04

一人で入るには広すぎるお風呂から上がり、スキンケアなどを済ませて、ペタペタと足音を響かせながら廊下を歩く。春と言えど少しひんやりと感じるそれは、お風呂上がりで熱った身体には丁度良かった。

「おー!紬!」
「あれ、西谷。これからお風呂?」
「いや、ちょっと来い」
「え?え?」

ぐいぐいと強引に腕を引かれて連れて来られたのは、先輩たちも居る男子部員の大部屋だった。女子禁制かのような部屋の空気に、入るのが躊躇われる。
しかし、そんなことをお構いなしにこの男は私の腕を引いて、その部屋に引き入れた。

「おー!来たか遠藤!」
「西谷田中、連れてくるのって遠藤さんのことだったのか……」

怒られるかと思いきや、先輩たちは私が部屋に入ってきたことにすら気づいていない。または気づいていたとしても全く気に留めていなかった。その雰囲気にほっと胸を撫で下ろしつつ、西谷は1年生が円になって座っているところまで辿り着くと、やっと私の腕から手を離した。

ここに来いとばかりに田中と縁下くんの間に隙間があったので、大人しくそこに座り込む。西谷は縁下くんと木下くんの間にどかりと胡坐をかいた。

「それでは」
「第一回烏野一年トランプ大会」
「「始めるぞー!」」
「なんだそれ」

なんだそれ、と思っていたら隣から同じようなツッコミが飛んできて目を見開く。縁下くん、前々から思っていたけど、もしかしたらエスパーなのかもしれない。
じっと見つめてみると、一瞬目が合ったものの何故かすぐに逸らされてしまった。

「で、なんで私連れて来られたの?」
「何言ってんだ、紬も烏野1年メンバーだろ!皆でやるんだよ!」
「う、ウス…」

西谷の言葉に、田中もそうだそうだと圧強めに頷く。これは受け入れるしか無いようだと悟った私は、腕をまくってトランプに向き合った。

こうして、第一回烏野一年トランプ大会は幕を開けたのだった。


「うわぁ、また負けた!」
「お前弱いな!」
「遠藤、思ったより顔に出やすいんだな。チョロい。」
「どんまい、遠藤さん。」

口々に言いながらゲラゲラ笑う人たちを、私はじとりと見つめる。6回目のババ抜きで、私は何度目かのビリになった。元からババ抜きは苦手だった。自覚はないが、どうやら顔に出やすいらしい。
だから嫌だって言ったのに!と文句を垂れていると、「次もババ抜きなー!」と、成田くんの鬼のような声が聞こえた。私、どれだけジュース奢らされるんだよ。

はぁ、と溜息を吐いたところで、頭上から声がする。

「おー、盛り上がってんな」
「仲良いんだなぁ、お前ら」

顔を上げると、お風呂上がりであろう菅原先輩と東峰先輩が私たちを笑いながら見下ろしていた。
菅原先輩のお風呂上がり…。髪の毛サラサラしてるし、この距離でもシャンプーのいい香りがしてドキドキしてしまった。いやいや、憧れの先輩、という意味で。

「あれ、遠藤ちゃん負けたの?」
「はい…帰ったらジュースを奢らされます……」
「はは、そりゃー災難だな」

菅原先輩は、ちっとも災難だなんて思っていなさげにクスクスと笑う。それでも、先輩が笑ってくれるだけで胸がぎゅっとなった。

「スガさんと旭さんもやりますか!?」
「いや、俺らはいいや。一年で楽しみな」

そんな会話もそこそこに、トランプ大会ならぬババ抜き大会は、その後も長きに渡って白熱した試合を繰り広げた。わーきゃー騒ぐ私たちを、先輩たちは暖かく見守ってくれている。
1年仲良いなぁ、羨ましいなんて声を背中に受けながら、私は惨敗を喫していた。私の醜態を先輩方に晒してしまったかと思うと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

「紬、休み開けたらよろしくな!」
「俺、四ツ谷サイダーな」
「俺、コーヒー牛乳」
「俺はフルーツ牛乳」
「ッチ………」

こうなるなんて分かっていたら、西谷に着いてきたりしなかったのに!と心の中で地団駄を踏む。

口ではそんなことを言いながらも、寂しさを紛らせてくれた皆にはちょっとだけ感謝だ。というのはまだ秘密にしておこうと、未だ飲み物の商品名を並べる1年部員たちを睨みつけた。

◇◇◇


「おーい、遠藤、」

大部屋に大地さんのよく通る声が響く。主将を含めた3年メンバーは、ちょっと席を外すと言って部屋から出て行ってしまった。結局、残された1・2年全員でトランプ大会が始まったのだ。
それはもう大いに盛り上がり、ジュースを賭けてババ抜きを繰り返した。

もう何度目かのババ抜き。遠藤の番なのに声が聞こえないと横を見ると、隣の彼女はこくりこくりと船を漕いでいた。いきなり静かになったと思ったら、電池切れか。座ったまま寝るなんてすげぇな。
手に持っていたトランプが散らばり、そこにババが含まれていたと気づいた時は全員が爆笑していた。

「いやー、ぜんっぜん起きねぇな。」
「ここに寝かせとけばいいんじゃないスか?」
「それは流石にマズいんじゃ……」

俺の提案は、大地さんと旭さんにバッサリ切り捨てられる。

「部屋まで連れてけばいい?」
「す、スガ…お前、まさか……!」
「え、何、可笑しい!?」

1人のマネージャーを取り囲んでワタワタする部員たち。スガさん、それはまさか…!

「お、おひ、……お姫様……だっ…こ……」
「うわ、そっか、確かに…じゃあ、おぶる?」

何も考えていなかったのか、スガさんは自分の提案を自分で一蹴した。再び全員で遠藤を取り囲む。
しばらくの話し合いの結果、やはり一番手慣れていそうなスガさんが、遠藤をおぶって部屋まで連れて行くことにした。先輩はやっぱりすげぇ。

「なんか、すっげぇ女の子の匂いがする。……って、やべ、俺セクハラ!?」
「確かに、紬っていつもいい匂いするよな!龍!」
「あぁ、確かに……言われてみれば?」

ノヤさんの言葉にこくりと頷くと、スガさんの赤い顔と、大地さんの焦った表情が目に入る。

「お前ら、全員アウトだ。」

スガさんは、遠藤をおぶって軽々立ち上がると、そのまま部屋から消えていった。男の俺でも、あれはすげぇ格好良いと思ったし、改めて遠藤は女子なんだと思った。確かにいつも甘い匂いがするしな。
まぁ、俺は一生潔子さん一筋だけども!

そんなこんなで、はじめての合宿1日目の夜は更けていった。
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