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扇西高校との練習試合を終えて、谷地さんが正式入部となった。
潔子さんに聞いた話だと、入部を悩んでいた谷地さんに日向が一役買ってくれたらしい。何回やってもジャージ着てようこそ!ってやるの好きだなあ。

「谷地さん!って堅苦しいから、私も仁花ちゃんって呼んでいいかな?」
「は、はい!紬さん…?」

おずおずと首を傾ける姿はまるで小動物。ぎゅっと抱きしめたくなるのを懸命に堪えて頷くと、同じように頬を緩ませてくれた。後輩、可愛い!


そしてとうとう迎えた東京合宿!…なんだけど。

「なんか人足んなくねぇか」
「あぁ、実は…」

そうなのだ。私も田中と西谷につきっきりになっていたので状況は知らないのだけど、日向と飛雄が一教科ずつ追試になってしまった。その追試の日が合宿開始日の今日、ということで…

「ブフォ、追試って!マジかよ」
「…大真面目だ」

頭を抱える澤村先輩と、爆笑する音駒の主将である黒尾さん。
その光景を視界の端で捉えながら、私は目の前で繰り広げられる光景に苦笑を浮かべていた。仁花ちゃんがマネージャーとして加入したことにショックを受けた山本くんと、それを見て高笑いの田中。私にとっては前回の練習試合で見慣れた光景だけど、隣にいる仁花ちゃんと潔子さんは完全にドン引きしている。

逃げるように二人の背中を押しながら体育館に入ると、そこにはもうすでに多くのバレー部員たちが準備を始めていた。

音駒にはマネージャーがいないことは知っていたけれど、グループ全体で見るとそうでもないらしい。ぱっと見で女子生徒が三人、パタパタと動き回っていた。
私たちも荷物を片付けて準備に取り掛かる。

「あ、烏野のマネさん!こっちに」
「は、はいっ」

とりあえず水道はどこかと辺りを見渡している挙動不審な私に声をかけてくれたのは、梟谷のジャージを纏った女の子二人。きっと先輩だろうなと察しながら軽く頭を下げると、ふわりと微笑みかけてくれた。
か、可愛い…!潔子さんも美人だし仁花ちゃんも可愛いけど、二人ともまた違ったかわいらしさだ。

「私、梟谷の雀田です。よろしくね」
「同じく雪絵だよ」
「かっ、烏野の遠藤紬です!今回はよろしくお願いしますっ」
「えーっ、なにこの子!超可愛いんだけどっ」

改めて頭を下げると、まだ結われていない髪の毛を軽く乱すように撫でられる。雀田さんはどうやらお姉さん気質の人みたいで、可愛い可愛いと愛でてくれた。烏野にはあまりいないタイプでちょっとだけ驚いたけれど、嬉しい。緩んだ顔を隠すように手元のボトルに集中した。

戻ってみるともうローテーション形式で行われる試合は始まっていて、慌てて定位置にボトルを設置する。雀田さんと雪絵さんとは流れで別れてしまった。色々教えてもらったのにちゃんとお礼が言えなかったな…、後でしっかり挨拶しよう。

「お待たせしました!」
「おかえり紬ちゃん。水道の場所とか後で教えて貰えると助かる」
「はいっ 勿論!」

潔子さんはスコアボード、仁花ちゃんは山口と一緒に得点板をやっていた。私は…と辺りを見回すと、もう一方のコートではちょうど試合が終わったようだった。

こちらを見ていた音駒の生徒一人とばっちり目が合う。あの人は確か、前回の練習試合の時に日向と喋っていたセッターの子…、そう、弧爪くんだ。観察力に優れていて、チームの影の司令塔という感じだ。交わった視線はすぐに逸らされてしまったのでそれ以上はなにもなかったけれど、なんとなく私のことを見ていた気がして気になってしまった。

飛雄と日向がいないチームは、本調子ではないとはいえ惨敗を喫していた。弱いわけではないけど、強力な決定打がない。正直なところそれは事実で、数字にも現れている。

「フライング一周ー!」
「「オーッス!!」」

他校の生徒があいつらペナルティ何回目だよ…と溢しているのが耳に入ってしまい、思わずこちらも眉を顰めた。確かにここまで0勝8敗。フライングめちゃくちゃ上手くなりそうだな!とゲラゲラ笑った西谷にも苦笑で返すしかなかった。

「うちはこんなんじゃないのに、悔しいですね」
「でも、そろそろじゃない?」
「うす、無事でいてくれよ…」

そう、予定ではそろそろ来るはずなのだ。彼らが。

「おっ、まだやってんじゃん!間に合ったね、上出来!!」
「姐さんっ」
「…無事だったか!!」

田中のお姉さんに続いて体育館の扉を開けたのは、当たり前だけど待ち望んでいた彼らだった。
これで烏野排球部フルメンバー。言われっぱなしはここまでだ!
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