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東京遠征を終え、とうとうこの日がやってきた。

昨夜、沙良とみっちゃんがいるグループチャットで作戦会議が開かれ、私のファッションショーが始まった。気合を入れすぎるのもアレだけど、せっかくデートならば最低限のおしゃれをするのは礼儀だろう!と言われてしまったから。
彼氏持ちのみっちゃんに言われたら従うしかない。服もメイクも最低限のものしか持っていない私を救ってくれたのは沙良だった。部活がお休みの日はメイクとかばっちりで出かけてるんだって。知らなかった…。

『ばっちり!せっかくなら楽しんでこい!』
『紬かわいいよ〜!!』

二人からのメッセージに頬を緩ませていると、家のインターフォンが鳴る。

「よし、行こうか」
「…徹くん!」

どこかで待ち合わせかと思いきや、家まで迎えに行くから!と連絡が来た。待っている間はそうでもなかったけれど、いざ私服姿の徹くんがお迎えにきてはドキドキしてきた。別に見慣れているはずなのに、スラックスにシャツっていうシンプルなコーディネートなのはキマっているのは、やっぱり顔が良いからなんだろうか…。

玄関で靴を履き替えて外に出ると、夏って感じの青空が広がっていた。駅に向かって歩きながらふと思う。今日、どこに行くんだろう?

◇◇◇


電車を乗り継いでやってきたのは、大きめのショッピングモールだった。

「これ付き合ってほしくてさ」
「映画?」
「うん。男一人で恋愛映画なんて観れないじゃん?」

何をするんだろうと見上げると、お財布から映画のチケットを取り出して私に見せた徹くん。書かれてていたタイトルはCMをみて気になっていた恋愛ものだった。

「紬が好きそうだなって思って。あたり?」
「うん、気になってた!」

まさか公開期間中に観に行ける機会があるとは思わなかったから半ば諦めていたけれど…。嬉しくて足取りが軽くなる。

「ポップコーン、何がいい?キャラメル?」
「うん!え、なんでわかるの」
「まあね。何年幼馴染やってると思ってるの」

久々にきた映画館の空気に浮ついているうちに、サラッとお会計を済ませてくれた徹くん。それにしてもやっぱり、想像はしていたんだけどさ。

(慣れてる、よなあ…)

映画のチケットを事前に取ってくれたり、お金サラッと払ってくれたり。そういえば混んでいる電車の中で壁になってくれたりとか、してたな。今まで彼女いないわけないだろうけど、あまりにもスマートすぎて同じ高校生であることすら不思議に思えてしまう。
そんなことをぐるぐる考えてたら、どんな顔してんのって笑われてしまった。

映画は、想像していた通りとても面白かった。
片想いと片想いがどんどん積み重なっていく切なくも甘いラブストーリー。俳優さんがかっこいいな、っていうだけの興味だったけど今の自分の気持ちと重なる部分もあって胸が苦しくなった。ラスト、登場人物の想いがぶつかり合うシーンではちょっとだけ泣いてしまった。隣に座る徹くんもずっと真剣に観ていたみたいだから、それについてはバレていないといいな。

「面白かったね、観られて良かったな」
「泣いてたしね」
「えっ」

ふと私のことを弄るみたいに口角を上げた徹くん。私の願いは儚く散っていったようだ。

「主人公に共感でもした?」
「ん、まあ…。」
「へぇ。うまくいってないわけ、好きな人と」
「う…」

好きな人、という言葉を強調しながら徹くんは言う。ショッピングセンターの中にあったチェーンのカフェで向き合いながら映画の感想を話し合っている最中だった。菅原先輩の顔が浮かんで、映画のストーリーに入り込んでいた時みたいに胸がキュッとなる。
うまくいっていないのか、と問われれば、どうなのかわからないというのが本音。

「……わかんないや」

気まずくなると悲しくて、話せると嬉しくてドキドキして、でもどうしてそんな行動を取られるのかわからない時の方が多くて。最近はそれに一喜一憂させられてる感じ。

「ふーん、じゃあさ、教えてあげようか」
「え?」
「お前、恋愛とかちゃんとしたことあるの?告白とか、相手が自分のことどう思ってるとか理解できんの?」
「わ、わかんないけど…」

ちょっと責められてるみたいな気分になってきて視線を下に逸らすと、大きな手のひらが頭に乗る。

「あー、ごめん、そういうつもりじゃ、なくて。」
「…?」
「…別に相手は、その人じゃなくてもいいじゃん。ってこと」

なんだか真剣なその表情を見て、テーブルの下で拳を握り締めた。その先を聞いてしまったら後戻りができなくなりそうで、でも、目を逸らすことができなくて。どうしようもない気持ちを抱えてその先の言葉を待つしかできなかった。
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