引き上げられたなまえを見た男達は、文字通り目玉がどーんと飛び出るぐらい驚いた。

「さ、魚ーー!?」

船内にどよめきがわき起こる。
なまえの下半身が魚のようになっていたからである。
魅惑的な胸を包み込むビキニが眩しい上半身は人間のまま。下半身だけが鱗に覆われたその姿はまさしく人魚だ。

操舵輪を握っていたジンベエも驚いた様子でなまえを見ていた。

「あの娘は人魚族だったのか!」

「いいや」

砲台の一つに座って葉巻をふかしていたクロコダイルが即座に否定する。

「あいつは人工的に作られた人魚タイプの“掛け合わせ”だ。失敗作として廃棄されていたのをおれが拾った」

「…実験体だったということか?」

「まァ、そうだな」

ジンベエは痛ましそうに顔を歪めてクロコダイルからなまえへと視線を移した。
そんな暗い過去などまったく感じさせない、明るく優しい娘だ。

己のみを信じるエゴイストで、使えない人間はすぐ様切り捨てる冷酷なこの男が、唯一側に置く女。
その彼女は、血走った目をした野獣達に囲まれ些か困ったような顔をしていた。

「あ…あの…」

「スゲー!人魚なんて初めて見たぜ!!」

「ゲヘヘヘへ…人魚ちゅわあ〜ん」

「きゃー!いやーーーっ!!」

目をハートマークにした囚人の一人が、舌を出していやらしく笑いながら抱きついてこようとするのを、なまえは尾びれでベシベシ叩いて往復ビンタをくらわせた。

床に倒れ伏したその男の代わりに別の男が飛びかかろうとしたが、今度は金属製のフックに後ろから首根っこを引っかけられ、背後へと放り投げられる。
それと同時になまえの顔に何かがバフッとぶつけられた。

「タオル…?」

「いつまで遊んでやがる」

「ひっ!ク、クロコダイル…!!」

青筋を浮かべたクロコダイルを見た途端、なまえの周りに集まっていた男達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

タオルと着替えを胸に抱え持ったなまえの頭の上から、ぶわっと大きな分厚い布が掛けられる。
今の今までクロコダイルが着ていたコートだ。

「さっさと着ろ」

「は、はい」

なまえはコートを目隠し代わりに服を身につけ始めた。
肌も露なうら若き乙女が男物のコートの下でもぞもぞと動いている様は、見えないからこそかえって想像を掻き立てられる非常に淫靡な光景だった。

悠然と腕を組んでなまえを見下ろしているクロコダイルにジンベエが苦笑を向ける。

「長い間囚人生活を送ってきた連中には少々刺激が強すぎたようだな」

「フン」

ジンベエは彼の一連の行為が独占欲からくるものだと見抜いていた。
この男にもそんな一面があったのかと感心さえしていた。


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