クロコダイルの身柄がインペルダウンに移送されてから暫くして、なまえは病を患って死の床についている一人の老人のもとを訪れた。

その年老いた男は、かつてインペルダウンから脱獄した事があるのだという。
しかし、そう語ったせいで、村中の人間から大嘘つきだと嫌われ、避けられており、荒れた土地の片隅に独りきりで住んでいた。


「……海底だ……」

ゼイゼイと苦しげな息の下からかろうじてそう告げると、男は激しく咳き込んだ。
暫くそうして咳込み続け、ようやく呼吸が元に戻ったところで、また弱々しい声で続ける。

「インペルダウンは海王類の巣に囲まれているせいで、海底の警備が薄いのさ……」

そう言って、男は、ヒッ、ヒッ、と息を詰まらせるようにして笑った。
眼窩は髑髏のように落ち窪み、目の下には黒々とした隈が出来ている。
なまえにさえもう永くはないとはっきり解る程に明らかな死相が浮き出ていた。

「当然だわな。どんな強力な能力者も海中では無力だ。そして、能力者でないただの普通の人間が、誰が進んで海王類の巣に飛び込もうと思う?」

かつての姿を偲ばせる不敵な笑みを湛えた男がなまえを見上げる。

「海底の……恐らくレベル4辺りの深さの壁に、人間が一人入れるくらいの大きさの取水溝と排水溝がある。…そこから俺は出た……出るには出たが、入れるという保証はねぇ。もしも本当にそこから侵入しようと思っているなら自殺行為だぜ……」

男の目がなまえの目の中の決意を読み取り、今にも力尽きようとしているその手がなまえの手をしっかりと握った。

「あんたは俺の話を信じてくれた。嘘だと笑ったり馬鹿にしたりせずに、こんな俺を信じてくれた……。俺はインペルダウンの連中よりも一足先に地獄に逝くが、あんたは死ぬなよ、お嬢ちゃん。生きて大事な人とやらに会えるように願ってるぜ」


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