6歳 / 忍術アカデミーA
副題:忍は腋毛を剃ってるの?それとも摩擦で消滅するの??

 ナルトの世界にミュゼがねえ!!!
 衝撃の事実に気付いてしまったわたしは、手をすり抜けた手裏剣があらぬ方向へ飛んでいくのも無視してただ固まっていた。土曜日の午後一時、第一演習場で手裏剣術の自主練をしていた時のことだ。
 ……無駄毛ってどうやって剃るの?
 カミソリはある。でも背中とかハイジニーナとか届かないとこはどーすんの???女子って絶対色任務あるでしょ皆どうしてんの??てかそもそも、ナルトの世界の男子ってみんなわきの下つるっつるなんだけど、どうなってんの?!

「無駄毛が生えない世界設定…………?」

 ちら、と自分の二の腕を見る。うん、紛うことなき6歳児の二の腕!綺麗なものだ。
 そして次に、隣で、投げた手裏剣が一周回って自分に突き刺さっているコゼツを見る。

「こいつは……植物だから無駄毛じゃなくトライコームだな」
「痛ったい」

 コゼツは傷ついても血が出ない。そして、少し経つと自動で修復する身体だ。
 しかしそれも最近変わってきて、自然治癒力が衰えてきたようだとこの前報告してきた。多分それは衰えたのではなく、コゼツの身体が作り替えられたため、修復するのに必要なエネルギーが増えたんだろうと考えている。コゼツがうんこをする記念すべき日はそう遠くない。
 ムダ毛のことを考えながらでは集中できないなあ。当たり前だけど……でも地味に気になる!イタチのわきの下に毛の剃り残しとかあったらどうする??爆笑じゃない???イヤ噴飯ものだわ、是非その青い剃り痕見させてもらいたい。
 そんなことを考えながら、わたしはずっと向こうの木に刺さってしまった手裏剣を取りに行き、その帰りにコゼツが投げたものも回収して戻る。二人で再び投擲開始。
 アカデミーに入ってから4か月、家の分担されている家事仕事以外の時間をわたしたちは毎日練習に費やしていた。今7月だから、きっと8月になれば上半期の成績表が渡される。イタチは一年でアカデミーを卒業していたのできっと上半期の成績も既にトップ近いんだろう。全く信じられない才能だ。

「ボク手裏剣術練習する意味あるのかなあ」
「あーね。正直コゼツは特殊体質だし、もっと自分に合った技磨いたほうがいいよねー」
「でもそうするとさ?あっイッテ、アカデミー卒業できないじゃん」
「それな」
「それにサエと一緒に授業受けられない」
「わたしの方が、先に卒業しちゃったりして!ッシャ命中」
「うわぁぁぁぁ〜〜やだなぁぁ〜」

 二枚の手裏剣をぶつけて方向を変えて、別々の的に命中させる練習が今のわたしの課題だった。それがやっと、やっと初めて成功した!うおおおお努力の成果がでたぁぁぁあ!
 喜び勇んで手裏剣を回収しに行く。コゼツは一旦投擲をやめ、わたしの的を見て口をむむむと噤んで悔しそうだ。もう十分分かってるけど弟属性ありすぎ……あざとい…。 


 アカデミーの教室は全部で6つあって、それぞれに一人ずつ先生がつくところは前の世界の小中学校と同じだ。しかしクラス分けは同い年に入学した生徒のくくりではなく、年齢ごとに別れている。
 つまり、わたしやイタチは今6歳で同時に入学して同じクラスだが、もっと前に入学していて今6歳の子どもも同じクラスで授業を受ける。だから、誰がいつ入学した生徒なのか、在学年数が多い生徒ほど細かく把握している。イタチは入学当初から抜きんでた才能を発揮し、授業でも常に優秀な成績を収めていたので、多くの子供から嫉妬されていた。また、彼は休み時間のボール遊びや授業中の無駄話にも参加しないので、クラスの中で浮きまくっていたし、必然的に友達もいなかった。

「サエちゃん遊ぼう!」
「この前教えてもらったヤツやろうぜ!鬼ごっこの進化版のやつ!」
「氷鬼?」
「そうそれ!」

 昼休み、自主練に向かうわたしはクラスの子供らに遊びに誘われて、庭に出ていた。アカデミーには授業によって使う敷地が区切られているが、庭は忍具の使用禁止の正真正銘遊びのためだけに使われるゾーンだ。

「じゃんけんして鬼決めようぜ!」
「サエちゃん、コゼツくんまた呼び出されてるの?」

 ツインテールが似合うロリ(名前を忘れた。初音ミクでいいか)が心配そうな顔で気遣ってくれた。この子は他の子どもよりも将来有望そうなパーツを備えており、特に美人さんだ。だがあまり見せびらかすとモブおじさんに狙われるから気をつけてほしい。

「うん、なんか10歳くらいの男子に喧嘩売られてどっか行ってる。でも大丈夫だよ」
「そうかな?先生に言ったほうがよくない?」

 それがねぇ〜〜木の葉の大人は基本子供のいじめに仲裁しないから言っても意味ないんだよね!なんせナルトをあんだけハブにしてた民度の低い方々だからね!!

「だいじょーぶだいじょーぶ!コゼツは強いから!」

 わたしはニッと笑って初音ミク(仮)の手を引き、他の大勢の子供らが待つ庭に向かった。
 庭には氷鬼を待機している子らと、1人で弁当を食べていたのか、今食べ終わったのか包みをまとめているイタチがいた。どうやらそのまま練習に行くらしい。”アイツまた練習かよ、もうあんだけ上手いんだからよくね?”誰かが囁く。

「……イタチー」

 呼びかけると、後ろで束ねた長髪を揺らして彼の黒い眼差しがわたしを見た。

「一緒に氷鬼やらない?」
「…いい」

 玉砕。イタチはきっぱりと我々の視線を振り切って、一人演習場に向かう。

「あいつほんとツレねーよな」
「フン、エリートのうちは様だしいいんじゃね?どうせ警務部隊に入るんだろ」
「まっ、いざってときに役に立たない警務部隊様だけどな!」

 男子たちが調子に乗って嘲笑う。
 全く、6歳にして意気揚々と他人をコケおろし、バカにする習慣を覚えるなんて現代日本でもなかなかないことだ。わたしはため息をついて、ホラ鬼きめよ〜と声をかけ話題を変える。
 子どもというのは時として残酷だが、それも最初からではない。木の葉の子供たちの残酷さは、子供特有の無知からくるものとは違う後天的なものだ。『いざってときに役に立たない警務部隊』それを日ごろ呟き、子供の前で不満をあらわにしているのは大人だろう。そういうものが刷り込まれて、その子どもが大人になってまた堂々とそれを言う。そこには既に水路が出来ているから、その時代に合わせた愚かな伝統が流れていく。

「何?鬼ごっこしてんの?」

 ”呼び出し”が終わったコゼツが、おでこを腫らせて建物の陰から姿を現した。同じクラスの中にもコゼツのことを気持ち悪いだのしょぼいだの言う奴はいるが、もっと年上の子供にしばしば喧嘩を売られ、やりあっているのを見て溜飲が下がっているらしい。つまり、アイツは気に入らないが、気に入らないなりの仕打ちをされそれを受け止めているので、許されているってわけだ。
 イタチはそうじゃない。
 イタチは恐れられているから誰にも何もされないし、イタチ自身も相手をしない。彼は既に見ているところが違う。誰も傷つかない、誰も死なないような世界を作りたい、そういう忍になりたいという理想をこのころから掲げている。(とイタチ真伝には書いてあったが果たして)
 だから浮いている。そして浮いたまま卒業する。


 8月末に上半期の成績表が配られた。そしてなんとイタチはその時点で卒業試験を受けてパスしていた。クッソワロタwwwwwお前7歳で卒業したんじゃねーのかよww4か月ってお前wwwww
 わたしは体術と幻術以外は上位2割に入っていて、思ったよりいい感じだ。特に知識系は1位のものすらあった。まあな!!他はともあれ知識を詰め込むことにおいてはこっちの連中に引けは取らねぇぜ…!センター試験で鍛えられた短期記憶能力を舐めるな。
――しかし、体術がヤバイ。28人中24位。

「ふぇぇ……」
「サエ、すごいじゃない!こんなに成績がいいなんてびっくり…!」

 成績表を見た姉が顔を綻ばせる。最近本格的に化粧もうまくなって、まるで可憐なオンシジウムのようだ…。恋か、恋なのか……!妹ちゃん寂しいよ。でも幸せそうで嬉しいよ。

「コゼツも凄いぞ、お前たち一生懸命頑張ってるんだなあ」

 まるで我が子のことであるかのように喜び、特に体術が凄い、とほめまくりながら父がコゼツの頭を撫でる。コゼツはあまり褒められることに慣れてないし、まず感情をまっすぐ表現することに慣れていないから、真顔と困り顔をどうにか笑みへと持って行こうとすごく奇妙な顔になっている。
 母は成績表の良しあしよりもまず、わたしたちが怪我ばかりして帰ってくることにおかんむりであまり口を出してこなかった。手裏剣術の練習で手はすっかり切り傷まみれ、常に包帯で巻かれていてその包帯すら血でにじんでいる。脚や腕には忍組み手でできた青や黄色や赤紫色のあざが点々としており、起爆札の爆風に巻き込まれた火傷や裂傷もかなりあった。

 正直、アカデミーだけでも予想以上にかなり厳しい。
 痛い。とにかく痛くて、怖い。
 忍の本当の大変さを、わたしはやっと実感し始めたのだった。
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