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合宿二日目。今日の初戦は音駒高校だ。
昨日から引き続き、音駒とは通算3セット目。まだ一度も勝利を収めていない。

スコアボードをつけながら私は音駒のハーフの子に釘付けだった。前回の練習試合には出ていなかった子だから、昨日から気になっていたんだけど。今朝日向とフランクに話しているのを目にしたので、きっと1年生なんだろう。

どうやら技術はまだそんなに…って感じだ。だけど、その長身と長い手足はかなり武器になっているようで、日向のスパイクもしっかりブロックされている。ブロックだけじゃない。スパイクだってそんなに威力があるわけではないにしても、ちょっとジャンプして打ち下ろすだけでブロックの上からになって、レシーブも拾いにくい。

「…すごいなあ、あの子」
「お前もそう思うか」
「きっと、このままじゃ…」

勝てない。慌てて言葉を飲み込んだけれど、きっとコーチにはこの先の言葉が伝わってしまっているだろう。隣にいるコーチがぐっと唇が噛むのを見てしまった。

「えっ」

菅原先輩の焦った声がして、慌ててコートに視線を戻す。そこには、東峰先輩に上がったトスに向かって高く飛ぶ日向の姿があった。

「あぶなっ…」
「!?」
「アッ!?」

そのまま東峰先輩と衝突した日向は、背中からコートに落ちた。慌てて救護バッグを手に立ち上がるけれど、それより早く日向が起き上がって先輩に頭を下げていた。どうやら身体の方は大丈夫そうなので、ホッとして改めてベンチに腰掛ける。

それにしても…、今のは完全に東峰先輩へのトスを奪い取りに行ったように見えた。
今まで上がったトスに対して食らいついて、目を瞑って打ち下ろしていただけの日向だったけれど、もしかしたら心境に変化でもあったんだろうか。この合宿で、いろんな人から影響を受けたりしているのかもしれない。そう思うとなんだか嬉しくて、それが飛雄にも伝播したらいいのにな…なんて考えたりした。

「なぁ影山、俺、目ぇ瞑んのやめる」

ぴり、と空気が変わる。
確実に飛雄の機嫌が悪くなり、チーム全体が引き締まるのがわかった。それでも日向の目は真っ直ぐで、きっと考えがあることは一目瞭然だ。

飛雄は頭ごなしに無理だと言っていたけれど、もう少しなんとかなんないのかな。

「日向と影山くんがギクシャクし始めたの、気のせいじゃない…ですよね…」
「うん…」

日向と飛雄だけじゃない。
東峰先輩と日向の接触のせいもあって、全体がピリピリしているように感じる。

結局午前中はそんな空気が拭いきれないまま、一勝も出来ずに終わってしまった。


「紬さん」
「ん?どうしたの、飛雄」
「及川さんって、」

お昼ご飯を食べて、束の間の自由時間。みんながバラバラに談笑している中で、片付け中の私に声をかけてきたのは飛雄だった。ちょっと後ろめたそうに私の名前を呼ぶその姿は、どことなく中学の時を彷彿とさせて自然と眉が下がってしまう。
きっと日向のことだろうなあと思ったけど、出てきた名前は思いがけない人のもので。

「及川さんは、なんであんな人を“活かす”セットアップができるんすかね」
「…」
「俺、日向が目ぇ瞑るの、理解できないんです。絶対安パイ取ったほうがいいに決まってる」
「うん、その気持ちもわかる、かな」
「及川さんはどうして、」

まさか徹くんの名前が出てくるとは思わなかったから、頭が追いついていないまま飛雄の真剣な表情を見つめてしまった。

「徹くんのことは、私にはわかんない。けど…飛雄はどうして、そんなに徹くんに固執してるの?」
「え、それは、日向にああ言われた時に真っ先に及川さんの顔が浮かんで、」
「飛雄は、飛雄でしょ。」

彼は私の言葉に目を見開きつつ、どこか安堵の表情を浮かべているような気がした。でもまさか、飛雄がそこまで徹くんに執着していると思わなかった。プレイで迷った時に、真っ先に思い浮かぶ相手が徹くんなんだ…。
私に聞かれてもわかんないよ、という言葉が出そうになったけれど、そこはグッと堪えて話を聞いた。

「徹くんのプレイは徹くんにしかできないみたいに、飛雄のプレイは飛雄にしかできないから。それでもどうしても聞きたいときは、本人に聞いたらいいんじゃないかな…」
「ありがとうございます、そうします」

…そうするんだ。相変わらず素直な飛雄を見たら張り詰めていた気持ちもなんだか落ち着いてきて、きっとこの子たちは大丈夫だななんて無責任に思ってしまった。
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