実験体として人工的に生み出された、魚と人間の掛け合わせ──“人魚”タイプのキメラであるなまえにとって、海の中を進むのは容易なことだった。
問題は外敵だけである。

何度も海王類に食われかけ、時には明らかに食べるのが目的とは思えない、生殖器を剥き出しにして目を血走らせた魚類に執拗に追いかけ回されながらも、何とか命からがら侵入した、インペルダウン。
脱獄囚に教えて貰った秘密の通路を通って辿り着いた先は、イワンコフが支配するニューカマーランドだった。


「大事な人を追ってインペルダウンに侵入したって!?ここがどんな場所だか解ってて言ってるのかい!?」

色々な意味でインパクトのある容貌のイワンコフは、なまえの説明に巨大な目を丸くした。

「ヴァッキャブルね!!ヴァターシも随分長く生きてるけど、こんなヴァッキャブルな子は初めて見たよ!!」

なまえは神妙な表情でイワンコフを見上げていた。
確かに自分は馬鹿かもしれない。
惚れた男を追いかけて、この世の地獄と呼ばれる監獄に自分からやってきたのだから。

イワンコフにキャンディーズと呼ばれるここの住人の中には、なまえの話に感動して貰い泣きをしている者もいた。

「でも、その覚悟は気に入ったわ。好きなだけここにいナッサブル!」

「有難うございます!」

なまえとしては、ただ近くにいられれば良かったのだ。
いつかクロコダイルが自分から脱獄する気になったら、その時は彼と一緒に行こうと考えていたのである。
それまでは何があっても踏ん張って待ち続ける覚悟でいた。

だが、意外にもその日は直ぐに訪れたのだった。


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