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長期だから気合いを入れなければと思っていた合宿も、とうとう最終日。

「1週間の合宿お疲れ、諸君。」
「「したーーッ!!」」

猫又先生の労いの言葉は、正直極限まで腹ペコの選手たちの頭には入っていないようだ。目の前には、たっぷりの肉と野菜とおにぎり。そう、合宿最終日の今日のお昼はバーベキューだ。

選手たちはさっき内容を知ったらしいが、マネージャーである私は事前に先生から聞かされていた。マネの皆さんと大量の野菜を切ったり、運ばれてくる材料を運搬したり。体力仕事をこなした私たちマネージャーももちろん空腹。グゥグゥ鳴り出してしまいそうなお腹を必死に抑えて、いただきますの音頭を待った。

「「いただきます!!!!」」
「いただきまーすっ」

お肉にがっつく部員たちを横目に、私はマネさんズにお呼ばれして輪の中に入り込む。

「仲良くなれて本当によかったよ〜」
「私も本当に嬉しいです!」
「お付き合いしたら教えてね、スガくんと〜」
「なっ、声!大きいです!!」

焦って周りを見渡すと、先輩たちは楽しそうに笑った。いじられるのは恥ずかしいけど、白福さんたちと合同のグループチャットを作ってもらったのはとても嬉しくて頬が緩む。これでいつでも連絡できるし、マネージャー同士の情報交換も楽ちんだ。

ふと、遠くの方で他校の部員に囲まれている仁花ちゃんを発見した。私ちょっと行ってきますね、と声を掛けて向かうと、どうやら萎縮しまくっている様子。

「仁花ちゃん大丈夫?」
「密林…!」
「みつりん?」
「え、紬先輩!?すみません大丈夫です!」
「これあげるから、あっちで潔子さんたちとおしゃべりしてきなよ」
「ありがとうございますっ」

その場に東峰先輩がいたので状況を聞くと、お肉取ってあげようとしただけなのにビビられたらしい。面白くてケラケラ笑ってると、その場に菅原先輩と音駒の夜久さんもやってきた。

「おー、遠藤ちゃん食ってるか?」
「…はいっ、美味しいです!」

まさか菅原先輩に話しかけられるとは思っていなくて返事がワンテンポ遅れてしまった。特に変には思われていないだろうけど、なんとなくどきりとしてしまう。そして先ほどの赤葦くんの言葉を思い出した。

わかりやすい…。ほぼ初対面の人にそう思われたのなら、菅原先輩にはとっくに私の気持ちがバレちゃっているのではないだろうか。
少しでもそんなことを考え始めたら胃が痛くなってきた

「ちゃんと喋んの初めてだっけ?音駒の夜久です」
「あ、烏野の遠藤です」
「知ってるー、紬ちゃんでしょ」

私の名前を口にしてにかっと笑った夜久さん。プレーの様子を見ていてもっとクールな人なのかと勝手に思っていたけれど、少年って感じだ。話しやすくて、確かに菅原先輩と仲良く話しているのがしっくりくる。

「やっぱ烏野マネレベル高いよなー、ウチもマネージャー欲しいなあ」
「だべ?烏野クオリティ!」
「紬ちゃんは彼氏とかいんのー?」
「え!?」

菅原先輩と夜久さんが話しているのを聞いていたら、突然私に話が振られて変な声が出る。二人にじーっと見つめられるからどう言い訳しようなんて考えているうちに心臓がバクバクしてきた。

「かっ、彼、彼氏なんていないです!」
「ふーん?そっかあ」

夜久さんがニヤニヤしている気がしなくもなかったけど、この時の私は心を沈めるのに必死でそんなことを気にしている余裕なんてなかった。

◇◇◇


バーベキューの撤去も終え、これにて夏休み合宿遠征の全日程が終了。
怪我なく無事に終えられて安堵する気持ちと、次にこうやって集まれるのは一次予選の後という事実。もし予選を突破できなければ、このメンバーでここにくることはもう二度とない。

「自分が弱いのは嫌だけどさあ」
「あ?」

部員がバスに向かって歩く列の最後尾を歩いていた私は、ひしひしとそれを実感しながら後輩の声に耳を傾けた。

「自分より上がいるっつーのは、ちょーーおワクワクすんなー!!」
「?」
「ふは、さっすが日向。」

私が弱気になってどうするんだ。部員は上しか向いていないというのに。このバレー馬鹿な後輩たちは頼もしいと同時にいつも私に気づきをくれる。

「いつもありがとね」
「えっ!?アザス!??!」

バスに乗り込んで窓を開ける。お世話になったみんなが手をブンブン振ってくれているのを見て、勝手に心が緩んだ。絶対にまた、このメンバー全員でここに来る。次にここに来るときは絶対に宮城県予選で優勝して、春高出場を決めている。

「紬ちゃん連絡するねー!」
「彼氏できたら教えてね!」
「ちょ、声大きいです!!」

雀田さんたちはにやにやしながら私に声を掛けた。絶対に周りの人に変に思われてるよ…。
隣にいる潔子さんに助けを求めたけど、困ったように眉を下げて笑うだけだった。まあまあって宥められつつ、この状況が可笑しくて仕方ない。きっとこれからもいじられるんだろうけど、それ自体が嫌なわけではない。寧ろ青春って感じだ。

「絶対にまたみんなで来ましょうね。」
「うん。来よう。」

窓から見える地平線に夕陽が傾き始めていた。ジリジリと熱がアスファルトを焼いていく。
大一番の予選大会を控え、恋はさらに加速していく…予感。


いとしくって反吐がでるね
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