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日向と飛雄がやってきてやっとフルメンバー揃った烏野は、本日最後の森然高校との試合でやっと一勝を手にした。フラストレーションが溜まっていたのか、速攻がバッチリ決まって初勝利。終わりよければ全てよし…ってわけじゃないけど、なんとか他校の人たちを見返すことができて、私もなんとなくホッとしてしまった。

そんなこんなで初日の練習は終了。
部員たちが自主練に励んでいる間、私たちは夕食作りだ。何度も言うけど梟谷グループの合宿自体は毎年恒例みたいで、マネージャーの他に父兄の方々も手伝いに来てくれていた。

「あ、紬ちゃん、と…烏野のマネさんたち、こっち!」
「雀田さん、お疲れ様ですっ」

声を掛けてくれたのは午前中に知り合った梟谷のマネさんたち二人。何かしらお手伝いしなきゃとは思っていたけど、勝手がわからず困っていたので助かった。
その旨を伝えるとテキパキと指示をくれて、無事に夕飯作りを開始する。

今までは合宿といえど、烏野だけのものしか経験してこなかった私。最大規模でも中学時代の2校合同合宿のみだ。なめてた、完全に。

「量、エグい…」
「そうでしょう。自分達食べる気無くなっちゃうよね」
「そう?私はお腹すいたよ〜」
「雪絵はそういうの関係ないもんね」

4校の部員全員分の食事を用意するのは、想像以上に大変だった。人手も多いはずなのに、消費量が多いせいで手が足りなく感じてしまう。生川の宮ノ下さん、森然の大滝さんとも挨拶をさせてもらって、8人で食材を切り、茹で、炒め…。
昨晩から移動して準備して動き回っていたからお腹は空いているはずなのに、大量のご飯を用意しているとそれだけで満たされた気分になってしまう。

やっと完成したところで続々と部員たちが食堂に集まってきて、息つく暇なく配膳に取り掛かる。まだまだ働くぞ!

◇◇◇


「ふう…」
「…え、」
「あ、…え?」

慣れない環境で体力の消耗が激しい1日目。ご飯の準備を終え、自分達はかきこむようにご飯を無理やり食べて片付け。やっとゆっくりお風呂に入ったかと思えば、合宿恒例行事のトランプ大会に誘われて必死に逃げ出しやってきた自販機の前。

完全に気を抜いていたので気づかなかった。目の前に人がいたにも関わらず、横からピッと電子マネーを翳して飲み物を買ってしまった。がこん、とペットボトルが落ちる音と同時に近くで聞こえた間の抜けた声。
バッと振り返るとそこにいたのは男子生徒だった。この人は確か…えーっと、

「…梟谷の、セッターさん」
「どうも」
「っあ、すみません!横入り……」

きょとんとした表情でこちらを見ていたのは、梟谷のセッターだった。確かセッターは副主将だって言っていた気がする。
完全に視界に入っていなかった私は、半歩後退りしながら頭を下げる。多分先輩だから、とんでもなく失礼なことをしてしまった。どうしよう、嫌な印象を与えてしまってたら…!

何度か頭を下げると、くすくすと小さく笑う声が聞こえて顔を上げる。

「別にいいですよ。お疲れ」
「あっ…ありがとう、ございます」
「なんで敬語…。2年でしょ?」
「え、はい」
「俺も2年なんで」

驚いた。あのエースの人とずっと一緒にいるし、完全に3年生だと思ってた。
全てが顔に出ていたのか、彼はまたおかしそうに笑いながらお目当てであろう飲み物を手に取る。

「…分かりやすいよね、君」
「えっ」
「なんか、顔見れば言いたいことわかる。ちょっと木兎さんみたい」

彼のいう木兎さん、と言うのは例のエースのことだろうか。明るくて溌剌とした雰囲気を纏っているという印象。そんな彼と私は似ても似つかないような気がして眉を顰めた。

「そんなことないだろ、って顔」
「なんっ…」
「言ったじゃん。わかりやすいって」

私の反応を見て、彼は愉しそうに口角を上げた。これは、揶揄ってるやつだな、絶対。

「あかーし!早く!!」
「はい、今行きます」

遠くから木兎さん、の声がして彼が振り返る。じゃあまた、と片手を上げて去っていく後ろ姿を唖然と見つめていた。彼は赤葦くんというのか、覚えたぞ。
クールそうに見えて案外そうでもない同い年の男の子。

それにしてもわかりやすいって初対面の人に揶揄われるのってどうなんだろう。私ってそんなにわかりやすいかな…?

確かに、徹くんと何かあった時も、菅原先輩が好きだと言うことも、ことごとく身近な人に当てられている気がする。同級生とかならまだしも、潔子さんにも菅原先輩が好きだということがバレてしまっているのには驚いた。はっとして背筋がヒヤリとする。赤葦くんが言うわかりやすいって…まさか、そういうこと…?
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