ここ、このへんだよ」
「よし。ありがとう、コゼツ」

 根の監視にひっかかったらわりとかなりアウトである。コゼツに感謝して、それでもなお監視の目が気になるわたしは分身でも作って周囲に置いておこうかと考えた。
 しかし。

「監視はいまもボクがしてるからいいよ」
「えっ…どういうこと?」

 どこかに別個体を作ったのだろうかと、周囲を見回すと、わたしの足元から突如3つの頭が生えてきた。にゅるっときた、にゅるっと。

「わぁ!」
「ばあ!」
「ばぁぁああ!」
「…………ハァ?」

 それぞれ思い思いのタイミングで、いないいないばあ、をしながらコゼツが出現する。そしてあっけにとられるわたしの周りにその3体のコゼツが立ち並んだ。

「紹介しまーす!左手から、本体の白ゼツを警戒してるボク、真ん中が家の周りを警戒してるボク、そして右手がいつも一緒に行動してるボクです!」
「えっ……え?!」
「えっへん」

 あまりに驚いて、間抜けな顔で固まってしまった。驚き……驚きもさることながら、歓びというか嬉しさが沸き上がる。
 まさかコゼツがここまでしてわたしの周囲を警戒してくれていたとは思わなかったし、わたしの日ごろの忠告をちゃんと真に受けてくれていたと思わなかった。実は本体の白ゼツのことは気になってしょうがなかったんだが、それをコゼツに言ったとして本体と真向から対立することになる…と考えると、なかなか言い出せなくて。
 ここは感動を隠すべきじゃない。むしろ表現すべきだ。
 わたしは両手で顔を覆ったまま、ついつい綻ぶ笑顔でコゼツに「ありがとう」と言った。

「別個体って作るのに時間とエネルギーいるんじゃなかったの……?」
「勿論いるさ。それを確認する意味でも分身を……じゃない、別個体を作ってたんだからね」
「うぇぇえええコゼツ…!ありがとう!!」
「ちなみにあと2体いるけどそいつらは普段は地面に潜ませてるよ。いざってときにすぐ必要になると思って」

 待って待って、こいつ彼氏力高くね???
 驚愕の気が利く男っぷりに思わず顔が引きつった。うおおおコゼツさん頼りになるぜ…。

「よし、じゃあそのコゼツたちも合わせて分かりやすいように名前をつけよう」
「名前?!ボクに?!」
「まず本体を警戒して里を循環してるコゼツがアルファ、家の周りを警戒してるのがベータ、わたしの周囲に潜んでるやつがガンマ、それと待機中のがオメガ1とオメガ2ね」
「「「名前っていうの?それ」」」
「おお〜〜〜いいねー!」

 何か言いたげな別個体'sとは正反対の嬉しそうな反応をするコゼツ。でもしょうがなくない?AとかBにすると雷影と被るんだもん。
 その後名前のことでわちゃわちゃと文句を言われたのち、それぞれ平常業務に戻って貰った。お疲れ様です、時給ゼロ円の奴隷企業でごめんね。

「で、ボク一つ確認したいことがあるんだけどー…」
「何?」
「ちょっと入っていい?」
「うんいいよ」

 入る、というのはコゼツとわたしの皮膚を接触させることでわたしの身体の中に入ることである。”入る”ときわたしはいつも背中を向け、うなじにコゼツのおでこをくっつけそこからズルズルと中に入る。そしていつも服だけがその場に残る。

ーー服が残るのがなぁ。
ーー別にパンツとか靴下とか拾わせてないじゃん!
ーーそうだけど!これから咄嗟の何かがあったときに現場に下着まるごと服が残ってたらウケるよ。

 わたしの中に入ったコゼツとは内部で会話ができる。ただ、わたしの思考を読んだり、心を感じたりということはできない。とにかくわたしという殻の中にコゼツが入るという感じだ。何故そんな芸当ができるのかは未だ不明である。大蛇丸が来い……。

ーーそれで、今はサエが主導権を握ってるでしょ?それをボクにしてみてほしいんだけど…。
ーーエッ主導権?!

 そんなのあんの?!

ーーたぶんあるんだよ。ボクが主導権を握った場合、たぶんサエはボクと同じように地面や建物や木の中に潜れる。
ーーイヤイヤイヤ流石にそれはないっしょ。ムリがあるよ、だってわたしは普通の人間なんだよ?
ーーそうかなぁ。できる気がするんだけどなぁ。
ーーだってそしたら、わたしが土の中で息できることになるじゃん、その理論とかどう説明すんの?わたしもコゼツも人間だけど、同時にあくまで別の生物なんだよ!

 地面にただ突っ立ったまま、その後も内部会話であーでもないこーでもないと話し合っていた。しかしどんなに頑張っても、わたしがコゼツのように地面の中に潜り込んだり溶け込む気配はなく、その実験は今日はお開きとなった。
 しぶしぶわたしの中から出てきたコゼツは不満げだ。ボク凄いこと思いついたと思ったのになー…と少し拗ねている。大丈夫だよお前は十分役に立ってるよ。っていうか立つはずだよ。

「じゃあ次はわたしね。確認したいことは2つ。一つは、コゼツの移動速度は潜伏中の物質によって変化するのかということ、もう一つは、コゼツの別個体を殺すと死体はどうなるかってこと」
「早速オメガ1の出番だぁ!」
「呼ばれたと思ったらボク死ぬのはや………」

 まず一つ目について。
 コゼツは土や木や壁などどこからでも顔を出している描写が原作で確認されているが、その居心地に差はあるのだろうか?
 以前提示した、コゼツの生命活動を維持している仕組みは植物、そしてコゼツのチャクラ機構は植物、が正しければ、同じ植物由来の物質内の方がコンクリートや岩などの中より抵抗が少ないのではないかと思う。

「じゃあ巻き尺で距離図るから、ちょっと待ってー」

 まずは土だ。わたしは100メートルを図って、スタートの位置とゴールの位置にクナイを刺した。

「ヨーイどんで地面に潜って、向こうについてクナイにぶつかったら頭出してね」
「ボクの頭が傷だらけになっちゃうよ〜…」
「あーじゃあ、クナイの右側とかをこう避ける感じで」

 そしてわたしはその測定を5回行い、岩場と大木でも同じようにして測定した。
 測定結果を平均したところ、興味深い事実が明らかになる。なんとコゼツは大木の中を移動する速さが最も早く、次点の土の中のおよそ10倍だったのだ。次いで土の中、そして岩場と、その2つはあまり差がなかった。

「おおおおお……これはもっと条件を変えて調べる必要があるなー」
「今のでなんかわかったの?」

 ノートに記述した数値を見ながらうんうん唸っているわたしを、コゼツは地面に横たわり野球中継をみるオヤジのような姿勢で見上げている。

「じゃあ次はオメガ1に死んでもらいます」
「さよなら〜〜〜!ボク、最後に名前を貰えてよかった…ウッウッ……!」
「うわ、心苦しい……」

 正直、コゼツの別個体はそれぞれ命が宿ったいわば未完成なクローンであることが分かっているので、殺すのはかなり心に負担がかかる。確実に人倫を踏み外している音がするわけだが……背に腹は代えられぬ。わたしは今まで待機してくれていたオメガ1に、成仏しますようにと手を合わせ、その首をサクッと跳ねた。

「………ふむ」

 跳ねた後のコゼツは死体のままだ。
 わたしは顎に手を当てて考える。原作で、白ゼツ軍団が沢山戦場に出てきたと思うんだけど、あいつらって死ぬと木になったよね?なんでオメガ1は木にならないんだ?
 原作で白ゼツ軍団が木になるのは柱間細胞の影響で間違いない。このコゼツも、もとは柱間細胞と過去の無限月詠の犠牲者たちののこりかすなので、死ねばきっと木になるだろうと思っていたのだが、どういうことだろう。そもそも原作の白ゼツ軍団は生前特に木遁忍術を遣えたわけでもないのに、死ぬと木になるってのはどういう原理だ?

「記憶があやふやだし…まだ謎が多いな。でもありがとう、コゼツ。えっと尊い犠牲になってくれたオメガ1のお墓作ろうか…」
「えっやめてよ、ボクが死んだみたいじゃん」
「でもあれも一つの命じゃん……?」
「うーんでもさぁ、正直ボクらと人間だと、どこから命でどこからが命じゃないかみたいな話になるし〜〜〜」
「あーやめようその辺は面倒くさいから」

 とりあえず、わたしがお墓を作りたいと思ってるんだから作ればいーやと思い、そこに小さく石を積んだ。
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