6歳 / 姉がうちはに嫁ぐらしいB
副題:ぞーうさんぞーうさんおーはなが長いかな?

「ボクを着れば、多少ズタボロになっても戦い続けることができるよ」

――アカデミーの屋上で泣いた日、喉元までせり上がって爆発しそうだった想いをなんとか言葉にしたわたしに、コゼツはそう言った。

「……コゼツってさぁ、正直、お姉ちゃんのことそんなに大事じゃないよね?なんでわたしに力を貸すの?」

 今までも何度か聞いたことのある質問を、もう一度する。
 コゼツは得意のにたにたした顔で、つぶらな目をきょとんと見開いたあの顔で、大げさに腕を広げて見せる。

「酷いなぁ〜!ボクだってユズリハのこと結構好きだよ?いい子だよね」
――”トビはいい子だ”
 原作の黒ゼツの言葉が脳裏をよぎる。

「でもサエが正解」
「……そう」
「で、どうすんの?こんな質問意味ないよね。ボクの諜報能力の高さはサエがよく分かってるでしょう?」
「うん」
「ボクを仲間に入れるしかないよね」
「……うーん、そうです」

 コゼツの飄々とした含み笑いが耳孔を犯す。わたしは目を瞑って、悩む必要も、その余地もないのに、斜め下を向いたまま言葉を溜めた。

「心配しないで。ボクは絶対にサエを裏切らない」
「……コゼツ、あんたって実は今まで一回も、」
「ボクの主はもう、サエだけだよ」
「………」

――嘘をついたことがない……?
 唐突に気づいてしまった事実を言い当てる間もなく、コゼツが言葉を続けたので、わたしはそれを飲み込むしかなかった。そしてわたしはコゼツと運命共同体の契を交わした。

―――

 さて、わたしが原作介入すると決意し、コゼツがそれに同意したとき、一つ全ての行動における大事な前提条件を掲げた。
『わたしの記憶は絶対死守』
 わたしの頭の中には、こっちの世界のこと以外にもあちらの世界で起こった全ての記憶が刻まれている。ナルト世界では記憶をかなり正確に読み取る忍術があることは分かっているので、この頭の中が見られたら一体どんな事態になってしまうのか想像もしたくない。とにかく良いことは起きない、それだけは確かだ。
 だから、まずはコゼツとの作戦会議の内容を絶対に誰にも悟られてはならない。それが親であってもだ。里の至る所に”根”が張り巡らされていて、彼らはその辺の一般人にも平気で成り済ますので(とんだ監視社会である)、両親や姉が”根”のものである可能性も十分考えている。そのうえで姉を好きで、姉を守りたいと思っているのだ。
 コゼツにそのことを伝えると、彼は了承した。そして、作戦会議をするときは基本この地下室で行い、話をする前に土の中に入って貰って周囲に人がいないか常にチェックすることと、議事録兼資料集のノートは当分わたしが持ち歩くことが決定した。

「第2回作戦会議終了〜〜〜!」
「お疲れさまでしたー」

 地下室を出て家に戻ると時刻は夜九時を回っていた。お父さんが入る前にお風呂に入っちゃいなさい、と母に言われて二人で浴室に向かう。

「…………ん〜」

 すぽぽぽぽーん!と服を脱ぎ捨てるコゼツを前に、脱衣所で動きを止める。つられてコゼツも動きを止めた。

「どうした?」
「コゼツって……もう完全体だよね」

 人間の男として。

「ハ?」
「ふふふ、今日からわたしとはお風呂別々ね」
「えっ?!」

 スタスタと脱衣所から出てリビングに向かうと、慌てた様子でコゼツが着いてくる。

「スッポンポンで着いてくんなよ!」
「なんで?!なんでお風呂べっこになったの?!ねえなんで?!」
「わたしは女でお前が男だからだよ!」
「そんなの最初からじゃん!」
「違う!いい?わかりやすく教えてあげる」

 わたしはくるりと振り向き、コゼツの股間でぷらんぷらんしている可愛い象さんを指さしながら言い放った。男の子のアレやソレなんて、小さいころから従兄弟の兄のを見てきたし、もっと言えば引っ張ってきたし、前の世界でも彼氏はいたから全然平気である。

「あのね、コゼツは今まで蜂だったの。わたしはめしべね。わたしの花のところに、オスのコゼツが蜜を取りに来ても今までは大丈夫だったの。でも今は、コゼツがおしべになっちゃったの。わかる?」
「…………!」
「雄バチとめしべは交尾できないけど、おしべとめしべはくっつくと実をつけちゃうの。それはまずいの色々と」

 まあまだ身体的に無理だけど。

「そういうこと」
「…………………!」

 コゼツも持っている知識がどのあたりまであるのか分からなかったが、例え理解してもやだやだ五月蠅く喚くだろうな〜と思っていた。しかし予想外にも、彼は静かにその衝撃を受け止めていた。そして、わたしが、じゃ、後で入るわといって彼に背を向けても、そのまま口を半開きにしたままその場に突っ立っていて、母に”服を脱いだらすぐに入る!”と叱咤を飛ばされるまでそこにいたようだった。

―――

一つ、己を知る。
一つ、敵を知る。
一つ、身体をつくる。

 この三本柱を作るにあたって、わたしとコゼツはアカデミーの授業を参考にした。
『任務の途中で未知の敵に出会ったとする。みんなは絶対にその敵をやり過ごさないと、任務を遂行できない。さあ、みんなどうするかな?』
 先生のその言葉に、色々な子供がそえれぞれ個性的な答えを出した。
 逃げる、戦う、負けたふりをして騙す、後からくる人に任務を託す、などなど。勝てそうだったら戦うし、負けそうだったら里に戻って増援を頼む、なんて言う子もいた。シカマルみ溢れる回答だ。

『よーし、みんないい感じだね、沢山意見を出してもらった。さて肝心の答えだが―――じゃかじゃかじゃかじゃん!どれもすべて正解だ!』
『未知の敵と戦うときに大事なことは2つ!』
『一、その敵について分かっている情報を整理すること』
『一、自分たちの武器を確認すること』

 6歳の子どもの授業だけあって、分かりやすくシンプルな教えだ、と思った。先生の教えを毎回一生懸命板書しているコゼツが、そのよたよたした文字を見せつけて”これだよ”と言った。確かに、これだ。
 わたしが姉を救うために戦うべき敵は誰なのか?姉をうちはに引き込むヤクミか、うちは一族を滅びの道に扇動する若い衆か、姉を殺すイタチか、遠まわしにそれを命じるダンゾウか、ダンゾウを諫めることができなかったヒルゼンか、それとももっと大きい何か――この里のシステムそのものなのか?

――”イタチは犠牲になったのだ……里の起こりから続く因縁、その犠牲にな…”

 冗談じゃないと思った。姉が犠牲になるなんて冗談じゃない。
 敵を知ること、そして自分を知ること。
 わたしはこの大きな敵と戦うのに必要な武器を持っているか?今持っているものは何で、身につけなければならないものは何なのか?コゼツが持つ諜報能力を正確に把握しているか?その特殊武器を用いて、一体何ができるのか?
 それらを確認すること。1年目のアカデミーが終わるまで4ヶ月、わたしとコゼツは少しずつその作業を消化していった。 

 また、三本柱の一つ、身体を作るという項目は、今後わたしとコゼツが本気で一流の忍になると決めたからこそ作ったものである。どんなアスリートと言えどまずは身体を作ること。健全な精神は健全な肉体にこそ宿る、っていうじゃん?強い忍は強い肉体を持っているってことで、それ真正面から向き合うために決めた大事な基準だ。
 わたしは食事内容から身体休めの日まで計算して、アカデミーや木の葉図書館の本なんかも参考に、そこそこ一定のリズムで筋トレと走り込みのメニューを作った。6歳の冬から始めたそれは、最初はすっごくキツくて、ちょっとやりすぎたかななんて思って数回の調整を経たあと、毎日続けた。
 しかしこんな幼い頃から筋トレだの走り込みだのに意味があるのか不明だ。むしろやりすぎると身体を壊すのでは?なんて不安もあった。だが、チャクラのお陰なのかこの世界設定のお陰なのか、特に変に痛んだり不調になったりすることなく、わたしのメニューは的確な荷重を的確な位置に与えているらしく、日に日に身体が軽く、しなやかになっていった。


 そして3月、卒業式の日。
 上半期で全ての単位を1位で取得したイタチが、(例外を除き)歴代最年少卒業生かつ主席として総代を務めて、アカデミーを卒業した。
 物語は滞りなく進んでいる。うちは一族滅亡の夜まであと7年、原作開始のゼロ地点まであと11年……それを確認しながら、賑やかな子供らの騒音を背に、まだ花が開花する前の桜並木の下を歩いた。
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