5歳 ユズリハA
 @防空壕づくり←これはうまくいきそうとして、次の年表が厄介だった。なんせ頼れるものは記憶しかない。
 皆さんWikipediaにお金を払ったことはありますか?たまーに現れる黄色いポップに書かれた、”我々はボランティアで活動しています。●●人が○○円ずつ払えば、〜〜分で募金活動は終了します。”みたいなやつ。わたしは今まで何度も何度も見てきたが、その度スルーしてきた。
 在学中クソほど書いたレポートの考察を書く際の足掛かりに、また嵌ったアニメのキャラクターの生年月日や好きな食べ物を覚えるときに、などなど日常生活で何か困ったことがあれば即ウィキ先輩。勿論書いてあることはその後別のソースで調べたが、正しいかどうかそこまで重要でない知識を求めるときは常にウィキ先輩だった。ああ、沢山助けてもらったなあ。それなのにわたしはなんて冷たいことを。
 つまり、何かあるたびにGoogle先生やWikipedia先輩や知恵袋おばーちゃんに頼っていたせいで、まるで知識が残ってなかった。すっからかんだ。

「お金払ってればここにパソコンが現れたのかなあ」
「ぱそこんてなに?」
「え?てか九尾事件の時のオビトって14歳か15歳だ!すっご……」
「おびとってなに!?」

 コゼツがキレ気味だ。
 さて、つい先日三代目火影猿飛ヒルゼンが引退し、四代目火影波風ミナトが就任した。第二次忍界大戦から続く泥沼化した第三次忍界大戦が漸くの終結を迎えたことにより、或いは疲弊した里を沸かせるための契機の一つとするべく里が打ち出したのが新たな里長の誕生だ。父が読んでいる新聞には三代目降影インタビューとして「ゆっくり余生を過ごさせてもらおうかの」との言葉が載っていた。
 だがヒルゼンはすぐその座に戻ることになる。勿論そんな不穏な未来が来ることなど露知らず、四代目火影就任のニュースは多数の戦死者をだした戦争による暗いムードを明るく沸かせている。

 えーと、ミナトの火影就任期間は多分めっちゃ短い。1年くらいでもおかしくない……じゃあ神無毘橋の戦いって第三次忍界大戦の終盤ごろの出来事なのかな?カカシが写輪眼を手にしてリンを殺してそれを見たオビトが九尾事件を起こすわけだから……ってかオビトはなんで九尾事件起こしたんだっけ?クシナさんの出産で九尾の封印が解けることを知っていたから、ということは九尾を取るつもりだったんだっけ。それともマダラみたいにただ九尾を暴れさせて木の葉を襲うつもりだったんだっけ。
 忘れちゃったけど、とにかく、九尾事件は今から一年以内に起こる。



 その後、四代目火影就任式を遠目から眺めたり、エロ仙人と綱手姫らしき人影を見かけたり、第三次忍界大戦慰霊式典を遠目から眺めたりした。街中で原作キャラと思しき人たちを見かけたら今度こそ話しかけようと思ったけど案外木の葉は広いらしく、イタチのように話しかけられるようなタイミングは巡ってこなかった。特筆すべきことは起きず月日は過ぎて行った。
 元来引きこもり体質なので、やることと言えば親に内緒で防空壕作りを進めながら原作知識の整理にいそしむくらいだ。良く晴れた昼のこと、お昼ご飯を食べた後久しぶりに集めた情報を整理することにした。
 ユキは夕飯の仕込みをしている。わたしはテーブルにノートを開いた。コゼツは家の床下から直接居間に来れるので、親の目を縫っていったり来たりした。意外にリビングは汚れなかったけど、ちょっと間違えて土まみれになった日にはユキがコゼツを丸洗いしそうだ。コゼツを丸洗いされることだけは避けなければならない、とわたしは思っていた。だってあいつまだウンチ出ないんだもん。人間じゃないってバレちゃう。

「ボクも忍者になってみたいなぁ」

 穴掘り休憩に上に上がってきたコゼツがなんてことないように言った。庭で手を洗ってから来たみたいだけど、やっぱりどこそこ土で汚れている。土臭い。

「えーっ、意外!なんで?」
「戦えるようになりたいんだよ。サエはわかんないかもしれないけどボクら弱いから、ちょっとでも強いやつ相手にするとすぐ負けちゃうんだ」
「そうだね〜」
「サエは興味ないの?忍者」
「うーん……猛者が多すぎてやる気が起きないし…でも興味がないわけじゃないかな。時空間忍術を調べたい」

 わたしはユキが出してくれたおせんべいをつまんだ。元の世界に帰れる方法って時空間忍術くらいしか思いつかない。

「コゼツ6歳になったらアカデミー入るの?」
「でも、ボクじゃムリかも。そもそも木ノ葉出身じゃないし」
「コゼツの出生届ってどうなってんだろうね」
「出生届ってなに?」
「生まれた報告」
「この前スグリが出しに行ってたよ」
「そうなんだ」

 コゼツもおせんべいをつまんだ。コゼツがものを食べるときってかわいい。綺麗な白い乳歯が生えそろっていて、なんだかかわいい。

「あ、ユズリハって最近彼氏できたよね」
「え?!?!?!なにそれなにそれ!初耳〜〜〜!」」

 ユズリハに彼氏が?!
 気になる情報を耳に入れつつ、お茶を飲んで、ノートを開いた。

 まず、うちはオビトの名前が慰霊碑に刻まれていたこと、そしてこの前の第三次忍界大戦慰霊式典で殉職者の氏名年齢がお坊さんにより読み上げられたことから彼の年齢が判明した。カカシは多分同い年だと思うけど、朧気な記憶から一歳違いだったような気もする。
 次に伝説の三忍――自来也たちの年齢だが、これは有名人なのでどこか新聞にでも載っているだろうとタカをくくっていたのだが、どっこい正確なものはどこにも載っていなかった。だがよく考えれば今までずっと戦争中だったのだ、自里の有名な忍について個人情報をそうホイホイ表に出すはずがない。ただ、第二次忍界大戦での戦死者については一部情報統制が解かれており、墓石に綱手の婚約者である加藤ダンの享年が記されていた。
 加藤ダンが綱手とどの程度年齢差があるのかはわからないが、まあ同じと仮定しよう。そうすると九尾事件当時の年齢は、

九尾事件当日(ナルトの誕生日)
 うずまきナルト(0歳)
 =うちはイタチ(5歳)
 =はたけカカシ(14?15?歳)
 =うちはオビト(15歳)
 =長門(20歳以上?)
 =三忍(38歳?)
 =猿飛ヒルゼン(56歳?)
 =うちはマダラ(生きていれば80歳越え)

 5歳児による汗のにじむ地道な調査の結果がこちらになります。
 マダラの墓はうちは地区にあるし入れないだろうなと思い込んでいたけど、フツーに入れた。原作で、うちは地区といえばあのやたら家紋を強調した塀で囲われた閉鎖空間のイメージが強かったけど、まだ移転前のうちは地区は里の中心部にあり、塀で囲まれてもいなかったし墓地にも簡単に入れた。うちはの墓石は皆一様に団扇のマークが彫り込まれていたのですぐに見分けがついた。彼らの墓にはまだ新しい花が供えられていて、缶ビールとかエイヒレのようなツマミから、子ども用と思われるぺろぺろキャンディーまでが一緒に墓前に置かれていた。そこに代わる代わる誰かがお参りに来ていて、墓石の前で涙を流す人も見えた。
 九尾事件の前だからだろうけど、うちは一族全然疎まれている感じがしない。……やっぱりダンゾウのせいじゃん??あの事件。だいたいダンゾウのせい、なんて言われちゃうのも仕方ないと思ったのは内緒だ。
 あと、慰霊碑の周りをうろうろしていればカカシを捕まえらるかな〜なんて淡い期待を抱いていたが影も形もなかった。リンちゃん事件の前後で暗部に入ったと思われるので、そうそう人前に姿は表せないのだろう。仮に墓参りに来ていたとしても、わたしごとき一般人には気取られたりしないんだろう。だって暗部ぞ?



 さらに月日が経った。
 ユズリハはユキと喧嘩することが増えていった。わたしとコゼツはすくすく成長した。わたしは引き続きコゼツを使って実験して、それをひたすらノートにまとめていった。また、ユキが仕事の日に木ノ葉中央図書館に連れて行って貰えるようになった。木ノ葉中央図書館はユキの仕事場が近く、またユキの実家である東雲豆腐店も近い。ユキはお弁当をつくってくれて、仕事終わりに迎えに来て一緒に帰った。
 木ノ葉中央図書館には、前世のような統一された化学や物理の本はなかったものの、木ノ葉の里独自の視点で研究された成果が残されていた。わたしは懐かしくて懐かしくて、それらを片っ端から借りた。帰りたいという気持ちは日に日に強くなった。

「サエは賢いのねぇ」

 ユキはわたしがはしゃいでいるのを察したのだろう、寂しそうにそう言った。

 コゼツは図書館より大工仕事に興味があるようで、わたしと一緒に来ることはあまりなかった。むしろスグリの仲間と一緒に家に帰ってきたりした。コゼツは「いたずら小僧」とか「緑の」とか呼ばれていて、まんざらでもなさそうだった。

「あ、おとうさん帰ってきた。ユズ、お風呂湧いてる?」
「湧いてるよ!」
「ただいま」
「ただいま〜!」

 コゼツは土木作業員のように白いタオルを首にかけて、足をふいて、汚い服は玄関に上がる前に袋の中に入れてちゃんと靴を揃えて廊下にあがった。スグリに「おまえは身軽だなあ」と言われて嬉しそうだ。コゼツの短い髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜるスグリも、嬉しそう。

「穴、結構できてきたけど後で見に来る?」

 廊下ですれ違いながらコゼツが耳打ちした。なんだろう、分かってはいたけど、コゼツくんどんどん人間臭くなってくな。白いタオルめっちゃ似合ってる。そこに麦わら帽子を被れば、もうどこからどう見ても可愛い幼稚園児だ。
 最初に会ったときのコゼツからは土の匂いがした。雨の日の匂い。埃と泥水と、ちょっとのカビと腐葉土と、青臭い植物の匂い。でも今はほんのり汗の匂いがする。しょっぱいような甘いような幼児の柔らかい匂いだ。ユキのミルクで育っていないけど、まるでユズリハやわたしのような乳臭い匂い。そして土。
 わたしは「おしごとおつかれさま」と言って冷蔵庫に入ってる麦茶をグラスに入れてテーブルに運んだ。コゼツのコップは子ども用の丈が小さいやつだけど、スグリのコップは大人用で細長い。お盆の上で凄く揺れる。

「うわ、危ない!零れるよ!」
「危なくない!何歳だと思ってんだ」
「5歳」
「ははは、サエはしっかりしてるからなあ」

 コゼツは「しっかりしてないよ!スグリはすぐサエに騙されてるんだから」と文句を言っている。普段はお風呂に先に入らせるけど、この日は夕飯がいい感じに出来上がっていたので後回しだ。コゼツは席について、大きいグラスを両手で持って、ごくごく喉を鳴らしながら飲み始めた。
 のどぼとけのない真っ白い首。いい飲みっぷりだ。実はコゼツ、あれからわたしの中に入らなくても全然バテなくなった。こいつ、これからどうなっていくんだろう。正直今一番気になってる。だって今って多分原作通り進んでるから、他のイベントは予想通り進むんだろうけどこいつにかけてはまじで謎だもん。

「美味しい?」

 コゼツは飲みながらちらっとこちらを見て頷いた。ほんとに元気になったなあ、コゼツ。「げほっけほっ…麦茶がどっかに入った…っ」――気管に入ったのかむせ始めた。勢いよく飲むからだよ。

「そういえばまだうんこでないの?」
「そうなんだよ〜!ボクとしてはそろそろかなって思うんだけど」
「便秘だね……」
「え、だから最近お腹痛いのかな……」

 コゼツの身体の中の老廃物はどうなっているのだろう。ユキが「子どももたまに便秘することがあるの、大丈夫」と言った。そうじゃない。
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